夏が、はじまる。#4 Side Red
文字数 976文字
探し回ることもなく、彼女はすぐに見つかった。音楽室から続く廊下の奥、開け放しの非常階段にもたれて、グラウンドを眺めている。
近づいてくるあたしに気づいたのか、ちーちゃんはちらっとこっちを見て、
「ごめん、誘ってくれたのに」
と謝ってきた。話し方ははっきりしていて、ちょっと安心する。爆音にやられてくらくらしてるとか、そういう感じじゃなかったから。
「こっちこそごめんね、ちーちゃん。あーいうの、あんまり好きじゃなかった……?」
尋ねると、彼女はまたふいっとグラウンドのほうを向いて。ちょっと間を開けてから、
「……正直な感想、言っていい?」
「ん? なあに?」
「お友達もいるだろうから、気に触ったらごめん」
「だからなあに? 言ってみてよ」
またちょっと間を開けて、ちーちゃんは思い切ったように言った。
「へったくそ」
「……へ?」
えっと……何かの聞き間違い? こんなクールビューティから『へたくそ』なんて口汚い言葉が出てくる? ちょっと頭が状況飲み込むの拒否ってるんですけど。
でも、
「聴いてられない、あんなの」
眉をしかめて続けた言葉を聞いて、やっぱりさっきのは聞き間違いなんかじゃなかったんだって気づく。それにしても、どストレートに強烈な、嫌悪感むき出しの感想。
「あのー、ちなみに、どのあたりがお気に召さなかった……?」
おずおずと尋ねると、彼女はあたしに掴みかからんばかりの勢いで迫ってきた。
「まず楽器隊の音量バランスが悪い、みんな主張が激しすぎ、どこを聴かせたいのかわからない。そのせいで歌い始めが全然聴こえない。あれに見合うようにマイクを調整すると音が割れたりハウったりするし、下手すればボーカルの喉が……」
「待って、ちーちゃん、ごめんいったんストップ」
慌てて止めた。のは、それ以上友達の悪口を聞きたくなかったから、じゃない。ちーちゃんの口から飛び出してきた文句が、あたしが思っていたのとはだいぶ違ってたからだ。文句というより、改善したほうがいいところの指摘というか。バンド音楽に理解がないとか、嫌いな感じの発言じゃない、むしろ……
「ねえ、ちーちゃん」
もう一度おずおずと、あたしは彼女に訊いた。
「あの、違ったらごめん、もしかして、あーいう音楽、ほんとは好き……?」
近づいてくるあたしに気づいたのか、ちーちゃんはちらっとこっちを見て、
「ごめん、誘ってくれたのに」
と謝ってきた。話し方ははっきりしていて、ちょっと安心する。爆音にやられてくらくらしてるとか、そういう感じじゃなかったから。
「こっちこそごめんね、ちーちゃん。あーいうの、あんまり好きじゃなかった……?」
尋ねると、彼女はまたふいっとグラウンドのほうを向いて。ちょっと間を開けてから、
「……正直な感想、言っていい?」
「ん? なあに?」
「お友達もいるだろうから、気に触ったらごめん」
「だからなあに? 言ってみてよ」
またちょっと間を開けて、ちーちゃんは思い切ったように言った。
「へったくそ」
「……へ?」
えっと……何かの聞き間違い? こんなクールビューティから『へたくそ』なんて口汚い言葉が出てくる? ちょっと頭が状況飲み込むの拒否ってるんですけど。
でも、
「聴いてられない、あんなの」
眉をしかめて続けた言葉を聞いて、やっぱりさっきのは聞き間違いなんかじゃなかったんだって気づく。それにしても、どストレートに強烈な、嫌悪感むき出しの感想。
「あのー、ちなみに、どのあたりがお気に召さなかった……?」
おずおずと尋ねると、彼女はあたしに掴みかからんばかりの勢いで迫ってきた。
「まず楽器隊の音量バランスが悪い、みんな主張が激しすぎ、どこを聴かせたいのかわからない。そのせいで歌い始めが全然聴こえない。あれに見合うようにマイクを調整すると音が割れたりハウったりするし、下手すればボーカルの喉が……」
「待って、ちーちゃん、ごめんいったんストップ」
慌てて止めた。のは、それ以上友達の悪口を聞きたくなかったから、じゃない。ちーちゃんの口から飛び出してきた文句が、あたしが思っていたのとはだいぶ違ってたからだ。文句というより、改善したほうがいいところの指摘というか。バンド音楽に理解がないとか、嫌いな感じの発言じゃない、むしろ……
「ねえ、ちーちゃん」
もう一度おずおずと、あたしは彼女に訊いた。
「あの、違ったらごめん、もしかして、あーいう音楽、ほんとは好き……?」