ひとつの通過点。 Side Red

文字数 1,220文字

「三人と一人ってなあ……その方式でようずっとやってきたわな自分ら。しかも去年の俺らより短いキャリアでここまできよって」

 舞台袖にスタンバイしている横で、コウさんがため息をつく。応援に来てくれたはずなんだけど、なんか、文句をつけられてるような。
 一緒に来てくれたシュウさんが、コウさんの肩を小突く。

「なんで最終選考まで残ったことを素直に褒めてあげないの……ごめんねいつもの調子で」
「いえ、お二人が来てくれるだけで心強いです」

 まきちゃんが言うと、「せやろせやろ? 去年の軽音コン優勝者の応援は心強いやろ?」とコウさんがゴリゴリにアピールしてくる。

「主張が激しい」
「恩着せがましいんですよ」

 それをてんちゃんとちーちゃんが両脇から抑え込む。コントみたいなこのやり取りも、この一年でお決まりのパターンになった気がする。いいんだか悪いんだか。
 高校三年の秋。あたしたちGemstoneは高校生バンドの頂点を決める大会、軽音楽コンテストの最終選考会場に来ていた。フェス形式で行われるこの最終選考の会場に、去年はコウさんたちPhantomの応援をする観客側で参加した。
 そして今年は、選考を通過してきたコンテスト出場者として、この場所に立っている。

「あ、そろそろ出番だね。じゃあ、おれたちは席に戻るから」
「そんな緊張せんと、いつも通りの演奏してこいよ」

 客席に戻っていく二人の背中を見送りながら、てんちゃんがふーん、と不思議そうに呟く。

「珍しいね、いつも通り、だってさ。最初会ったときはいつも通りにやって説教くらったのに」
「それはわたしたちが場数を踏んでなかったからよ。今求められてるのは、あのときと比べ物にならないくらいハイレベルになってる」
「まあ、それでも『いつも通り』にやる気はないけど。ね?」

 まきちゃんがあたしに目配せしてみせる。あたしは強く頷いて、円陣の真ん中に拳を突き出した。他の三人も次々に拳を並べて、揃ったのを確認してから、あたしはいつもの掛け声をかける。

「そう、あたしたちが目指すのは、今まででいちばん!」

 掛け声に合わせて、拳を天高く突き上げた。ひとつ前のあたしたちの『いちばん』を壊すように、限界を超えていけるように。

 ステージに向かっていく仲間たちを見つめながら、あたしは胸元に提げたペンダントをきゅっと握りしめた。表面のまだ粗い宝石。磨いて綺麗にすることもできるけど、っててんちゃんに言われたけど、断ってそのままにしてある。

(だって、あたしたちにはまだふさわしくないから)

 あたしたちには、磨き足りないところがまだたくさんある。これからも少しずつ、ひとつずつ磨き上げて、そのたびにいちばんの輝きを更新していきたい。今日も、そのひとつの通過点だ。
 あたしたちは、まだまだ宝石の原石(ジェムストーン)だから。

 最後にステージに出ていったあたしは、マイクに――客席全体に向かって叫んだ。

「こんにちは! あたしたち、Gemstoneです!」



―Fin―
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登場人物紹介

★アナウンス★

・アイコンイラスト(ちびキャラVer)を追加しました。

(2020/07/24)


・奈桜・真希・千夏の夏私服と所有楽器のイメージイラストを

ツイッターに公開中です。

*第2章-#3 を読んでからご覧いただくとより楽しめるかと思います。

斉藤 奈桜《さいとう なお》


高校二年生。いつも明るく、誰とでも仲良くなれる少女。

バンドではギター・ボーカルを務める。

佐倉 千夏《さくら ちなつ》

奈桜の同級生。学校ではおとなしい文学少女。

バンドではギター担当。

井川 真希《いがわ まき》

奈桜の同級生。薙刀部所属の文武両道少女。

バンドではベース担当。

富士森 天音《ふじもり あまね》

千夏のバイト先の店長の娘。高校一年。

バンドにはドラムのサポートメンバーとして参加。

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