何もないまま。#2 Side Blue
文字数 1,199文字
「……で、エントリーのために楽器屋 に戻ってきたって?」
カウンターにいる店長には嬉しそうに、店先まで出てきてもらったてんちゃんには呆れたようにそう言われた。
「善は急げっていうじゃないですか……」
ナオが照れ笑いで答える。断っておくけど、決して思いつきで押しかけたわけではない。イベントのチラシをもらったときに、店長から、
『うちのカウンターで出演登録してやるから、出る日が決まったら言いな!』
と言われていたので、お言葉に甘えて、さっそくお店に戻ってきた次第である。
「メンバーじゃないからとやかく言わないけど……ほんとに一週間で大丈夫なのか?」
入力内容の確認はナオとマキに任せて、てんちゃんはわたしにさりげなく訊いてきた。わたしは肩をすくめて「やるしかないでしょう」と返す。
なにしろ初のステージだ。演奏面以外にも、いろいろと準備しなきゃいけないことがあるはずなんだけど……
「なんだ、まだ決まってないのか?」
店長の驚いたような声で我に返る。カウンターのパソコンを覗き込むと、あらかた項目が埋まってる登録画面で、ひとつだけ空欄があった。
それだ、表舞台に出るのにまず必要なもの。『バンド名』だ。
「そういえば……相談したこともなかったね、バンド名」
盲点だったというようにナオが頭を抱える。店長はその状況にけらけらと笑いながら、
「仕方ねーな、『ナナシノゴンベーズ』で登録しちまうぞ」
「クソださっ」
「店長、さすがに却下です」
「ボク絶対にその名前で出たくない」
「てんちゃんが出てくれなくなっちゃうんで絶対やめてくださいね店長さん」
全員から一斉に反論を食らって、店長は大人げなく不貞腐れた表情をしてみせた。
「だったらさっさと決めてくれよ。そうじゃないと応募もできな……」
マウスをいじっていた店長の動きが、ふいに止まった。目が『ヤバい』って訴えている。慌てて画面を見ると、そこには『登録が完了しました!』の文字。
「え、ちょっとなにやってんだよ!?」
「マジで『ナナシノゴンベーズ』で登録された?」
「いや、まだ何も入れてなかったんだが……」
「ちょっと下スクロールしてください。登録内容が出てる……」
登録内容には、メンバーの名前、出演日、そして、
バンド名……(NULL )
「……ヌル?」
「あれだね、データが何もないって意味のNULL……って、え、これで登録されたの!?」
「まあ……今回だけ、キミたち『(NULL)』ってことで、いいんじゃない?」
「いいわけないだろバカ親父!」
また親子喧嘩が始まる。わたしたちはその横で、ひっそりため息をついた。
「まあ、『ナナシノゴンベーズ』よりは、マシかな」
仕方ない。締め切りまでにバンド名を決められる自信もないし、今回だけはそれでいこう。
カウンターにいる店長には嬉しそうに、店先まで出てきてもらったてんちゃんには呆れたようにそう言われた。
「善は急げっていうじゃないですか……」
ナオが照れ笑いで答える。断っておくけど、決して思いつきで押しかけたわけではない。イベントのチラシをもらったときに、店長から、
『うちのカウンターで出演登録してやるから、出る日が決まったら言いな!』
と言われていたので、お言葉に甘えて、さっそくお店に戻ってきた次第である。
「メンバーじゃないからとやかく言わないけど……ほんとに一週間で大丈夫なのか?」
入力内容の確認はナオとマキに任せて、てんちゃんはわたしにさりげなく訊いてきた。わたしは肩をすくめて「やるしかないでしょう」と返す。
なにしろ初のステージだ。演奏面以外にも、いろいろと準備しなきゃいけないことがあるはずなんだけど……
「なんだ、まだ決まってないのか?」
店長の驚いたような声で我に返る。カウンターのパソコンを覗き込むと、あらかた項目が埋まってる登録画面で、ひとつだけ空欄があった。
それだ、表舞台に出るのにまず必要なもの。『バンド名』だ。
「そういえば……相談したこともなかったね、バンド名」
盲点だったというようにナオが頭を抱える。店長はその状況にけらけらと笑いながら、
「仕方ねーな、『ナナシノゴンベーズ』で登録しちまうぞ」
「クソださっ」
「店長、さすがに却下です」
「ボク絶対にその名前で出たくない」
「てんちゃんが出てくれなくなっちゃうんで絶対やめてくださいね店長さん」
全員から一斉に反論を食らって、店長は大人げなく不貞腐れた表情をしてみせた。
「だったらさっさと決めてくれよ。そうじゃないと応募もできな……」
マウスをいじっていた店長の動きが、ふいに止まった。目が『ヤバい』って訴えている。慌てて画面を見ると、そこには『登録が完了しました!』の文字。
「え、ちょっとなにやってんだよ!?」
「マジで『ナナシノゴンベーズ』で登録された?」
「いや、まだ何も入れてなかったんだが……」
「ちょっと下スクロールしてください。登録内容が出てる……」
登録内容には、メンバーの名前、出演日、そして、
バンド名……(
「……ヌル?」
「あれだね、データが何もないって意味のNULL……って、え、これで登録されたの!?」
「まあ……今回だけ、キミたち『(NULL)』ってことで、いいんじゃない?」
「いいわけないだろバカ親父!」
また親子喧嘩が始まる。わたしたちはその横で、ひっそりため息をついた。
「まあ、『ナナシノゴンベーズ』よりは、マシかな」
仕方ない。締め切りまでにバンド名を決められる自信もないし、今回だけはそれでいこう。