空白を埋める人。#3 Side Blue

文字数 763文字

「……どうしたのかしら突然」

 ナオから届いたメッセージを見て、思わず首を傾げる。そういえば、話し合いのときにはあまりしゃべってなかった気もするけど、このことを考えていたのだろうか。
 彼女からの少し長めのメッセージは、こう締められていた。

『てんちゃんがどうして一人がいいか、きいてみてもらえる?』

 たしかに、今までてんちゃんがひとりで音楽をすることについて、もちろん否定はしなかったけど、「何故ひとりがいいか」を訊いたことも、考えたこともなかった。なにより訊く必要がなかった。
 彼女をバンドに誘おうとしているいま、その情報は必要なものかもしれない。わたしたちが次に進むためにも。

(もしバンド断られたら、訊いてみる……と)

 わたしはナオにそうメッセージを返して、スタンドに立ててあったギターと携帯を持ち替えた。机の上には、書き込みだらけのバンドスコア。今日の合わせのおさらいをしている最中だったのだ。
 指を弦の上に走らせると、スタジオの中で響いていた音が頭の中によみがえってくる。いつも使ってる部屋なのに、いつもより熱くて。重なった音の中で、自分のギターの音でさえもいつもと違って聴こえて。だからこそ見つかった粗だったり、バランスの崩れだったりを整えていく作業は、苦になるどころか楽しいくらいだ。
 いい音を模索していくほど、ギターは応えてくれるのをわたしは知っている。いまダメなところは伸びしろだ。わたしは、わたしたちはもっとよくなれる。
 ただ、三人だけで頑張ってもどうしても埋まらない、音の空白があった。まだ聴こえないバスドラムの重低音が、シンバルの華やかな響きが恋しい。

(メトロノームじゃ、ダメ……)

 ピコピコと規則正しく刻む音が、音の空白を埋める、でもあの空間で唯一耳障りな音だった。
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登場人物紹介

★アナウンス★

・アイコンイラスト(ちびキャラVer)を追加しました。

(2020/07/24)


・奈桜・真希・千夏の夏私服と所有楽器のイメージイラストを

ツイッターに公開中です。

*第2章-#3 を読んでからご覧いただくとより楽しめるかと思います。

斉藤 奈桜《さいとう なお》


高校二年生。いつも明るく、誰とでも仲良くなれる少女。

バンドではギター・ボーカルを務める。

佐倉 千夏《さくら ちなつ》

奈桜の同級生。学校ではおとなしい文学少女。

バンドではギター担当。

井川 真希《いがわ まき》

奈桜の同級生。薙刀部所属の文武両道少女。

バンドではベース担当。

富士森 天音《ふじもり あまね》

千夏のバイト先の店長の娘。高校一年。

バンドにはドラムのサポートメンバーとして参加。

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