刃を交えて。#2 Side Blue
文字数 1,169文字
先輩の言葉に、なるほどそこで認識されたのかと納得する。納得はするが、その視線が冷たい理由はまだよくわからない。
「二年A組の、佐倉千夏です」
一応名乗っておくと、ああ、知ってる知ってる、とおおげさに頷いて、
「図書委員の子でしょ? ときどき図書館で見かけるんだ。ライブのとき、ぼくたちの素晴らしい演奏も聴かずに出てっちゃったから、バンド音楽は文学少女さんには刺激が強すぎたのかと思ったよ」
皮肉がこもった言葉。どうやら、わたしが最後までライブを聴かなかったことが気に障ったらしい。演奏が聴くに堪えなかっただけなんだけど……とは、場所も場所だし後々面倒になるのが明らかなので言わないでおいた。
「そんな子がバンド演奏なんて……するわけないよね?」
「いえしますけど」
少し食い気味に答えた。ナンシー先輩はわざとらしく目を見開いて、それからすぐにさっきの調子に戻った。
「それならなおのこと、ほかのバンドの音も勉強のためにちゃんと聴いてたほうがよかったんじゃないかな、例えばぼくたちのような……」
「はい、他校が集まる対バンに出たときに、とても参考になる演奏をたくさん聴いてきました」
「……外部のイベントに?」
わたしの返しが予想外だったのか、先輩は目を瞬かせてから、平静を装ったふうに続けた。声が上ずっている。
「ふん、初心者の集まりが、いきなり思い切ったね。よそ様に迷惑かけてなきゃいいけど」
「ちょっと、さっきからなんなんですか。そっちこそあたしたちの演奏聴いたことないくせに」
さすがにカチンときたのか、横からマキが口を挟む。先輩はマキのほうをちらっとだけ見て、またわたしのほうを見た。
「外に出ていってるとはいえ、所詮この夏から始めた初心者なんだろう? せいぜいぼくたち『精鋭バンド』の引き立て役になってくれることを期待してるよ」
そう言い残して去ろうとする。言われっぱなしは我慢ならなかった。
「……聴きます」
口から飛び出した声は、思ったよりも落ち着いていた。顔だけ振り返った先輩に向かって、言葉を続けた。
「今度は、先輩方の演奏もちゃんと聴きます。だからわたしたちの演奏も……外で学んできた初心者 の本気を、当日は一音目から最後まで観て、聴いていてください」
先輩は眉をひそめて、それからふんっと鼻で笑った。
「……へえ、聴かせられるほど自信があるんだ?」
「当たり前ですよ!」マキが割って入る。「あたしたちがどれだけのレベルか見せつけてやりますよ!」
「そうですよ先輩」ナオも先輩に不敵な笑みを向けた。「引き立て役か互角に戦えるかどうかは、お客さんの投票でもわかりますしね」
「……投票?」
勢いづいていたわたしとマキが動きを止めた。見ると、ナオは説明プリントの裏面を掲げている。
「後夜祭出場をかけた人気投票……もちろん、先輩のバンドも参加しますよね?」
「二年A組の、佐倉千夏です」
一応名乗っておくと、ああ、知ってる知ってる、とおおげさに頷いて、
「図書委員の子でしょ? ときどき図書館で見かけるんだ。ライブのとき、ぼくたちの素晴らしい演奏も聴かずに出てっちゃったから、バンド音楽は文学少女さんには刺激が強すぎたのかと思ったよ」
皮肉がこもった言葉。どうやら、わたしが最後までライブを聴かなかったことが気に障ったらしい。演奏が聴くに堪えなかっただけなんだけど……とは、場所も場所だし後々面倒になるのが明らかなので言わないでおいた。
「そんな子がバンド演奏なんて……するわけないよね?」
「いえしますけど」
少し食い気味に答えた。ナンシー先輩はわざとらしく目を見開いて、それからすぐにさっきの調子に戻った。
「それならなおのこと、ほかのバンドの音も勉強のためにちゃんと聴いてたほうがよかったんじゃないかな、例えばぼくたちのような……」
「はい、他校が集まる対バンに出たときに、とても参考になる演奏をたくさん聴いてきました」
「……外部のイベントに?」
わたしの返しが予想外だったのか、先輩は目を瞬かせてから、平静を装ったふうに続けた。声が上ずっている。
「ふん、初心者の集まりが、いきなり思い切ったね。よそ様に迷惑かけてなきゃいいけど」
「ちょっと、さっきからなんなんですか。そっちこそあたしたちの演奏聴いたことないくせに」
さすがにカチンときたのか、横からマキが口を挟む。先輩はマキのほうをちらっとだけ見て、またわたしのほうを見た。
「外に出ていってるとはいえ、所詮この夏から始めた初心者なんだろう? せいぜいぼくたち『精鋭バンド』の引き立て役になってくれることを期待してるよ」
そう言い残して去ろうとする。言われっぱなしは我慢ならなかった。
「……聴きます」
口から飛び出した声は、思ったよりも落ち着いていた。顔だけ振り返った先輩に向かって、言葉を続けた。
「今度は、先輩方の演奏もちゃんと聴きます。だからわたしたちの演奏も……外で学んできた
先輩は眉をひそめて、それからふんっと鼻で笑った。
「……へえ、聴かせられるほど自信があるんだ?」
「当たり前ですよ!」マキが割って入る。「あたしたちがどれだけのレベルか見せつけてやりますよ!」
「そうですよ先輩」ナオも先輩に不敵な笑みを向けた。「引き立て役か互角に戦えるかどうかは、お客さんの投票でもわかりますしね」
「……投票?」
勢いづいていたわたしとマキが動きを止めた。見ると、ナオは説明プリントの裏面を掲げている。
「後夜祭出場をかけた人気投票……もちろん、先輩のバンドも参加しますよね?」