宝石のように。 #6 Side Blue
文字数 1,398文字
「……で? なんかある思うたのになんも聞かんと帰ったんか。ヘタレか自分」
「ヘタレって、言い方……」
相変わらずの毒づきに、だが図星なので睨みつけることしかできない。
ついさっき、本人曰く「ちょっと前を通りかかったついでに」、コウさんがスタジオの受付をしていた私に声をかけてきた。そこで、彼曰く「表情の冴えない」わたしにあれこれ詮索してきて、観念して昨日のナオの様子を話した結果、さっきの「ヘタレ」発言に至る。
「ちなちゃんて、意外と誰にもなんも言わんと抱え込むタイプよな。この前かて、対バンライブのことうじうじ引きずっとったやろ」
「『意外と』ってなんですか」
「そういうキレッキレのツッコミができるくせに、ってことや」
それとこれとは全然次元が違うと思うのだけど。そう返す前に、「まあええ」と勝手に話を切り上げられる。
「気になることがあるなら、早いうちにとことん話し合っとき。バンドやってくんやったら、わだかまりなんかないほうがええしな」
「それは、わかってます、けど……」
コウさんの言葉に、口をつぐんで明後日のほうを向く。
ここ最近、正確にはナオたちとバンドを始めた頃からずっと感じていた。思うことがあっても、それを言葉にできずに、ちゃんと伝えられない性格。それを後から思い返して、あのときああすればよかったと悔しがる性格。深い会話をする友達がいなかったこと、バイトでも発揮してた言い合いを避ける癖が、自分の気持ちをうまく見せられない、見せ方がわからない『わたし』をつくりあげてしまったのかもしれない。
こんなとき、他の人ならどうするんだろう。ふとした疑問が口をついて出た。
「コウさんなら、どうしますか? 気持ちを見せるのが難しいとき」
正直返事は期待していなかった。どうせ前みたいにはぐらかされるだろうって。でもコウさんは、少し考えてから、
「オレはなんも気にせんと言いたいことは言うタイプやけど、面と向かって伝えんのはちょっと……ってときは、歌にする」
「歌に?」
予想外の返答に、わたしはコウさんのほうに向き直った。彼は少し照れ笑いをしながら、それでも真面目な口調で続けた。
「歌詞書いて、メロディつけて、歌って届ける。これが直接言うのの次か、それ以上にストレートなんとちゃうかな……なんて、バンドマンっぽいこと言うてしもた」
そう言って誤魔化してたけど、わたしも同じことを思っていた。アーティストらしい伝え方で、かっこいいな、って。でもその直後、
「ちなちゃんもそれでやってみたらええやん」
と言われて、わたしはぶんぶんと首を振った。
「歌なんか作ったことないです」
「せやったら、今から作ってみたらええ。音楽やってる人間が作れんことないやろ」
「それはさすがに暴論では……」
「もちろん、向き不向きはあるかもわからんけど、案外ハマるかもしれんで?」
それに、と、コウさんはにやりと笑って、
「歌で伝えられるようになったら、案外日常でも簡単に気持ち見せられるようになるかもわからんで?」
「それは理想論では……」
「やる前からぐだぐだ言うなや。ほれ、なんか書けるもん用意し」
「え、ほんとに今ですか? わたしバイト中……」
「オレと話せるくらい暇やろ。まずは歌詞だけでも書いてみ。な?」
半ば強制力を感じさせる言葉に、わたしはしぶしぶ紙とペンを取り出した。少しだけ、この人の言う通りになったらいいなって期待も込めて。
「ヘタレって、言い方……」
相変わらずの毒づきに、だが図星なので睨みつけることしかできない。
ついさっき、本人曰く「ちょっと前を通りかかったついでに」、コウさんがスタジオの受付をしていた私に声をかけてきた。そこで、彼曰く「表情の冴えない」わたしにあれこれ詮索してきて、観念して昨日のナオの様子を話した結果、さっきの「ヘタレ」発言に至る。
「ちなちゃんて、意外と誰にもなんも言わんと抱え込むタイプよな。この前かて、対バンライブのことうじうじ引きずっとったやろ」
「『意外と』ってなんですか」
「そういうキレッキレのツッコミができるくせに、ってことや」
それとこれとは全然次元が違うと思うのだけど。そう返す前に、「まあええ」と勝手に話を切り上げられる。
「気になることがあるなら、早いうちにとことん話し合っとき。バンドやってくんやったら、わだかまりなんかないほうがええしな」
「それは、わかってます、けど……」
コウさんの言葉に、口をつぐんで明後日のほうを向く。
ここ最近、正確にはナオたちとバンドを始めた頃からずっと感じていた。思うことがあっても、それを言葉にできずに、ちゃんと伝えられない性格。それを後から思い返して、あのときああすればよかったと悔しがる性格。深い会話をする友達がいなかったこと、バイトでも発揮してた言い合いを避ける癖が、自分の気持ちをうまく見せられない、見せ方がわからない『わたし』をつくりあげてしまったのかもしれない。
こんなとき、他の人ならどうするんだろう。ふとした疑問が口をついて出た。
「コウさんなら、どうしますか? 気持ちを見せるのが難しいとき」
正直返事は期待していなかった。どうせ前みたいにはぐらかされるだろうって。でもコウさんは、少し考えてから、
「オレはなんも気にせんと言いたいことは言うタイプやけど、面と向かって伝えんのはちょっと……ってときは、歌にする」
「歌に?」
予想外の返答に、わたしはコウさんのほうに向き直った。彼は少し照れ笑いをしながら、それでも真面目な口調で続けた。
「歌詞書いて、メロディつけて、歌って届ける。これが直接言うのの次か、それ以上にストレートなんとちゃうかな……なんて、バンドマンっぽいこと言うてしもた」
そう言って誤魔化してたけど、わたしも同じことを思っていた。アーティストらしい伝え方で、かっこいいな、って。でもその直後、
「ちなちゃんもそれでやってみたらええやん」
と言われて、わたしはぶんぶんと首を振った。
「歌なんか作ったことないです」
「せやったら、今から作ってみたらええ。音楽やってる人間が作れんことないやろ」
「それはさすがに暴論では……」
「もちろん、向き不向きはあるかもわからんけど、案外ハマるかもしれんで?」
それに、と、コウさんはにやりと笑って、
「歌で伝えられるようになったら、案外日常でも簡単に気持ち見せられるようになるかもわからんで?」
「それは理想論では……」
「やる前からぐだぐだ言うなや。ほれ、なんか書けるもん用意し」
「え、ほんとに今ですか? わたしバイト中……」
「オレと話せるくらい暇やろ。まずは歌詞だけでも書いてみ。な?」
半ば強制力を感じさせる言葉に、わたしはしぶしぶ紙とペンを取り出した。少しだけ、この人の言う通りになったらいいなって期待も込めて。