トレジャーハント。 #8 Side Blue

文字数 1,245文字

 どういうことだろう? シュウさんの言葉に、わたしは正直戸惑った。それは他のメンバーも、そしてコウさんも同じようで、あからさまに顔をしかめている。

「なんやシュウ、せっかくこんなふうになりたい言われてんのに、他も見ろってひねくれもんか」

 と、今まで一言も発してなかったてんちゃんが、ぼそっ、とつぶやいた。

「ひとつの目標にしがみつくな、ってこと……?」
「ご名答」

 シュウさんがぱちぱちと手を叩いた。てんちゃんは正解して誉められてるにもかかわらず、まだちょっとよくわからないというふうな顔をしている。マキも首をかしげながらも、

「あたしたちの目標は、あくまでなおっちゃんの言ってる『みんなを巻き込んで心を動かせるバンドになる』ことだから、そこに辿り着くにはPhantomだけを見てちゃいけない……みたいな、そういう感じですか?」
「そうそう、そんな感じ」
「シュウ、オレは納得いかんぞ。どういうこっちゃ説明せい」
「えー説明せいって言われても……おれたちがここまでくるのに、ひとつのバンドだけを参考にしてた?」
「あー……しとらんなあ」

 コウさんもやっとおとなしくなる。その会話で、シュウさんが何を言いたいのかがようやく見えてきた。
 シュウさんはわたしたちに向き直って、

「おれたちとキミたちじゃ、根本的に違うところがたくさんある。男女の違いとか、バンドの編成とか……だから、おれたちのことはあくまで目標のひとつだと思って。おれたちにはない、自分たちに合う『目標』を、他のバンドからたくさん見つけて、かけ合わせて、キミたちだけの音楽を作り上げてほしい」
Phantom(オレら)もそうやってできあがった……ってことやろ、シュウ?」
「なんでそうおいしいところだけ持ってくかなあ……」

 ドヤ顔のコウさんに、呆れた口調で返すシュウさん。そのふたりのやりとりを前に、ナオの顔にじわじわと希望の笑顔が灯り始めるのが見えた。

「なんか……なんとなく、わかってきた気がします。頑張ってみます!」
「頑張るだけやない、きちんとモノにしてみ。絶対お客さんの目線釘付けにします! くらいの気合いでいかんか」
「は、はい!」

 コウさんに叱咤されて、それでもナオは笑顔だった。決意に満ちた笑顔。ナオのそんな表情を、久しぶりに見た気がした。
 そんな彼女のもとに、シュウさんが何かの紙を持って話しかける。マキも一緒になって話し込み始めたところで、コウさんがわたしとてんちゃんのほうに近づいてきた。くるりと私たちの横に並んで、ナオたち三人を眺める。

「あの子、ええ顔するやん。もったいないなあ、あの顔ステージで見せたら、フロアの反応激変するで」

 独り言ともとれる言葉に、わたしは頷いて返した。まったくもって同感だ。ナオの笑顔と人懐っこさは、彼女の掲げる『目標』に近づくうえで最大の武器になるだろう。
 ただ、わたしたちにはそれを引き出すだけの時間と余裕がなかったのだ。

「あの笑顔を出せるように、本当はきちんと準備して、臨まなきゃいけなかったんでしょうね……」
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登場人物紹介

★アナウンス★

・アイコンイラスト(ちびキャラVer)を追加しました。

(2020/07/24)


・奈桜・真希・千夏の夏私服と所有楽器のイメージイラストを

ツイッターに公開中です。

*第2章-#3 を読んでからご覧いただくとより楽しめるかと思います。

斉藤 奈桜《さいとう なお》


高校二年生。いつも明るく、誰とでも仲良くなれる少女。

バンドではギター・ボーカルを務める。

佐倉 千夏《さくら ちなつ》

奈桜の同級生。学校ではおとなしい文学少女。

バンドではギター担当。

井川 真希《いがわ まき》

奈桜の同級生。薙刀部所属の文武両道少女。

バンドではベース担当。

富士森 天音《ふじもり あまね》

千夏のバイト先の店長の娘。高校一年。

バンドにはドラムのサポートメンバーとして参加。

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