夏が、はじまる。#6 Side Red

文字数 1,090文字

「え……あたしがなに?」
「軽音楽部、見学してたんだよね。なんで入らなかったのかなって。ちやほやされたい()()なら、最初からあそこにいそうだけど」

 うっ、言葉に詰まる。バレてる。バレてるというか、

「たぶん、ちーちゃんと同じ……なのかな」

 ちやほやされること自体は、ぶっちゃけそんなに嫌いじゃない。どちらかといえば目立ちたがりだし。
 ただ、部活に入らなかった原因はそこじゃない。雰囲気というか、目指すものというか。今までうまく言えなかったけど、あたしがあの場所に抱いてた違和感を、彼女がいま的確に(あたしが思ってた以上に手厳しく)言葉にしてくれたような気がしたんだ。

「別に、仲良くなれないとかじゃなかったんだ、今でも、友達たくさんいるし。でも、なんか違うなって、ここで、あたしのやりたいことやれるのかなって。誰と組んでバンドやってるのも、想像できない、っていうか……」

 うまく言えない言葉も、ちーちゃんはうん、うんって頷きながら聞いてくれた。真っ直ぐなその目を見て、こんな人がいたら、多分部活に入ってたな、なんて思っちゃう。こんなふうに真っ直ぐに、音楽に向き合う人と一緒なら……

「……ねえ、ちーちゃん」
「なに?」
「やろうよ、バンド」
「……は?」

 初めて、彼女の声が上ずった。明らかに面食らった顔をしてる。っていうかびっくりした顔も美人ってずるくない?
 ……じゃなくて、

「あたし、ちーちゃんとなら、なんかすっごいことできそうな気がする」
「待って、あの、話が急……」
「ちーちゃんがやりたいのは遊びじゃないんだよね? じゃあやってやろうよ。あたしたちで、あいつらより何倍もマジなやつ!」
「ナオ、落ち着いて」

 今度こそ、ちーちゃんがあたしの肩を掴んだ。自分でも多少暴走してることはわかってる。わかってるけど、これを逃したらこの先ずっと後悔しそうな気がして。今しかないって、頭の中でもう一人のあたしが叫んでる気がして。だから、

「だから……やりたいの、バンド!」
「わかった、ナオ。わかったから」

 肩を掴む力は強いけど、あたしの顔を覗き込むちーちゃんの表情は、びっくりするくらい穏やかだった。

「ナオ。気持ちは嬉しいし、わたしも、やりたい」
「ほんと!?
「でも、バンドはふたりじゃできない。でしょ?」
「……あ」

 その一言に、一気に頭が冷える。何も言えなくなったあたしの肩を、ちーちゃんはもう一度、優しくぎゅっと掴んだ。その目は、変わらず真っ直ぐだった。

「だから、探そう。一緒にバンドしてくれる、マジな人」
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登場人物紹介

★アナウンス★

・アイコンイラスト(ちびキャラVer)を追加しました。

(2020/07/24)


・奈桜・真希・千夏の夏私服と所有楽器のイメージイラストを

ツイッターに公開中です。

*第2章-#3 を読んでからご覧いただくとより楽しめるかと思います。

斉藤 奈桜《さいとう なお》


高校二年生。いつも明るく、誰とでも仲良くなれる少女。

バンドではギター・ボーカルを務める。

佐倉 千夏《さくら ちなつ》

奈桜の同級生。学校ではおとなしい文学少女。

バンドではギター担当。

井川 真希《いがわ まき》

奈桜の同級生。薙刀部所属の文武両道少女。

バンドではベース担当。

富士森 天音《ふじもり あまね》

千夏のバイト先の店長の娘。高校一年。

バンドにはドラムのサポートメンバーとして参加。

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