刃を交えて。#5 Side Yellow
文字数 1,316文字
「あたしも同じこと言われちゃった、『ボクはサポートなんだけど』って」
さっきの話をしたら、なおっちゃんも困ったように笑ってそう言った。
あたしたちはステージ横のテントで七組目、ナンシー先輩のバンドの演奏を眺めている。なおっちゃんが言ってたように、このバンドはけっこう人気みたいで、今まででいちばんギャラリーが多い気がする。
「たしかに、てんちゃんがサポートだってこと、最近忘れてたよね」
「うん、だって自分からいろいろやってくれるし。新曲のパート譜も、これだって……」
ワイシャツの胸元から、さっきもらったペンダントを引っ張り出す。なおっちゃんもポケットから同じような形の、深い赤色のペンダントを取り出した。
「あくまで『サポートとして』なのかな……」
呟いてみたものの、なんかしっくりこないというか。演奏面のサポートはともかくとして、初ライブのときの映像をもらってきてくれたり、お守りだって用意してくれて。
「あたしは……」
「二人とも、そろそろ準備して」
言いかけたそのとき、テントの中からちなっちゃんの声がした。慌ててテントに入る。そこにはてんちゃんとちなっちゃんが……
「ちーちゃん髪型! かっこいい!」
なおっちゃんが歓声を上げる。普段後ろでゆるくひとつに束ねてる髪を、前髪もいっしょにきゅっとハーフアップにしたちなっちゃんの姿は、いつもよりも凛々しく映った。
「今てんちゃんにやってもらったから、どうなってるかわからないんだけど」
「大丈夫、動いてもほどけないようにしっかりしてるから……普段と雰囲気も変わるし、いいと思うんだけど」
出来立ての髪型を気にしているちなっちゃんの後ろで、てんちゃんは満足げ。しきりに髪を気にするちなっちゃんの胸元で、濃いブルーのペンダントが揺れるのが見えた。てんちゃんはペンダントも、いつものループタイもつけてない。
(てんちゃん……)
と、実行委員がテントに入ってきて手招きした。前のバンドが終了した合図。ギターを手に取ったなおっちゃんが駆け寄って、ステージの様子を偵察する。てんちゃんが尋ねた。
「ドラム、空いた?」
「空いたよ、先輩が挨拶してる。このあとほかの子が片付け終わるまで先輩が話し続けるはずだから、それが終わったら……」
なおっちゃんの言葉に、てんちゃんがスティックを掴んだ手を挙げて応える。それに合わせて、あたしたちも拳を掲げた。
「それじゃ、作戦どおりに」てんちゃんが言う。
「いつもどおりに?」初ライブを思い出して、あたしが茶化す。
「いえ、今回は今までどおりじゃない」ちなっちゃんが言うと、なおっちゃんが答えた。
「そう、今まででいちばんを……!」
楽器隊の子たちが戻ってきて、最後にナンシー先輩がテントに入ってくる。と同時に、てんちゃんが一目散に飛び出した。それを怪訝そうに一瞥してから、先輩がちなっちゃんに目を向ける。
「ぼくたちの演奏、ちゃんと聴いてくれてたかい?」
「ええ、しっかりと……次はわたしたちの番です。言いましたよね、一音目から聴いてくださいと」
「そうだったね、片づけが終わったらゆっくりと……」
「そんな暇ありませんよ」
ちなっちゃんがそう言った瞬間、外からシンバルの音が聴こえた。
さっきの話をしたら、なおっちゃんも困ったように笑ってそう言った。
あたしたちはステージ横のテントで七組目、ナンシー先輩のバンドの演奏を眺めている。なおっちゃんが言ってたように、このバンドはけっこう人気みたいで、今まででいちばんギャラリーが多い気がする。
「たしかに、てんちゃんがサポートだってこと、最近忘れてたよね」
「うん、だって自分からいろいろやってくれるし。新曲のパート譜も、これだって……」
ワイシャツの胸元から、さっきもらったペンダントを引っ張り出す。なおっちゃんもポケットから同じような形の、深い赤色のペンダントを取り出した。
「あくまで『サポートとして』なのかな……」
呟いてみたものの、なんかしっくりこないというか。演奏面のサポートはともかくとして、初ライブのときの映像をもらってきてくれたり、お守りだって用意してくれて。
「あたしは……」
「二人とも、そろそろ準備して」
言いかけたそのとき、テントの中からちなっちゃんの声がした。慌ててテントに入る。そこにはてんちゃんとちなっちゃんが……
「ちーちゃん髪型! かっこいい!」
なおっちゃんが歓声を上げる。普段後ろでゆるくひとつに束ねてる髪を、前髪もいっしょにきゅっとハーフアップにしたちなっちゃんの姿は、いつもよりも凛々しく映った。
「今てんちゃんにやってもらったから、どうなってるかわからないんだけど」
「大丈夫、動いてもほどけないようにしっかりしてるから……普段と雰囲気も変わるし、いいと思うんだけど」
出来立ての髪型を気にしているちなっちゃんの後ろで、てんちゃんは満足げ。しきりに髪を気にするちなっちゃんの胸元で、濃いブルーのペンダントが揺れるのが見えた。てんちゃんはペンダントも、いつものループタイもつけてない。
(てんちゃん……)
と、実行委員がテントに入ってきて手招きした。前のバンドが終了した合図。ギターを手に取ったなおっちゃんが駆け寄って、ステージの様子を偵察する。てんちゃんが尋ねた。
「ドラム、空いた?」
「空いたよ、先輩が挨拶してる。このあとほかの子が片付け終わるまで先輩が話し続けるはずだから、それが終わったら……」
なおっちゃんの言葉に、てんちゃんがスティックを掴んだ手を挙げて応える。それに合わせて、あたしたちも拳を掲げた。
「それじゃ、作戦どおりに」てんちゃんが言う。
「いつもどおりに?」初ライブを思い出して、あたしが茶化す。
「いえ、今回は今までどおりじゃない」ちなっちゃんが言うと、なおっちゃんが答えた。
「そう、今まででいちばんを……!」
楽器隊の子たちが戻ってきて、最後にナンシー先輩がテントに入ってくる。と同時に、てんちゃんが一目散に飛び出した。それを怪訝そうに一瞥してから、先輩がちなっちゃんに目を向ける。
「ぼくたちの演奏、ちゃんと聴いてくれてたかい?」
「ええ、しっかりと……次はわたしたちの番です。言いましたよね、一音目から聴いてくださいと」
「そうだったね、片づけが終わったらゆっくりと……」
「そんな暇ありませんよ」
ちなっちゃんがそう言った瞬間、外からシンバルの音が聴こえた。