Interlude-3 Side Green
文字数 1,615文字
「あぁ……くっそ……」
自分の部屋に戻って、着替えもそこそこにベッドに倒れこむ。今日はこんな気持ちにならなくて済むはずだったのに。無事にライブを終えて、何事もなく帰ってくるはずだったのに。
あの後、ボクはゲーセンのボクシングマシンを数発ぶん殴ってから帰ってきた。イライラしたときのお決まりルーティン。初ライブの後にも行ったなそういえば。なんでどいつもこいつも、気持ちよく終わらせてくれないんだろう。
(……いってぇ)
仰向けに寝転んで、右手を宙にかざしてみる。当たりどころが悪かったのか、右の手首が少し痛い。まいったな、明日のライブに支障がなければいいけど……と考えて、またため息。
ナオにああ言った以上、明日でボクのライブ活動はおしまいにする。明日のライブが終われば、またここに引きこもって、ひとりで音楽をつくる生活に戻る。
横を向けば、机の上にキーボードとミックス用のパソコン、その横にはギターとベース。どれもスタジオの常連さん(というか親父の知り合い)からもらった結構なお古だけど、バイトでつけたメンテ技術で特に支障もなく使えてる。
こいつらに囲まれてれば、ボクはひとりでも大丈夫だと思ってたし、今でもそう思ってる。
昔から、人といるのが苦手だった。ボクは思ったことはすぐ口から出るし、やりたいように行動するし、それが間違ってても修正せずに突っ走るし。そういう自分を抑えることも、頑張ってはみるけどどこかうまくいかなくて。バイトがクビにならないのが不思議なくらいだ(親父に完全にこき使われてるのはわかってる)。
そんな性格のせいで、当然ながら友達と言える人は少ない。人が離れていく前に、ボクが人といるのが怖かったんだ。最初は何とかごまかせても、一緒にいればボロが出る。いつか何かの拍子に、誰かに嫌な思いをさせてしまったら……なんて考える。そんなことになるくらいならと、いつも最初からひとりを選んでた。誰も傷つけない距離にいるのが、最善策だと思ってた。
サクラは数少ない、距離の近い人間だった。近いとはいっても、バイトでもギターの練習でも、必要最低限のことしか話さない。近くにいるけど、近づきすぎない、その距離感が楽だったし、ありがたかった。
ナオとマキも同じような距離感で(いや最初のナオの距離の詰め方は正直ヤバそうと思ったけど)、あの三人といるときは、すごく楽に息ができるというか、無理に自分を抑えつけなくていいというか。でもそれは一緒にいる時間が短かったから、バンドのサポートという立場でいさせてくれたからだ。
(ボクが、メンバーじゃないから……)
そこまで考えてから、またあのくそナルシストの顔を思い出して顔がゆがむ。メンバーじゃないことをとやかく言うやつの気持ちはマジで理解できないけど、言いがかりにしろなんにしろ、ボクがサポートとしているせいで、あのバンドが悪く言われるようなことは許せない。
でも、ボクがメンバーになる未来は、見えない。
ナオが今日帰り際に言おうとした言葉もわかりきってる。『やっぱりメンバーになってほしい』とか、そんなところだろう。でもやっぱりあの三人のように、ずっと一緒にいる自分は想像できない。ずっと一緒にいたら、もう今のようにはいられない気がして。
(だから、明日でもう……)
かさり、と何かが落ちる音がした。起き上がって拾うと、机から落ちたらしい、三人と一緒に作った新曲のスコアだった。
ドラムの譜面は結局ボクがほとんど作った。ボクもいちから譜面を作るのは初めてだったけど、ナオ、ドラムのどこを叩いたらどんな音が出るかもわからないのに、ドラムの楽譜書こうなんて無謀だよな。
「明日、返しておかないとな……」
もうボクが持ってても意味がない。作った本人が演奏せずに終わるってのも皮肉な話だけど……関係ない。ボクにはもう。
ボクの代わりの新しい誰かに託すために、ファイルに入れてカバンに突っ込んだ。
自分の部屋に戻って、着替えもそこそこにベッドに倒れこむ。今日はこんな気持ちにならなくて済むはずだったのに。無事にライブを終えて、何事もなく帰ってくるはずだったのに。
あの後、ボクはゲーセンのボクシングマシンを数発ぶん殴ってから帰ってきた。イライラしたときのお決まりルーティン。初ライブの後にも行ったなそういえば。なんでどいつもこいつも、気持ちよく終わらせてくれないんだろう。
(……いってぇ)
仰向けに寝転んで、右手を宙にかざしてみる。当たりどころが悪かったのか、右の手首が少し痛い。まいったな、明日のライブに支障がなければいいけど……と考えて、またため息。
ナオにああ言った以上、明日でボクのライブ活動はおしまいにする。明日のライブが終われば、またここに引きこもって、ひとりで音楽をつくる生活に戻る。
横を向けば、机の上にキーボードとミックス用のパソコン、その横にはギターとベース。どれもスタジオの常連さん(というか親父の知り合い)からもらった結構なお古だけど、バイトでつけたメンテ技術で特に支障もなく使えてる。
こいつらに囲まれてれば、ボクはひとりでも大丈夫だと思ってたし、今でもそう思ってる。
昔から、人といるのが苦手だった。ボクは思ったことはすぐ口から出るし、やりたいように行動するし、それが間違ってても修正せずに突っ走るし。そういう自分を抑えることも、頑張ってはみるけどどこかうまくいかなくて。バイトがクビにならないのが不思議なくらいだ(親父に完全にこき使われてるのはわかってる)。
そんな性格のせいで、当然ながら友達と言える人は少ない。人が離れていく前に、ボクが人といるのが怖かったんだ。最初は何とかごまかせても、一緒にいればボロが出る。いつか何かの拍子に、誰かに嫌な思いをさせてしまったら……なんて考える。そんなことになるくらいならと、いつも最初からひとりを選んでた。誰も傷つけない距離にいるのが、最善策だと思ってた。
サクラは数少ない、距離の近い人間だった。近いとはいっても、バイトでもギターの練習でも、必要最低限のことしか話さない。近くにいるけど、近づきすぎない、その距離感が楽だったし、ありがたかった。
ナオとマキも同じような距離感で(いや最初のナオの距離の詰め方は正直ヤバそうと思ったけど)、あの三人といるときは、すごく楽に息ができるというか、無理に自分を抑えつけなくていいというか。でもそれは一緒にいる時間が短かったから、バンドのサポートという立場でいさせてくれたからだ。
(ボクが、メンバーじゃないから……)
そこまで考えてから、またあのくそナルシストの顔を思い出して顔がゆがむ。メンバーじゃないことをとやかく言うやつの気持ちはマジで理解できないけど、言いがかりにしろなんにしろ、ボクがサポートとしているせいで、あのバンドが悪く言われるようなことは許せない。
でも、ボクがメンバーになる未来は、見えない。
ナオが今日帰り際に言おうとした言葉もわかりきってる。『やっぱりメンバーになってほしい』とか、そんなところだろう。でもやっぱりあの三人のように、ずっと一緒にいる自分は想像できない。ずっと一緒にいたら、もう今のようにはいられない気がして。
(だから、明日でもう……)
かさり、と何かが落ちる音がした。起き上がって拾うと、机から落ちたらしい、三人と一緒に作った新曲のスコアだった。
ドラムの譜面は結局ボクがほとんど作った。ボクもいちから譜面を作るのは初めてだったけど、ナオ、ドラムのどこを叩いたらどんな音が出るかもわからないのに、ドラムの楽譜書こうなんて無謀だよな。
「明日、返しておかないとな……」
もうボクが持ってても意味がない。作った本人が演奏せずに終わるってのも皮肉な話だけど……関係ない。ボクにはもう。
ボクの代わりの新しい誰かに託すために、ファイルに入れてカバンに突っ込んだ。