宝石のように。 #3 Side Red

文字数 1,325文字

「曲、かあ……」

 バイト先に向かいながら、あたしはため息交じりにそう呟いていた。まきちゃんが隣にいたら、また『むずかしー顔』って言われそうなほど、顔をしかめてる自信もある。
 学園祭のライブ枠は、土曜と日曜で一回ずつ取れることになった。時間的には一枠で三曲くらいなんだけど、対バンイベントでやった二曲の他に、候補曲がなかなか絞れなくて。

(Phantomがやってたあの曲、カッコよかったんだけどなあ……)

 ライブの中盤に演奏してた、夢に向かう気持ちを綴った曲。あたしはあの曲がいちばん好きだったし、できればあの曲を演奏できたらなあって思ったくらいなんだけど、ネットをいくら探しても原曲が見つからない。
 今度Phantomの人に会ったら訊いてみようかな……そう思いながらバイト先のカフェの扉を開けると、『今度』がすぐそこにあった。シュウさんが、入口のすぐそばのテーブルに座っていたのだ。
 入ってきたあたしに気づいて、シュウさんは手元のノートから顔を上げた。イヤホンを外しながら、いつもの朗らかな笑顔を見せる。

「あれ、こんにちは。どうしたのこんなところで」
「どうしたのって、ここあたしのバイト先なんですけど。シュウさんこそどうしてここに……?」

 おれはね、と、シュウさんはノートを指差す。ただのノートじゃない、五線譜のノートだった。前にちーちゃんが、市販のスコアは音が足りないって言って、耳コピして五線譜ノートに書き出してたことを思い出した。

「あ、もしかして耳コピしてるところでした? ごめんなさいお邪魔しちゃって……」
「ううん、耳コピじゃなくて、これは次のライブに向けて曲をつくってたところ」
「曲を、つくる……?」

 頭の中にハテナが舞う。作曲という意味はもちろんわかるんだけど、作業環境的にピンとこない。

「曲って、こんなところでつくれるものなんですか……?」
「まあ、メインの作詞と作曲はコウがやってるんだけどね。おれは編曲係。ソロパートとかバックのフレーズとか、もっと面白くできないか考えてるんだ」

 たしかに、スマホには何かのアプリかな、ピアノの鍵盤が映ってて、ノートにはギターやキーボードの譜面が書き出されてるみたいだった。シュウさんは五線譜ノートをめくりながら、「これ、この前のライブでやった曲」と譜面を見せてくれた。あ、と思わず声が漏れる。あたしがずっと探してた曲だ。オリジナル曲という可能性は全然考えてなかった。ネットで探しても見つからないわけだ。

「あたし、この曲ずっと探してたんです! 今度学園祭でやりたいと思ったくらい大好きで……」

 そう伝えると、シュウさんは嬉しそうな、でも困ったような顔を見せた。

「嬉しいよ、おれたちの曲コピーしたいって言ってもらえるなんて。でも、前も言ったけど、キミたちにはもっとオリジナリティを持ってほしいというか……」

 うーん、と腕組みをして考え込んでいたシュウさんが、そうか、と呟いた。

「なおちゃん、この曲のどこが好き?」
「え? えっと……夢に向かって一歩ずつ進むぞっていう気合いっていうか、そういうのが、バンド始めたばっかりのあたしたちと重なるなって思って、それで……」
「それ、自分で曲にしてみない?」
「……え?」
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登場人物紹介

★アナウンス★

・アイコンイラスト(ちびキャラVer)を追加しました。

(2020/07/24)


・奈桜・真希・千夏の夏私服と所有楽器のイメージイラストを

ツイッターに公開中です。

*第2章-#3 を読んでからご覧いただくとより楽しめるかと思います。

斉藤 奈桜《さいとう なお》


高校二年生。いつも明るく、誰とでも仲良くなれる少女。

バンドではギター・ボーカルを務める。

佐倉 千夏《さくら ちなつ》

奈桜の同級生。学校ではおとなしい文学少女。

バンドではギター担当。

井川 真希《いがわ まき》

奈桜の同級生。薙刀部所属の文武両道少女。

バンドではベース担当。

富士森 天音《ふじもり あまね》

千夏のバイト先の店長の娘。高校一年。

バンドにはドラムのサポートメンバーとして参加。

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