2 彼との日常と思想
文字数 1,652文字
恋愛の定義を問われたら自分には答えられないと思う。
兄が家を出るまでは、好きがなにかも分からずにいた。
今は分かることも確かにあるとは思う。
兄への想いと、試しにつき合ってみた相手への感情は違った。
兄だから恋慕を抱いたというわけでもないのも分かる。
もし別の人が兄だった同じようになら同じように愛せるとは思わないから。
「メッセ?」
優人がスマホに視線を向けたのがきになったのか、平田が一言漏らす。
「いや……」
兄と喧嘩をしても、姉と喧嘩をしても。
いつだって折れるのは相手の方だ。それを一般に甘えと捉えるのか定かではないが、少なくとも平田は甘えだと言うだろう。
店内に静かに流れる旋律。ゆったりとした音楽が心を揺らす。
「そろそろ姉から連絡があるかなと思って」
「自分からはしないのか?」
「しないね」
アイスティーのストローに口をつけながらチラリと平田の方を伺うと、軽く肩を竦めるのが視界に入った。呆れているのだろうか?
「平田はお姉ちゃんのことどう思ってるの」
一緒に暮らし始めて一か月以上は経過している。何もないというのは、そういう感情もないということなのだろうか。仲は良いように感じるが。
「どうって、気の合う友人ってとこかな」
「ふーん」
「何。くっついて欲しいの?」
「そうなったらいいなとは思う」
素直に思っていることを述べれば、眉を潜められた。
「優人は相変わらず酷い奴だな。どういう神経してんだよ」
平田の恨み言を頭の端に追いやりながら、
「こんな俺が好きなんでしょ」
とつまらなそうに吐き出す。
丸く収めたいと思っているわけではないが、そうなったら良いと思っているのは本心だ。自分は平田の想いに応えることはできないし、男が苦手な姉が珍しく仲良くしている相手でもある。
「佳奈さんは優人の初恋の相手でもあるんだろ? そういうのって何か感じたりしないのか?」
言っても無駄だと思ったのだろう。話を変える平田に再び視線を戻す優人。
こんな時、改めて思う。彼は確かに自分の事を一番理解しているかもしれない、と。
「何かとは?」
確かに姉は自分にとって初恋の相手と言って良いと思う。ただ、兄に対しての気持ちとは全く違う。
どうこうなりたいと思ったことはないし、ヤキモチを妬くようなこともない。あれは恋ではあるが『憧れ』だったのだとも思う。
そう説明すれば、
「わかるけどさ」
と彼。
「子供のころ、年上の女兄弟に恋心を抱くのは『母』に近い何かがあるのだと思う」
特に末っ子となると、上の兄姉に甘やかされることが多いのではないだろうか。もちろんすべての家がそうだとは限らない。だが、少なくとも自分はそういう環境であった。
歳の少し上の異性が自分を受け入れて甘やかしてくれる。男児は特にそれを良しとするのではないだろうか。
「まあ、要は男尊女卑の賜物ってことじゃないのか?」
「おま……」
どんなに男女平等の世の中でも”男は自分がエライ”と思いがちだ。それが本能的なものなのか、性格によるものなのかわからないが。チヤホヤしてくれる、肯定してくれる相手を好きだと感じても不思議はない。
「優人、お前は何と言うか……ロマンの欠片もないな」
「そんなもの必要ないでしょ」
自分は女性より優れている。偉いんだ。そう思って生きている男は多いだろう。しかしそれは気のせいだ。人間は努力するから向上する。思い込みで能力が上がるようには出来ていない。
そして偉いと思っている人間は他人を見下している。だから相手を認めようとはしない。
自分は優れていると勘違いしたまま社会に出ても、認められることのない現実が立ちはだかる。自分の能力が認められることなく鬱になるのは、自分の能力を勘違いしているからではないのだろうかと思うのだ。
「俺たちは現実と向き合うべきなんだから」
「俺は優人がなぜモテるのか全くわからないよ」
頭に手をやり項垂れる平田。
そんな彼に優人は、
「見た目が良けりゃ、多少はモテる。それが世の中」
と両手を軽く広げ肩を竦め苦笑いをしたのだった。
兄が家を出るまでは、好きがなにかも分からずにいた。
今は分かることも確かにあるとは思う。
兄への想いと、試しにつき合ってみた相手への感情は違った。
兄だから恋慕を抱いたというわけでもないのも分かる。
もし別の人が兄だった同じようになら同じように愛せるとは思わないから。
「メッセ?」
優人がスマホに視線を向けたのがきになったのか、平田が一言漏らす。
「いや……」
兄と喧嘩をしても、姉と喧嘩をしても。
いつだって折れるのは相手の方だ。それを一般に甘えと捉えるのか定かではないが、少なくとも平田は甘えだと言うだろう。
店内に静かに流れる旋律。ゆったりとした音楽が心を揺らす。
「そろそろ姉から連絡があるかなと思って」
「自分からはしないのか?」
「しないね」
アイスティーのストローに口をつけながらチラリと平田の方を伺うと、軽く肩を竦めるのが視界に入った。呆れているのだろうか?
「平田はお姉ちゃんのことどう思ってるの」
一緒に暮らし始めて一か月以上は経過している。何もないというのは、そういう感情もないということなのだろうか。仲は良いように感じるが。
「どうって、気の合う友人ってとこかな」
「ふーん」
「何。くっついて欲しいの?」
「そうなったらいいなとは思う」
素直に思っていることを述べれば、眉を潜められた。
「優人は相変わらず酷い奴だな。どういう神経してんだよ」
平田の恨み言を頭の端に追いやりながら、
「こんな俺が好きなんでしょ」
とつまらなそうに吐き出す。
丸く収めたいと思っているわけではないが、そうなったら良いと思っているのは本心だ。自分は平田の想いに応えることはできないし、男が苦手な姉が珍しく仲良くしている相手でもある。
「佳奈さんは優人の初恋の相手でもあるんだろ? そういうのって何か感じたりしないのか?」
言っても無駄だと思ったのだろう。話を変える平田に再び視線を戻す優人。
こんな時、改めて思う。彼は確かに自分の事を一番理解しているかもしれない、と。
「何かとは?」
確かに姉は自分にとって初恋の相手と言って良いと思う。ただ、兄に対しての気持ちとは全く違う。
どうこうなりたいと思ったことはないし、ヤキモチを妬くようなこともない。あれは恋ではあるが『憧れ』だったのだとも思う。
そう説明すれば、
「わかるけどさ」
と彼。
「子供のころ、年上の女兄弟に恋心を抱くのは『母』に近い何かがあるのだと思う」
特に末っ子となると、上の兄姉に甘やかされることが多いのではないだろうか。もちろんすべての家がそうだとは限らない。だが、少なくとも自分はそういう環境であった。
歳の少し上の異性が自分を受け入れて甘やかしてくれる。男児は特にそれを良しとするのではないだろうか。
「まあ、要は男尊女卑の賜物ってことじゃないのか?」
「おま……」
どんなに男女平等の世の中でも”男は自分がエライ”と思いがちだ。それが本能的なものなのか、性格によるものなのかわからないが。チヤホヤしてくれる、肯定してくれる相手を好きだと感じても不思議はない。
「優人、お前は何と言うか……ロマンの欠片もないな」
「そんなもの必要ないでしょ」
自分は女性より優れている。偉いんだ。そう思って生きている男は多いだろう。しかしそれは気のせいだ。人間は努力するから向上する。思い込みで能力が上がるようには出来ていない。
そして偉いと思っている人間は他人を見下している。だから相手を認めようとはしない。
自分は優れていると勘違いしたまま社会に出ても、認められることのない現実が立ちはだかる。自分の能力が認められることなく鬱になるのは、自分の能力を勘違いしているからではないのだろうかと思うのだ。
「俺たちは現実と向き合うべきなんだから」
「俺は優人がなぜモテるのか全くわからないよ」
頭に手をやり項垂れる平田。
そんな彼に優人は、
「見た目が良けりゃ、多少はモテる。それが世の中」
と両手を軽く広げ肩を竦め苦笑いをしたのだった。
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