夏が、はじまる。#5 Side Red
文字数 742文字
ちーちゃんは、切れ長の目を少しだけ見開いて、それからふっと表情を緩めた。「ほんとは言うつもりなかったんだけど……」と前置きをしてから、彼女は言った。
「ほんとはやりたかったの、バンド」
「……え?」
今度こそなにかの間違いだと思った。クールビューティー文学少女の発言とは思えない。
いや、でも、これが本当の、あたしの知らない本当の彼女なのかもしれない。あたしは静かに、ちーちゃんの言葉の続きを聴いた。
「入学したときにね、そこ、少しだけ見学に行ったの」
『そこ』が軽音楽部のことだと、理解するのに一瞬かかった。
「え、ちーちゃんも見学行ってたの?」
「そう。でも入らなかった」
「……どうして」
「真剣に音楽に向き合ってる人がいなかった、気がしたの。真っ直ぐに音楽で何かを伝えようとする人が……」
ちーちゃんは、またグラウンドを見やる。ネットの向こう側で、野球部が練習してるのが見えた。
「体育会系、とまではいかないけど、真面目に練習して、伝えたい音を追求して、誰かに届けて……って、やりたかった。だけど、そこにわたしのやりたい音楽はなかった。わたしがやりたいのは、あんな軽い『遊び』の音楽じゃない」
そして彼女はまた眉をしかめて、
「ただちょっと楽器ができるからって、ろくに練習もしないでバランスも考えないで、ちやほやされたい集まりじゃない、あんなの」
「ちやほや、されたくないの?」
「されたいように見える?」
自分で言っておきながら、うーん、首を傾げる。ちーちゃんは『ちやほや』とはちょっと縁遠いというか、美人なんだけど、自分からちやほやを求めなさそうというか……
そんなことを考えてたら、ふいにちーちゃんが訊いてきた。
「ナオは、どっち?」
「ほんとはやりたかったの、バンド」
「……え?」
今度こそなにかの間違いだと思った。クールビューティー文学少女の発言とは思えない。
いや、でも、これが本当の、あたしの知らない本当の彼女なのかもしれない。あたしは静かに、ちーちゃんの言葉の続きを聴いた。
「入学したときにね、そこ、少しだけ見学に行ったの」
『そこ』が軽音楽部のことだと、理解するのに一瞬かかった。
「え、ちーちゃんも見学行ってたの?」
「そう。でも入らなかった」
「……どうして」
「真剣に音楽に向き合ってる人がいなかった、気がしたの。真っ直ぐに音楽で何かを伝えようとする人が……」
ちーちゃんは、またグラウンドを見やる。ネットの向こう側で、野球部が練習してるのが見えた。
「体育会系、とまではいかないけど、真面目に練習して、伝えたい音を追求して、誰かに届けて……って、やりたかった。だけど、そこにわたしのやりたい音楽はなかった。わたしがやりたいのは、あんな軽い『遊び』の音楽じゃない」
そして彼女はまた眉をしかめて、
「ただちょっと楽器ができるからって、ろくに練習もしないでバランスも考えないで、ちやほやされたい集まりじゃない、あんなの」
「ちやほや、されたくないの?」
「されたいように見える?」
自分で言っておきながら、うーん、首を傾げる。ちーちゃんは『ちやほや』とはちょっと縁遠いというか、美人なんだけど、自分からちやほやを求めなさそうというか……
そんなことを考えてたら、ふいにちーちゃんが訊いてきた。
「ナオは、どっち?」