刃を交えて。#9 Side Red

文字数 1,053文字

「あとこれを下げればおしまい。てんちゃんそっち持って」
「おっけー」

 バスドラムを二人がかりで持ち上げて、物品収納用の教室へ向かう。これであたしたちが担当する片づけは終了。すでに何往復かして、その間に今日のライブはどうだったとか、明日はここをこうしてみたいとか話が盛り上がるけど、てんちゃんに肝心なことを話せていなかった。

『メインはこの三人、ボクはあくまでサポートで、正式メンバーじゃない』
『そんなこと気にするのは、揚げ足取りたがるあんたぐらいだよ』

 さっき、ナンシー先輩に言い放った言葉。その言葉が、なぜかあたしの心にも突き刺さる。
 違うんだよてんちゃん、気にしてるのは先輩だけじゃなくて……

「ナオ」

 あたしが口を開くより先に、てんちゃんが切り出した。

「なに?」
「学園祭終わったら、ちゃんとドラムメンバー探しなよ」
「……え?」

 思わず足を止める。てんちゃんは「疲れた? いったん降ろす?」とはぐらかすように訊いてきたけど、そういうことじゃない。

「てんちゃん、なんで……?」
「正規のメンバーでやれば、あんなこと言われなくて済むよ。ひとりサポートだからって悪く言われるのは気に食わない」
「あんなのただの言いがかりだよ。あたしたちは気にしてないし。てんちゃんだって言ってたじゃん、そんなこと気にしてるのは先輩だけだって……」
「ボクが気にするんだよ」

 強めの口調で、でも静かにてんちゃんが言い切った。何も返せないまま、再び歩き始める。
 教室に着いて、指示された場所にドラムを置いてから、てんちゃんが「これは提案だけど……」と話し出す。

「明日のライブで、メンバーを募ってみたらいいんじゃない? 大勢の人にアプローチできる機会もそうそうないし、チャンスだと思う」
「そんな、チャンスって……」
「もう作業残ってないよね、ボク帰るから」

 勝手に話を切り上げて教室を出ようとするてんちゃんを「待って!」と引き留める。

「てんちゃん、あたし……」
「メンバーにはならないよ。最初に言っただろ」

 あたしの言葉は、最後まで言わせてすらもらえなかった。
 てんちゃんが出ていったドアを見つめて、あたしはどうしたらいいかわからなかった。このまま、てんちゃんがサポートじゃなくなっちゃったら。あたしたちから離れていったら……
 ひとり取り残された教室に、アンプを片付けにちーちゃんとまきちゃんが現れる。

「ちーちゃんまきちゃん、あたし……」

 泣きそうな声のあたしに、まきちゃんが強く言った。

「なおっちゃん、今日の放課後作戦会議するよ!」
「……へ?」
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登場人物紹介

★アナウンス★

・アイコンイラスト(ちびキャラVer)を追加しました。

(2020/07/24)


・奈桜・真希・千夏の夏私服と所有楽器のイメージイラストを

ツイッターに公開中です。

*第2章-#3 を読んでからご覧いただくとより楽しめるかと思います。

斉藤 奈桜《さいとう なお》


高校二年生。いつも明るく、誰とでも仲良くなれる少女。

バンドではギター・ボーカルを務める。

佐倉 千夏《さくら ちなつ》

奈桜の同級生。学校ではおとなしい文学少女。

バンドではギター担当。

井川 真希《いがわ まき》

奈桜の同級生。薙刀部所属の文武両道少女。

バンドではベース担当。

富士森 天音《ふじもり あまね》

千夏のバイト先の店長の娘。高校一年。

バンドにはドラムのサポートメンバーとして参加。

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