空白を埋める人。#2 Side Red

文字数 1,071文字

「なおっちゃん、どう思う?」

 帰りの電車に揺られながら、隣に座るまきちゃんになにを訊かれたのか、あたしは一瞬わからなかった。

「……どうって、なにが?」
「てんちゃんの話。なんか、さっきむずかしー顔してたからさ」

 むずかしー、って言いながら、わざとらしく顔をしかめる。そんな顔してたかなあ、なんて考えてると、むずかしー顔をゆるめて、まきちゃんは言った。

「てんちゃん、引き入れたい?」
「そりゃ入ってほしいけど……でも、難しそうじゃない? まきちゃんも、無理に誘いたくないって……」
「あたしを誘ったときの勢いはどこ行ったの。それに、あのむずかしー顔、なんかいろいろ考えてたんでしょ」

 また顔をしかめた。もう、そのむずかしー顔しなくていいから。まきちゃんに迫られて、あたしはしぶしぶ口を開いた。ちょっと自己中かなって思って、言わないでいたんだけど。

「あたしね、今日二人と合わせて、めっちゃ楽しかったの」
「うん、あたしもすっごく楽しかった。なおっちゃん誘ってくれてありがとって思ったもん」

 え、そう素直に感謝されると、ちょっと照れるなあ……って違う、嬉しいけど話を脱線させちゃいけない。

「だからね、てんちゃんにも、同じ感覚を味わってもらえないかな、って、思ったんだ。一人で音楽つくるのも、カッコいいなって思ったけど……でも、同じ空間で、みんなでせーので出した音が重なるのは、やっぱり一人で音楽つくるのとは違う楽しみがあると思う」

 もちろん強制はしたくなくて。人には向き不向きもあるし、絶対一人でやり遂げたいっていうなら、それは邪魔しちゃダメだとも思う。でも、

「あとね、これは完全にお節介だと思うんだけど……」
「うん、なに?」
「ほんとに、あの子は一人がいいのかな、って」

 余計なお世話だとは重々承知してる。でも店長さんの言葉が、ずっと頭の片隅に引っかかってて。

『ただでさえ友だち作るのも仲良くするのもへったくそなのに、テンがバンドなんて……』

「店長さんはてんちゃんのこと、『誰かと仲良くするのへたくそ』って言ってたけど、もし、ほんとは誰かと何かしたいって思ってるなら、仲間になりたいな、なんて……」

 まあそんな都合のいいことないよね、って笑ってみせたけど、まきちゃんは真面目な顔して聞いてくれてる。

「てんちゃんがどう思ってるか、はっきりさせておきたい、よね」
「うん、できれば……絶対一人がいい! って言われたら、あたしたちも諦めつくし」
「じゃあそれも訊いてもらおうよ」
「え?」
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登場人物紹介

★アナウンス★

・アイコンイラスト(ちびキャラVer)を追加しました。

(2020/07/24)


・奈桜・真希・千夏の夏私服と所有楽器のイメージイラストを

ツイッターに公開中です。

*第2章-#3 を読んでからご覧いただくとより楽しめるかと思います。

斉藤 奈桜《さいとう なお》


高校二年生。いつも明るく、誰とでも仲良くなれる少女。

バンドではギター・ボーカルを務める。

佐倉 千夏《さくら ちなつ》

奈桜の同級生。学校ではおとなしい文学少女。

バンドではギター担当。

井川 真希《いがわ まき》

奈桜の同級生。薙刀部所属の文武両道少女。

バンドではベース担当。

富士森 天音《ふじもり あまね》

千夏のバイト先の店長の娘。高校一年。

バンドにはドラムのサポートメンバーとして参加。

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