宝石のように。 #5 Side Blue
文字数 1,026文字
「ちなっちゃんさあ、なんか弾いてるときの動きよくなった?」
全体練習を終えたあとにマキからそう言われて、柄にもなく心の中でガッツポーズしてしまった。
てんちゃんとの泊まりがけの練習から数日。マキからの言葉は、その練習の成果が、ナオやマキがいる前でも発揮できたという証拠にほかならなかった。(ちなみにてんちゃんのスパルタのおかげで、今日の追試の赤点もギリギリ回避した。念のため。)
「そうそう、ちーちゃんめっちゃかっこよくなってた! もう、これじゃ絶対ファン増えちゃうよー……」
ナオもそう言ってくれたが、語尾は嬉しいんだか嬉しくないんだかよくわからない感じにしぼんでいく。その横で、いつもは仏頂面のてんちゃんがいじわるそうに目を細めて言った。
「そうだよねえ、陰ながらめちゃくちゃ努力してるのに涼しい顔してかっこよく見せてるの、そりゃファンもつくでしょうねえ」
「え、なにそれてんちゃん。ねえちーちゃんなんのこと?」
「……さあ、なんのことかしら」
しらばっくれておいた。ほかのふたりに見つからないようにてんちゃんを睨む。余計なことは言わないでほしい。てんちゃんの言うとおり、努力は見せたくないし知られたくないタイプだから。
でも、と、無理やり話題を方向転換させてみる。
「わたしのファンが増えるってことは、バンドのファンも増えるってことだから、いいことなんじゃない?」
わたしの言葉に、ナオの目が輝いた。
「あたしたちのファン、か……なんか、嬉しいね」
「なんでファンがつく前から一喜一憂してんだよ」とてんちゃんがツッコむ。「ちゃんとファンがついたら、の話だろ」
「あはは、そりゃそうだね! そのためにはもっと練習して、本番でいいパフォーマンスしないと」
マキが笑いながら応えたあと、そういえば、と鞄から携帯を取り出した。
「この前話してた残りの一曲、問い合わせしてみたらスコアありそうだって。注文しちゃっていいかな?」
そうだった。学園祭で演奏する残り一曲がこの前ようやく決まったんだけど、スコアがなかなか見つからなくて、マキに探してもらっていたのだ。
ただ、その話し合いのときから、ナオの様子がおかしい、ように私は感じていた。その曲をやりたくないってわけじゃなさそうだけど、なんというか、そわそわしてる。
「見つかったんだね、よかった! なくならないうちに頼んじゃおう!」
明るくマキに話しかけるナオの手が、一瞬、きゅっと握りしめられたのを、わたしは見逃さなかった。
全体練習を終えたあとにマキからそう言われて、柄にもなく心の中でガッツポーズしてしまった。
てんちゃんとの泊まりがけの練習から数日。マキからの言葉は、その練習の成果が、ナオやマキがいる前でも発揮できたという証拠にほかならなかった。(ちなみにてんちゃんのスパルタのおかげで、今日の追試の赤点もギリギリ回避した。念のため。)
「そうそう、ちーちゃんめっちゃかっこよくなってた! もう、これじゃ絶対ファン増えちゃうよー……」
ナオもそう言ってくれたが、語尾は嬉しいんだか嬉しくないんだかよくわからない感じにしぼんでいく。その横で、いつもは仏頂面のてんちゃんがいじわるそうに目を細めて言った。
「そうだよねえ、陰ながらめちゃくちゃ努力してるのに涼しい顔してかっこよく見せてるの、そりゃファンもつくでしょうねえ」
「え、なにそれてんちゃん。ねえちーちゃんなんのこと?」
「……さあ、なんのことかしら」
しらばっくれておいた。ほかのふたりに見つからないようにてんちゃんを睨む。余計なことは言わないでほしい。てんちゃんの言うとおり、努力は見せたくないし知られたくないタイプだから。
でも、と、無理やり話題を方向転換させてみる。
「わたしのファンが増えるってことは、バンドのファンも増えるってことだから、いいことなんじゃない?」
わたしの言葉に、ナオの目が輝いた。
「あたしたちのファン、か……なんか、嬉しいね」
「なんでファンがつく前から一喜一憂してんだよ」とてんちゃんがツッコむ。「ちゃんとファンがついたら、の話だろ」
「あはは、そりゃそうだね! そのためにはもっと練習して、本番でいいパフォーマンスしないと」
マキが笑いながら応えたあと、そういえば、と鞄から携帯を取り出した。
「この前話してた残りの一曲、問い合わせしてみたらスコアありそうだって。注文しちゃっていいかな?」
そうだった。学園祭で演奏する残り一曲がこの前ようやく決まったんだけど、スコアがなかなか見つからなくて、マキに探してもらっていたのだ。
ただ、その話し合いのときから、ナオの様子がおかしい、ように私は感じていた。その曲をやりたくないってわけじゃなさそうだけど、なんというか、そわそわしてる。
「見つかったんだね、よかった! なくならないうちに頼んじゃおう!」
明るくマキに話しかけるナオの手が、一瞬、きゅっと握りしめられたのを、わたしは見逃さなかった。