あの音は待っている。 #1 Side Blue
文字数 1,130文字
「……どうしたのかしら」
学園祭二日目。昨日より少し早めにバンドセットの準備が始まったステージに向かうと、なにか昨日と違う雰囲気を感じ取った。
昨日はたしか集合時刻ぴったりに来ていた軽音楽部の出演者たちが、今日は早々に四組ほど集まっていた。しかもすでに楽器も準備していて、入念に打ち合わせや練習までしている。
それに、屋外ステージで演奏しない部員たちも集まっているようで、ステージ前はすでにざわざわと熱を帯びていた。
「おっ、佐倉さんおはよー」
そのなかのひとりの女子が、振り返ってわたしに声をかけてきた。同じクラスの子だった。
「おはよう……なんか、人の集まり具合がすごいんだけど、どうしたの? 何かあった?」
「ああ……」
わたしが尋ねると、彼女はさも意味ありげに声のトーンを落として、
「これ、佐倉さんたちのせいだからね」
「わたしたちの、『せい』?」
眉をひそめる。何があったか知らないが、「せい」とは人聞きの悪い。彼女はすぐに「じょーだんじょーだん!」と笑い飛ばしてから、
「それがさー、昨日の佐倉さんたちの演奏聴いてみんな衝撃受けちゃったみたいで。負けてらんない! っていって、ライブ終わってから、音楽教室で居残り練し始めたのよ」
「居残り練?」
「そうそう、いつもなら『打ち上げだー!』って早々に帰っちゃう人たちがさ。今朝も早くから打ち合わせとかしてるし。ここだけの話、先輩たちがあんなマジになってんの初めて見た」
「それは……わたしたちの『おかげ』って言うべきところじゃないかしら」
ぼやきながら、心の中に得も言われぬ感情が広がっていくのを感じていた。
わたしが憧れていた、みんなが真っ直ぐに音楽に向き合って、競い合って、成長していく場所が、そこにできつつある。わたしたちの演奏があったから。
わたしたちの演奏が、誰かを変えることができる力を持っているなんて。
「……そういうことなら、わたしたちも、本気で迎え撃たないとね」
「あれ以上の本気出されたら一撃だよ。うちら先輩の応援要員で来てるけど、佐倉さんたちのところに寝返っちゃう子も出るんじゃないかな……つーかうちにも今度ギター教えてよ、昨日の演奏マジすごかったもん。つーか軽音入ってくれればいいのに。今からでも軽音でやる気ない?」
たたみかけるような彼女の問いに、ほんの一瞬だけ考える。わたしたちを追いかけて、練習に励む彼女たちの姿を。
彼女のキラキラとした瞳に、それでもわたしはきっぱりと言った。
「……ごめんなさい、それはできないの」
「えー残念」彼女は意外とあっさり引き下がって、「でもなんで? 部活じゃ窮屈?」
「そういうのじゃなくて……」
わたしは口を開きながら、仲間の顔を思い浮かべていた。
「それはね……」
学園祭二日目。昨日より少し早めにバンドセットの準備が始まったステージに向かうと、なにか昨日と違う雰囲気を感じ取った。
昨日はたしか集合時刻ぴったりに来ていた軽音楽部の出演者たちが、今日は早々に四組ほど集まっていた。しかもすでに楽器も準備していて、入念に打ち合わせや練習までしている。
それに、屋外ステージで演奏しない部員たちも集まっているようで、ステージ前はすでにざわざわと熱を帯びていた。
「おっ、佐倉さんおはよー」
そのなかのひとりの女子が、振り返ってわたしに声をかけてきた。同じクラスの子だった。
「おはよう……なんか、人の集まり具合がすごいんだけど、どうしたの? 何かあった?」
「ああ……」
わたしが尋ねると、彼女はさも意味ありげに声のトーンを落として、
「これ、佐倉さんたちのせいだからね」
「わたしたちの、『せい』?」
眉をひそめる。何があったか知らないが、「せい」とは人聞きの悪い。彼女はすぐに「じょーだんじょーだん!」と笑い飛ばしてから、
「それがさー、昨日の佐倉さんたちの演奏聴いてみんな衝撃受けちゃったみたいで。負けてらんない! っていって、ライブ終わってから、音楽教室で居残り練し始めたのよ」
「居残り練?」
「そうそう、いつもなら『打ち上げだー!』って早々に帰っちゃう人たちがさ。今朝も早くから打ち合わせとかしてるし。ここだけの話、先輩たちがあんなマジになってんの初めて見た」
「それは……わたしたちの『おかげ』って言うべきところじゃないかしら」
ぼやきながら、心の中に得も言われぬ感情が広がっていくのを感じていた。
わたしが憧れていた、みんなが真っ直ぐに音楽に向き合って、競い合って、成長していく場所が、そこにできつつある。わたしたちの演奏があったから。
わたしたちの演奏が、誰かを変えることができる力を持っているなんて。
「……そういうことなら、わたしたちも、本気で迎え撃たないとね」
「あれ以上の本気出されたら一撃だよ。うちら先輩の応援要員で来てるけど、佐倉さんたちのところに寝返っちゃう子も出るんじゃないかな……つーかうちにも今度ギター教えてよ、昨日の演奏マジすごかったもん。つーか軽音入ってくれればいいのに。今からでも軽音でやる気ない?」
たたみかけるような彼女の問いに、ほんの一瞬だけ考える。わたしたちを追いかけて、練習に励む彼女たちの姿を。
彼女のキラキラとした瞳に、それでもわたしはきっぱりと言った。
「……ごめんなさい、それはできないの」
「えー残念」彼女は意外とあっさり引き下がって、「でもなんで? 部活じゃ窮屈?」
「そういうのじゃなくて……」
わたしは口を開きながら、仲間の顔を思い浮かべていた。
「それはね……」