宝石のように。 #1 Side Red
文字数 1,039文字
八月中旬の登校日。あたしは少し先を歩くまきちゃんを見つけるなり、ダッシュで駆け寄った。
「まきちゃんおはよー! はいこれ、この前借りてきたCD」
「なおっちゃんもう聴いたの? 早くない?」
まきちゃんはちょっと呆れながらも、あたしがカバンから取り出した袋を受け取った。その中には、レンタルしてきたCDアルバムが何枚か入ってる。
「だって、シュウさんが教えてくれたバンド、どれも最高によくてさ、もうリピートしまくり。あんまり見つからなかったけど、ネットで動画も見てたら止まんなくて、さぁ……ふわぁ……」
あくびを噛み殺す。ここ数日、バイトのあとに動画とか音源とかを観まくり聴きまくりしてたせいで、ちょっと寝不足。
そんなあたしを見てひとしきり笑ってから、まきちゃんは首を傾げて訊いてきた。
「見つかった? なおっちゃんがこれって思う目標」
「うーん、まだぼんやりしてるけど……このバンドのこの部分と、あのバンドのこの部分と、みたいな感じで、ちょっとずつ見えてきてる、と思う」
「あたしもそんな感じだよ、アバウトだけど、なりたい像が見えてきたかなあ……って感じ」
あの日、楽屋で話していたシュウさんは、Phantomが参考にしてきたというバンドの一覧を渡して、こう言ったのだ。
『まずは、次の本番までに達成したい目標設定からね』
音でも見せ方でもなんでもいいから、ひとつ目標を決めて、クリアする。その積み重ねで、着実になりたい姿に近づいていけるよ、と教えてくれた。
あらためて、具体的に目標をって言われると難しかったけど、いろんなバンドを観て聴いて、ってしてるうちに、ここを真似したい、これが出来るようになりたいってところがだんだん分かってきた気がした。
「だから、お昼休みにちーちゃんも一緒に作戦会議しようね」
そう言うと、何故かまきちゃんの表情が少し曇る。
「ちなっちゃん……今日のテスト大丈夫かな」
「え?」
「だって今日の実力テスト、理系科目だよね? 赤点だったら追試、それも駄目だったら夏休みの残り期間補講だって……」
「アーアーキコエナーイ」
あたしは思わず耳をふさぐ。正直あんまり勉強してない身にとって、思い出したくない現実。
でも、と、あたしは片耳だけ開けてまきちゃんに尋ねた。
「ちーちゃん、そんなに理系科目ヤバかったっけ」
「うん、一年のときは数学が全然で……」
「マジで?」
「マジですけど」
後ろから声がした。振り返ると、目元がやつれたちーちゃんが、半ば開き直ったような表情で立っていた。
「まきちゃんおはよー! はいこれ、この前借りてきたCD」
「なおっちゃんもう聴いたの? 早くない?」
まきちゃんはちょっと呆れながらも、あたしがカバンから取り出した袋を受け取った。その中には、レンタルしてきたCDアルバムが何枚か入ってる。
「だって、シュウさんが教えてくれたバンド、どれも最高によくてさ、もうリピートしまくり。あんまり見つからなかったけど、ネットで動画も見てたら止まんなくて、さぁ……ふわぁ……」
あくびを噛み殺す。ここ数日、バイトのあとに動画とか音源とかを観まくり聴きまくりしてたせいで、ちょっと寝不足。
そんなあたしを見てひとしきり笑ってから、まきちゃんは首を傾げて訊いてきた。
「見つかった? なおっちゃんがこれって思う目標」
「うーん、まだぼんやりしてるけど……このバンドのこの部分と、あのバンドのこの部分と、みたいな感じで、ちょっとずつ見えてきてる、と思う」
「あたしもそんな感じだよ、アバウトだけど、なりたい像が見えてきたかなあ……って感じ」
あの日、楽屋で話していたシュウさんは、Phantomが参考にしてきたというバンドの一覧を渡して、こう言ったのだ。
『まずは、次の本番までに達成したい目標設定からね』
音でも見せ方でもなんでもいいから、ひとつ目標を決めて、クリアする。その積み重ねで、着実になりたい姿に近づいていけるよ、と教えてくれた。
あらためて、具体的に目標をって言われると難しかったけど、いろんなバンドを観て聴いて、ってしてるうちに、ここを真似したい、これが出来るようになりたいってところがだんだん分かってきた気がした。
「だから、お昼休みにちーちゃんも一緒に作戦会議しようね」
そう言うと、何故かまきちゃんの表情が少し曇る。
「ちなっちゃん……今日のテスト大丈夫かな」
「え?」
「だって今日の実力テスト、理系科目だよね? 赤点だったら追試、それも駄目だったら夏休みの残り期間補講だって……」
「アーアーキコエナーイ」
あたしは思わず耳をふさぐ。正直あんまり勉強してない身にとって、思い出したくない現実。
でも、と、あたしは片耳だけ開けてまきちゃんに尋ねた。
「ちーちゃん、そんなに理系科目ヤバかったっけ」
「うん、一年のときは数学が全然で……」
「マジで?」
「マジですけど」
後ろから声がした。振り返ると、目元がやつれたちーちゃんが、半ば開き直ったような表情で立っていた。