あの音は待っている。 #3 Side Yellow

文字数 1,004文字

 後夜祭は、学園祭の閉会式を兼ねた全校イベントで、体育館の舞台を拡張したステージで行われる。ダンス部門の発表が終わって、今はバンド部門の発表用にステージ転換しているところだ。
 あたしたちは舞台袖で、ナンシー先輩たちのバンドと出番を待っていた。向こうは最終の打ち合わせをしてるみたいで、こっちはこっちで譜面や歌詞の確認中だ。

「どうしたんだい、本番直前にもなってスコアが手放せないなんて。今日は譜面台が必要かい?」

 目ざとくナンシー先輩が指摘してくるが、

「自分らの打ち合わせそっちのけでボクたちの相手してていいの? そういうことしてるから単独一位獲れなかったんじゃない?」

 てんちゃんのツッコミに顔を歪める。単独一位を獲る気満々だったのが、あたしたちとの最終決戦(正確にはもう投票とかはないけど)になるとは思ってなかったのだろう。昨日よりもさらに不機嫌だ。

「……サポートのくせに」

 そう捨て台詞を吐いて、先輩は準備のできたステージへと向かっていった。てんちゃんは、険しい顔をするあたしたちのほうを向いて肩をすくめた。

「ほんと、あれしか言うことないんだろうね」

 てんちゃんはそう言って、持っていたスコアをなおっちゃんに差し出した。なにか小声で耳打ちして、なおっちゃんが神妙な面持ちで受け取ったスコアを抱きしめる。
 きっと、昨日なおっちゃんから聞いた『あのこと』なんだろうな、と思う。このステージが終わったら、てんちゃんは……
 歓声が聞こえてステージのほうを向くと、先輩たちの演奏が始まったところだった。一曲後には、あたしたちの出番。

「……それじゃ、準備しよっか」

 なおっちゃんはいつもらしくない、作ったような明るい声で言った。スコアをしまう背中に声をかける。

「なおっちゃん、なんか緊張してない?」
「……へへ、そうかも」

 片づけを終えたなおっちゃんの肩を、ちなっちゃんがやさしく叩く。

「らしくないわね。フロントマンは堂々としてないと」
「そうだよ。あたしたちを誘ったときの勢いで、今度はみんなを巻き込まなきゃ」

 その反対側をあたしが掴むと、

「……うん、そうだね」

 なおっちゃんは顔を上げると、ぐっと拳を突き出した。あたしたちもそれに応えて拳を掲げる。あたしたちの顔をぐるりと見回して、なおっちゃんが言った。

「それじゃいくよ……学園祭最後のライブ、今まででいちばんを!」

 ひっそりとした掛け声は、曲終わりの歓声に溶けた。
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登場人物紹介

★アナウンス★

・アイコンイラスト(ちびキャラVer)を追加しました。

(2020/07/24)


・奈桜・真希・千夏の夏私服と所有楽器のイメージイラストを

ツイッターに公開中です。

*第2章-#3 を読んでからご覧いただくとより楽しめるかと思います。

斉藤 奈桜《さいとう なお》


高校二年生。いつも明るく、誰とでも仲良くなれる少女。

バンドではギター・ボーカルを務める。

佐倉 千夏《さくら ちなつ》

奈桜の同級生。学校ではおとなしい文学少女。

バンドではギター担当。

井川 真希《いがわ まき》

奈桜の同級生。薙刀部所属の文武両道少女。

バンドではベース担当。

富士森 天音《ふじもり あまね》

千夏のバイト先の店長の娘。高校一年。

バンドにはドラムのサポートメンバーとして参加。

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