宝石のように。 #4 Side Blue
文字数 1,132文字
「サクラ、もう閉めるけど」
「あ……ごめんなさい、もう少しだけ」
スタジオまで呼びに来たてんちゃんに鏡越しにそう答えると、「またぁ?」とあからさまに顔をしかめられた。
ここ最近、バイトが終わった後に毎回少しだけ 、スタジオと店長の私物のギターを借りて練習をするようにしていた。
「自分のギターじゃなくていいの? あんまり練習にならないと思うんだけど」
「いいの、指じゃなくて身体を動かしたいから」
「だったらなおさら。親父のギター、サクラのより重いだろ?」
「自分のギターを軽く扱えるようになるじゃない」
「筋トレかよ」
てんちゃんの声には終始呆れが混じっている。まあ無理もない。ギターから音をひとつも鳴らさず、アンプにもつないでない。携帯から流す音に合わせて動きだけを練習しているのだから。
「正直に言う、家でやれ」
「もちろん家でもやってるわよ。やってるけど……」
たしかに家でも遅い時間まで練習はできるけど、この練習は、スタジオの広い空間と壁いっぱいの大きな鏡があるほうがいいのだ。
曲の区切りを迎えて、急いでギターを片付けようとしたとき、てんちゃんがおもむろに備え付けのアンプに向かった。手には携帯とアンプをつなげられるシールド、それから消音用のゴムをつけたドラムスティック。
「ボクも叩きたくなった。ワンコーラス流してよ、見ててあげるから」
「え、でももう閉めるって……」
「いいから。人の目があると気持ちも変わるだろ」
その言葉のとおり、一人でやるのと誰かと一緒にやるのとでは、身体の動きに差があった。どちらかというと、悪いほうに。
「……まだ照れがあるんじゃない? ボクが外からこっそり見てたほうが動きがよかったよ」
帰り支度を進めるてんちゃんの指摘に、何も言えずに俯く。図星。誰かに見られていると思うと、練習してたように身体が動かなかったのだ。
もともと、音楽の『音』の部分だけを徹底的に研究して練習してきたから、『自分を魅せる』ことに関しては、初心者も同然だった。
それでも練習を重ねてまあまあ人に見せられるくらいにはなったと思っていたのに、他人の目が入ったとたんにこれだ。振り出しに戻ったような気分で、悔しい。
そんなわたしを見て何を思ったのか、てんちゃんが言った。
「……わかった。明日のバイトの後、うち泊まって練習していきなよ。ボクも付き合うし。音出さなけりゃスタジオも長居していいはずだから」
「ほんと? いいの?」
顔を上げると、間髪入れずに「ただし、」と追加条件が盛り込まれた。
「追試の勉強もするからな。今度赤点取ったら補習なんだろ? それでバイトも練習も休まれたら困る」
「……はい」
肩をすくめて頷く。正直そっちが本当の目的なんだろうな、とは、言わないでおいた。
「あ……ごめんなさい、もう少しだけ」
スタジオまで呼びに来たてんちゃんに鏡越しにそう答えると、「またぁ?」とあからさまに顔をしかめられた。
ここ最近、バイトが終わった後に毎回
「自分のギターじゃなくていいの? あんまり練習にならないと思うんだけど」
「いいの、指じゃなくて身体を動かしたいから」
「だったらなおさら。親父のギター、サクラのより重いだろ?」
「自分のギターを軽く扱えるようになるじゃない」
「筋トレかよ」
てんちゃんの声には終始呆れが混じっている。まあ無理もない。ギターから音をひとつも鳴らさず、アンプにもつないでない。携帯から流す音に合わせて動きだけを練習しているのだから。
「正直に言う、家でやれ」
「もちろん家でもやってるわよ。やってるけど……」
たしかに家でも遅い時間まで練習はできるけど、この練習は、スタジオの広い空間と壁いっぱいの大きな鏡があるほうがいいのだ。
曲の区切りを迎えて、急いでギターを片付けようとしたとき、てんちゃんがおもむろに備え付けのアンプに向かった。手には携帯とアンプをつなげられるシールド、それから消音用のゴムをつけたドラムスティック。
「ボクも叩きたくなった。ワンコーラス流してよ、見ててあげるから」
「え、でももう閉めるって……」
「いいから。人の目があると気持ちも変わるだろ」
その言葉のとおり、一人でやるのと誰かと一緒にやるのとでは、身体の動きに差があった。どちらかというと、悪いほうに。
「……まだ照れがあるんじゃない? ボクが外からこっそり見てたほうが動きがよかったよ」
帰り支度を進めるてんちゃんの指摘に、何も言えずに俯く。図星。誰かに見られていると思うと、練習してたように身体が動かなかったのだ。
もともと、音楽の『音』の部分だけを徹底的に研究して練習してきたから、『自分を魅せる』ことに関しては、初心者も同然だった。
それでも練習を重ねてまあまあ人に見せられるくらいにはなったと思っていたのに、他人の目が入ったとたんにこれだ。振り出しに戻ったような気分で、悔しい。
そんなわたしを見て何を思ったのか、てんちゃんが言った。
「……わかった。明日のバイトの後、うち泊まって練習していきなよ。ボクも付き合うし。音出さなけりゃスタジオも長居していいはずだから」
「ほんと? いいの?」
顔を上げると、間髪入れずに「ただし、」と追加条件が盛り込まれた。
「追試の勉強もするからな。今度赤点取ったら補習なんだろ? それでバイトも練習も休まれたら困る」
「……はい」
肩をすくめて頷く。正直そっちが本当の目的なんだろうな、とは、言わないでおいた。