トレジャーハント。 #7 Side Blue

文字数 1,055文字

「なんや自分ら、えらいけったいな顔しとるな」

 楽屋で他のお客さんやメンバーと話をしていたコウさんは、わたしたちを見るなりけらけらと笑いながらそう言った。人の顔を見て笑うなんて失礼極まりないが、実際怪訝な顔をしてる自覚はあったので反論はできない。
 ライブが終わった後の楽屋は、知り合いのバンドマンさんだろうか、挨拶やら感想やらを交わしてる人たちでごった返していた。大人も混じったこの空間に、わけもわからず紛れているのは正直気が引けるものだ。

「コウさん、今回はチケットありがとうございました!」
「うまく言えないけど……どの曲も、すごかったです」

 ナオとマキは、緊張しながらもコウさんに話しかけた。今日のライブで、ふたりはすっかりPhantomのファンになったようだ。
 コウさんは満足したように頷きながら、

「おうおう、そりゃ誘った甲斐あったわ……ちなちゃん、おおきにな」

 名前を呼ばれて、ちょっと身構える。この前チケットを渡されたとき、うっかり名前を教えたらこれだ。パフォーマンスが素晴らしいことは認めるけど、馴れ馴れしいこの態度はどうも癇に障る。

「んで、ライブ楽しんでくれたんはいいけど、肝心の足りんもんは見つかったん?」

 痛いところを突かれて、ナオが視線を泳がせて照れ笑いをする。

「それはまだ、もう少し……」
「そんな簡単に見つかったら、コウも困るんじゃない?」

 と、横から割り込んできたのはシュウさんだ。

「なんやシュウ、オレらがすぐに抜かされるとでも言うんか?」
「そんなことはないけど、コウ言ってたじゃん、『あの子たちは化けるで~』って」

 化ける? 首を傾げながら、ふと思ったことが口をついて出た。

Phantom(バケモノ)はあなたたちのことではなくて……?」
「ちなちゃん、いいボケやけどそういうことやないで」

 コウさんが呆れ顔ですかさずツッコんでくる。その答えを待つ前に、「でも!」とナオが口を挟んだ。

「今日のライブ観て思ったんです、こんなふうになりたいなって。コウさんたちみたいに、みんなを巻き込んで、心を動かせるように……」
「嬉しいなあ、オレらが目標言うてくれるバンドが出てきたんや、なあシュウ!」

 今度はやたらはしゃいで、シュウさんの肩をバシバシ叩いている。表情のくるくる変わる人だ。シュウさんは痛さに顔をしかめながらも、わたしたちに向かって言った。

「痛っ、コウちょっと落ち着いて……おれも、こんなふうになりたいって言ってもらえるのは嬉しい。ただ、それだったらなおのこと、おれたちだけを見てちゃいけないよ」
「え?」
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登場人物紹介

★アナウンス★

・アイコンイラスト(ちびキャラVer)を追加しました。

(2020/07/24)


・奈桜・真希・千夏の夏私服と所有楽器のイメージイラストを

ツイッターに公開中です。

*第2章-#3 を読んでからご覧いただくとより楽しめるかと思います。

斉藤 奈桜《さいとう なお》


高校二年生。いつも明るく、誰とでも仲良くなれる少女。

バンドではギター・ボーカルを務める。

佐倉 千夏《さくら ちなつ》

奈桜の同級生。学校ではおとなしい文学少女。

バンドではギター担当。

井川 真希《いがわ まき》

奈桜の同級生。薙刀部所属の文武両道少女。

バンドではベース担当。

富士森 天音《ふじもり あまね》

千夏のバイト先の店長の娘。高校一年。

バンドにはドラムのサポートメンバーとして参加。

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