あの音は待っている。 #7 Side Red

文字数 706文字

 てんちゃんは、握られた手をしばらく見つめてたけど、ちらりと上目遣いにあたしを見上げた。

「ボクなんかで、いいの?」

 あたしは「ううん」と首を横に振ってから、まっすぐにてんちゃんの目を見つめ返した。

「あたしたちは、てんちゃんがいいの。てんちゃんと、マジな音楽をやりたい」

 息を止めて、てんちゃんの返事を待つ。しばらく黙っていたてんちゃんが、聞き逃しそうなくらい小さな声で呟いた。

「……甘えてたのは、ボクのほうだと思ってたのにな」
「え?」
「ナオ、手、離して」

 おそるおそる手を離すと、てんちゃんは大げさなため息をついて手をぶんぶん振った。

「あーもう、強く握りすぎ。血流止まるかと思った」
「あ、ごめん……」

 小さく肩をすくめるあたしを横目に、てんちゃんは首の後ろに手を回した。

「こうなると、サポートというか準レギュラーみたいだけど……ね」
「……!」

 しゃり、と小さな音を立てて、てんちゃんの胸元に、黒いペンダントが提げられた。チェーンを整えながら、てんちゃんが仏頂面のまま訊いてくる。

「……どう?」

 あたしは気持ちを受け取ってもらえた嬉しさで、黙って頷くことしかできなかった。あたしの後ろにいた二人が、いっせいにてんちゃんに駆け寄る。

「準レギュラーでも、肩書きはなんだっていいわよ」
「そうそう、あたしたちが『仲間』ってことがブレなければ、ね!」

 二人に両側から抱きつかれて、てんちゃんはちょっと迷惑そうな顔をしながら、でも二人の肩をぎゅっと掴み返した。
 あたしもその輪に近づいて、てんちゃんの手にそっと手を重ねた。

「これからもよろしくね、てんちゃん……!」
「……うん」

 三人と一人の、あたしたちのバンドの形が完成した。
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登場人物紹介

★アナウンス★

・アイコンイラスト(ちびキャラVer)を追加しました。

(2020/07/24)


・奈桜・真希・千夏の夏私服と所有楽器のイメージイラストを

ツイッターに公開中です。

*第2章-#3 を読んでからご覧いただくとより楽しめるかと思います。

斉藤 奈桜《さいとう なお》


高校二年生。いつも明るく、誰とでも仲良くなれる少女。

バンドではギター・ボーカルを務める。

佐倉 千夏《さくら ちなつ》

奈桜の同級生。学校ではおとなしい文学少女。

バンドではギター担当。

井川 真希《いがわ まき》

奈桜の同級生。薙刀部所属の文武両道少女。

バンドではベース担当。

富士森 天音《ふじもり あまね》

千夏のバイト先の店長の娘。高校一年。

バンドにはドラムのサポートメンバーとして参加。

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