5 答えを探して
文字数 1,594文字
「んん……ッ……待って」
兄の制止を振り切って、彼の手首を抑えつける。
開かれた胸元に唇を寄せ、優人は滑らかなその肌に酔った。
自分たちには、どうしても越えられない壁がある。どんなに抱きしめ合おうとも、愛を囁こうとも。
他人になら越えられるその壁は二人を阻み、焦燥に追いやる。
『叶わぬ恋だと諦めて、逃げ出したのは俺なんだよ?』
そこにつけ込んだのが阿貴だとしても、自分が悪いと兄は言うのだろうか?
もし自分が、その想いに応えられたのならずっと傍に居られたかも知れないのに、それでも兄は自分が悪いと言うのか?
『阿貴を愛人だというあの男の魔の手が優人たちに向くのを阻止したかった』
そんなこと望んでいないのに。
何も捨てないで欲しかった。傍にいて欲しかった。阿貴の手を跳ねのけて、この手を掴んで欲しかったのに。
『そんな顔しないで。優人には笑っていて欲しい』
『笑えないよ』
笑えるわけがない。
恋が何かを学び、自分が抱えるこの想いが何か知ろうとした。そこまでして兄を理解したいというこの想いこそが『愛』なのだと分かったところでどうにもなりはしない。
もう会えないかも知れない相手にただひたすら会いたいと願う。
それはきっと『恋』なのだろう。
けれども、もし他人から『それは家族だからでしょ』と言われてしまえば崩れてしまいそうなものだった。
恋だ、愛だと言ったところで自分たちには『家族』という事実が存在していて、それが自分たちを阻む大きな壁となっている。
他人の言葉で簡単に曖昧になってしまうほどに。
『じゃあ、どうすればいいの。過去はもう変えられないのに』
兄が自分を好いてくれているのは事実。だがそれは家族への想いとどう違うというのだろう?
兄の涙を拭ってその手を掴む。家までは少しの距離だった。
『兄さんは、恋をしたことがある?』
靴を脱いだ彼をひょいっと抱き上げてベッドルームに直行する。
『優人にだけ……』
ベッドに下ろせば、不安そうに見つめるその瞳。
比べる何かを持たない彼に、それは他人への想いと何が違うのか答えを求めても無駄だろうかと思案する。
『どうしてそれが恋だとわかるの?』
そこで優人は兄から衝撃的なことを聞かされた。
雨の日のあの風呂場でのことを。
『俺はあの日、半裸のお前に欲情した。その腕に抱かれたいと思った』
”こんなのオカシイだろ”と彼は言う。
同性に欲情し、しかもその相手が弟。きっと初めは混乱したに違いない。
『だから一緒に入らなくなったの』
『男は身体に出るし。嫌だろ、お前見てそんなことになってる兄なんて。変態だよ』
一緒に風呂に入ろうとして、そうなっている兄を想像してみる。
『まあ、生理現象かなって思うだろうね』
優人の言葉に兄、和宏が苦笑した。
『ねえ、俺のどういうところが好きなの?』
ベッドに乗り上げ、彼を組み伏せながら問う。
恋とは不思議な現象であることを自分は知っている。
好きから始まるものではなく、恋から始まるものなのだということを。そして人はある時、自分は恋をしているのだと気づき好きであることを自覚する。自覚すれば『愛しい』という気持ちが芽生えだろう。
愛とは育っていくものなのだ。
『え? 全部、好きだよ。顔も声も性格も』
戸惑いながらも回答を口にする彼が愛しい。
いつかこの壁は超えられるのだろうか?
胸を張って愛だと言えるのだろうか?
『んッ……』
彼のシャツのボタンに指をかけながらその唇を奪う。
『和宏』
名前を呼べば、一気に彼の熱が上がる。
人生のゴールとはどこにあるのだろう。
この恋のゴールは何処にあると言うのだろう。
何度その熱を求めても、何かが足りない。
婚姻なんてしなくても、互いの気持ち一つでずっと一緒にいられる関係だ。仮に婚姻できたとしても、それは永遠の約束ではないし保障でもない。
互いの気持ち一つで形を変えるのが恋愛だから。
兄の制止を振り切って、彼の手首を抑えつける。
開かれた胸元に唇を寄せ、優人は滑らかなその肌に酔った。
自分たちには、どうしても越えられない壁がある。どんなに抱きしめ合おうとも、愛を囁こうとも。
他人になら越えられるその壁は二人を阻み、焦燥に追いやる。
『叶わぬ恋だと諦めて、逃げ出したのは俺なんだよ?』
そこにつけ込んだのが阿貴だとしても、自分が悪いと兄は言うのだろうか?
もし自分が、その想いに応えられたのならずっと傍に居られたかも知れないのに、それでも兄は自分が悪いと言うのか?
『阿貴を愛人だというあの男の魔の手が優人たちに向くのを阻止したかった』
そんなこと望んでいないのに。
何も捨てないで欲しかった。傍にいて欲しかった。阿貴の手を跳ねのけて、この手を掴んで欲しかったのに。
『そんな顔しないで。優人には笑っていて欲しい』
『笑えないよ』
笑えるわけがない。
恋が何かを学び、自分が抱えるこの想いが何か知ろうとした。そこまでして兄を理解したいというこの想いこそが『愛』なのだと分かったところでどうにもなりはしない。
もう会えないかも知れない相手にただひたすら会いたいと願う。
それはきっと『恋』なのだろう。
けれども、もし他人から『それは家族だからでしょ』と言われてしまえば崩れてしまいそうなものだった。
恋だ、愛だと言ったところで自分たちには『家族』という事実が存在していて、それが自分たちを阻む大きな壁となっている。
他人の言葉で簡単に曖昧になってしまうほどに。
『じゃあ、どうすればいいの。過去はもう変えられないのに』
兄が自分を好いてくれているのは事実。だがそれは家族への想いとどう違うというのだろう?
兄の涙を拭ってその手を掴む。家までは少しの距離だった。
『兄さんは、恋をしたことがある?』
靴を脱いだ彼をひょいっと抱き上げてベッドルームに直行する。
『優人にだけ……』
ベッドに下ろせば、不安そうに見つめるその瞳。
比べる何かを持たない彼に、それは他人への想いと何が違うのか答えを求めても無駄だろうかと思案する。
『どうしてそれが恋だとわかるの?』
そこで優人は兄から衝撃的なことを聞かされた。
雨の日のあの風呂場でのことを。
『俺はあの日、半裸のお前に欲情した。その腕に抱かれたいと思った』
”こんなのオカシイだろ”と彼は言う。
同性に欲情し、しかもその相手が弟。きっと初めは混乱したに違いない。
『だから一緒に入らなくなったの』
『男は身体に出るし。嫌だろ、お前見てそんなことになってる兄なんて。変態だよ』
一緒に風呂に入ろうとして、そうなっている兄を想像してみる。
『まあ、生理現象かなって思うだろうね』
優人の言葉に兄、和宏が苦笑した。
『ねえ、俺のどういうところが好きなの?』
ベッドに乗り上げ、彼を組み伏せながら問う。
恋とは不思議な現象であることを自分は知っている。
好きから始まるものではなく、恋から始まるものなのだということを。そして人はある時、自分は恋をしているのだと気づき好きであることを自覚する。自覚すれば『愛しい』という気持ちが芽生えだろう。
愛とは育っていくものなのだ。
『え? 全部、好きだよ。顔も声も性格も』
戸惑いながらも回答を口にする彼が愛しい。
いつかこの壁は超えられるのだろうか?
胸を張って愛だと言えるのだろうか?
『んッ……』
彼のシャツのボタンに指をかけながらその唇を奪う。
『和宏』
名前を呼べば、一気に彼の熱が上がる。
人生のゴールとはどこにあるのだろう。
この恋のゴールは何処にあると言うのだろう。
何度その熱を求めても、何かが足りない。
婚姻なんてしなくても、互いの気持ち一つでずっと一緒にいられる関係だ。仮に婚姻できたとしても、それは永遠の約束ではないし保障でもない。
互いの気持ち一つで形を変えるのが恋愛だから。
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