あの音は待っている。 #2 Side Blue

文字数 1,207文字

「見て見て、同点だって! こんな激アツな展開ある!?」

 ナオが投票結果のパネルを見て、興奮気味に叫んだ。
 二日目のステージライブを終えて、夕方頃に人気投票の結果……つまり後夜祭の出場団体が発表された。バンド部門は、ナンシー先輩のバンドと、そしてわたしたちGemstoneが票を同数集めて同率一位だったのだ。
 今日のわたしたちのステージにもたくさんの人が集まってくれたけど、今朝見たとおり、軽音の他バンドの力の入れ具合もすごかった。楽しんで演奏するだけじゃない、聴かせたいという気持ちが、どのバンドからも伝わってきた。先輩が『作戦を練る』って言っていたのも、虚勢ではなかったようだ。
 その一因がわたしたちにあると思うと、やっぱり少し誇らしい。

「後夜祭は? 演奏時間はどうなるの?」
「えーっと……」

 ナオは、今後の流れが書かれたプリントにざっと目を通す。

「もともと十分の枠を、五分ずつ区切って演奏するんだって」
「仲良く半分こなのね」
「仲良くは絶対したくないけど」

 わたしの言葉にすかさずてんちゃんがツッコむから、ぷっ、とマキが吹き出す。先輩が仲良くしてくれる姿は想像できないし、本音を言えばこちらからも願い下げだ。

「五分じゃ、どう頑張っても一曲しかできないね。どうする? どの曲やろうか」

 マキの質問に、ナオはライブのセットリストを眺めながら、気難しげな顔をしている。わたしは首を傾げて、

「ナオ、言いたいことあるって顔してるわよ」
 
 図星だったようで、ナオははっと自分の頬を押さえた。前にも増してナオの表情はわかりやすくなってたし、それに触れることへのためらいも、だんだんと薄れてきた。
 ナオはちょっと気まずそうに笑いながら、

「あの……わがまま、言ってもいいかな。あの曲、やれないかなって」

 『あの曲』とは、どの曲かなんて訊かなくてもわかる。ナオからの提案のあと、結局学園祭の練習そっちのけで作り上げた、わたしたちのオリジナル曲。正直なところ、スコアが完成してからまともに合わせたのは数回しかないけど。

「それはまた、結構な挑戦じゃない?」

 慎重派のてんちゃんに、ナオは申し訳なさそうに肩をすくめながら、

「急でごめん。でも、どうかな……?」

 ナオ以外の三人で、顔を見合わせる。その顔は驚きというより……

「まあ、そうなるよね」

 マキがくすっと笑って、鞄からファイルを引っ張り出した。

「なおっちゃんならそう言いかねないと思って、スコア持ってきたよ」
「わたしも。後夜祭出るならやりたいって言いだすだろうって」

 その横で、わたしも鞄から同じようにスコアを取り出す。驚いたのは、てんちゃんもスコアを持ってきていたことだ。

「ボクは、たまたま持ってただけだ。でも自分で作った譜面だし、叩けないわけない」

 スコアを手にするあたしたちに、ナオは参りましたというように笑って、すぐに表情を引き締めた。

「それじゃ、本番までに最終調整しよう!」
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登場人物紹介

★アナウンス★

・アイコンイラスト(ちびキャラVer)を追加しました。

(2020/07/24)


・奈桜・真希・千夏の夏私服と所有楽器のイメージイラストを

ツイッターに公開中です。

*第2章-#3 を読んでからご覧いただくとより楽しめるかと思います。

斉藤 奈桜《さいとう なお》


高校二年生。いつも明るく、誰とでも仲良くなれる少女。

バンドではギター・ボーカルを務める。

佐倉 千夏《さくら ちなつ》

奈桜の同級生。学校ではおとなしい文学少女。

バンドではギター担当。

井川 真希《いがわ まき》

奈桜の同級生。薙刀部所属の文武両道少女。

バンドではベース担当。

富士森 天音《ふじもり あまね》

千夏のバイト先の店長の娘。高校一年。

バンドにはドラムのサポートメンバーとして参加。

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