夏が、はじまる。#2 Side Blue
文字数 956文字
いわゆる「陽キャ」で「ギャル」な感じの彼女――斉藤 奈桜 が、どうしてわたしみたいな、教室の隅でおとなしく本を読んでるタイプの人間と仲良くしてくれるのか、実は未だによくわかっていない。音楽の授業で、名前順に座ったらたまたま隣だった、くらいしか接点がないのに、そこからなにかと声をかけてくるようになった。
もっとも、彼女は誰にでもそんな感じなのだけど。人見知りせず、物怖じせず、気づいたらみんなと仲良くなってるタイプ。わたしにはない才能。
だから今日のライブも、きっといろんな人を引き連れて行くのだろうと思ってた。でも意外なことに、いま彼女と一緒に連れ立っているのはわたしだけだ。
「他には、誰もいないの?」
わたしの問いに、彼女は「ん?」と一瞬首を傾げて、
「あー、あたしが声かけて捕まえたのは結局ちーちゃんだけ。他はみんなもともと行く予定だったか、行けない人しかいなくて」
「どうしても一人は自分で連れてかなきゃいけなかったわけ?」
「そーゆーこと」
「チケットノルマみたい、部員でもないのに」
ぼそっと皮肉ると、ナオはむしろ驚いたような顔をした。
「ちーちゃん、チケットノルマなんて知ってるんだ」
「……本で読んだことあるだけ」
とっさに取り繕った。彼女は「さっすが、物知りだね」と笑って、たどり着いた音楽教室の防音ドアに手をかけた。
開いたドアの隙間から、少しずつ音が溢れてくる。本番前のマイクチェック、チューニング、指慣らし、コーラスのハミング。
少しだけ速まる鼓動を押さえつけながら一歩中に入ると、そこに混ざってくる話し声、笑い声。人が増えるにつれて、楽器の音が止んで話し声ばかりになる。音より人との触れ合いを楽しむような、空気。それさえなければ、もしかしたら――
「ちーちゃん?」
少し前に陣取っているナオに声をかけられて、我に返った。気づけばステージには、一組目のバンドがスタンバイしていた。
ざわめきが残る中、ドラムのカウントから曲が始まる。どこかのアニソンだった気がした。リズムとしては一応揃ってるはずなのに、まとまりがなく、ばらばらに聴こえるそれぞれの音。
これが『精鋭バンド』か。わたしは壁に寄りかかって、腕を組んで、目を閉ざした。
もっとも、彼女は誰にでもそんな感じなのだけど。人見知りせず、物怖じせず、気づいたらみんなと仲良くなってるタイプ。わたしにはない才能。
だから今日のライブも、きっといろんな人を引き連れて行くのだろうと思ってた。でも意外なことに、いま彼女と一緒に連れ立っているのはわたしだけだ。
「他には、誰もいないの?」
わたしの問いに、彼女は「ん?」と一瞬首を傾げて、
「あー、あたしが声かけて捕まえたのは結局ちーちゃんだけ。他はみんなもともと行く予定だったか、行けない人しかいなくて」
「どうしても一人は自分で連れてかなきゃいけなかったわけ?」
「そーゆーこと」
「チケットノルマみたい、部員でもないのに」
ぼそっと皮肉ると、ナオはむしろ驚いたような顔をした。
「ちーちゃん、チケットノルマなんて知ってるんだ」
「……本で読んだことあるだけ」
とっさに取り繕った。彼女は「さっすが、物知りだね」と笑って、たどり着いた音楽教室の防音ドアに手をかけた。
開いたドアの隙間から、少しずつ音が溢れてくる。本番前のマイクチェック、チューニング、指慣らし、コーラスのハミング。
少しだけ速まる鼓動を押さえつけながら一歩中に入ると、そこに混ざってくる話し声、笑い声。人が増えるにつれて、楽器の音が止んで話し声ばかりになる。音より人との触れ合いを楽しむような、空気。それさえなければ、もしかしたら――
「ちーちゃん?」
少し前に陣取っているナオに声をかけられて、我に返った。気づけばステージには、一組目のバンドがスタンバイしていた。
ざわめきが残る中、ドラムのカウントから曲が始まる。どこかのアニソンだった気がした。リズムとしては一応揃ってるはずなのに、まとまりがなく、ばらばらに聴こえるそれぞれの音。
これが『精鋭バンド』か。わたしは壁に寄りかかって、腕を組んで、目を閉ざした。