5 穏やかな空気の中で
文字数 1,590文字
「優人は縁結びの神様とか信じてるのか?」
縁結びのお守りを眺める優人を見つめ、和宏は何気なく質問をした。
「どうかな」
と彼。
優人は縁結びのお守りを購入するとパーカーのポケットへしまい、和宏の手を取る。いつの間にか手を繋ぐことが当たり前になっていて、和宏は少し驚いた。
自分にも彼にも。
「人間てさ」
優人は旅館へ戻るため、なだらかな石段を登りながら、
「不安からは逃れられないんだって。今は医療も進歩しているから、いろんな病を治せるけれど、昔はそうではなかったでしょう?」
「ああ」
「どうにもならないことは、神頼みするしかなかった。今もきっとそうなんだと思う。運に頼らなきゃならないことは”神頼み”するしかない」
賑やかなはずなのに、まるで彼と二人だけの世界にいる様な気持ちになるのは、恋をしているからだろうか?
「でもね。選択は必ず自分で、自分の意思でしているはずなんだよ。受験だったら勉強をする選択、なりたいものがあるなら努力するという選択」
彼が何を言わんとしているのか、和宏にはまだわからない。
「俺は、一度目の選択を間違えたかも知れないけれど、ちゃんと兄さんを手に入れた」
選択を間違えたのは自分なのに、優人はそんな風に言うのだなと和宏は思った。
「だから神や仏に頼る前に、自分自身を信じないとねって思う」
仮にチャンスを与えられても、掴むのは自分。
そういうことなのだろう。
「どうしてお守りを?」
今の話しの流れでは、縁結びの神を信じているとは思えない。
「信じてないから買わないというのは、ちょっと違うと思う」
優人の言いたいことが分からず、和宏は眉を寄せた。
「じゃあ、当たらないから宝くじ買わない?」
買う人はそういうことじゃないでしょ? と彼は言う。
「もちろん買わない人もたくさんいるけれど、みんな”当たるかもしれない”という曖昧な想いで買うんだよね」
「つまり、そのお守りも?」
和宏の問いに、ニコッと笑う彼。
人はそれを屁理屈と言うんだぞ! と言う言葉を飲み込んで、和宏は分かったような分からないような、曖昧な返事をする。
「部屋戻ったら、何する? 数日滞在と言っても暇だよね」
「そうだな」
と和宏。
観光目的でない以上、特にやることもない。
「俺は兄さんとイチャイチャしているだけでも良いけれど」
ぼそっとそんなことを言われ、和宏は旅館での情事を思い出し赤くなった。
「車で映画でも観る?」
正直、旅館にずっといても飽きるだけだ。
和宏はいいねと頷く。
旅館の前まで行くと、彼が両親に一報を入れた。
”部屋に居ない”と騒ぎになっても困る。
「大部屋で宴会するって言っているけど、どうする?」
画面を見ていた優人が母からの返信を見ながら和宏に問う。
「いや、人の多いところは苦手だし、酔っぱらいの相手はちょっと」
「そっか。じゃあ、ドライブにでも行こうか? 月が綺麗だし」
映画を観るんじゃなかったのか? と思っていると、助手席に乗るように促される。
十人乗りのゆったりとした空間。夜の独特の空気。
シートに身を沈めながら、運転席に乗り込む優人に目を向けた。
「どうしたの? そんな顔して」
と優人。
シートベルトを締め、ナビに触れたその手が和宏に向けられる。
「どんな顔?」
彼の手が、和宏の前髪に触れた。
「どんな? 説明しづらいな」
髪に触れたその手は頬を伝い、顎を取る。
ちゅっと口づけられて、和宏は頬を赤らめた。
ここは駐車場だ。夜だとは言え、誰が見ているとも限らない。
「さて、夜のドライブを楽しみますか」
何事もなかったかのようにエンジンをかけ、ライトを照らす彼。
自分ばかりがドキドキしているんだなと思いながら、和宏はシートベルトを締めた。
「どこか行きたいところある?」
「いや。お奨めは?」
「来るの初めてなのに?」
要領を得ない会話に彼は肩を竦めつつ、アクセルを踏み込んだのだった。
縁結びのお守りを眺める優人を見つめ、和宏は何気なく質問をした。
「どうかな」
と彼。
優人は縁結びのお守りを購入するとパーカーのポケットへしまい、和宏の手を取る。いつの間にか手を繋ぐことが当たり前になっていて、和宏は少し驚いた。
自分にも彼にも。
「人間てさ」
優人は旅館へ戻るため、なだらかな石段を登りながら、
「不安からは逃れられないんだって。今は医療も進歩しているから、いろんな病を治せるけれど、昔はそうではなかったでしょう?」
「ああ」
「どうにもならないことは、神頼みするしかなかった。今もきっとそうなんだと思う。運に頼らなきゃならないことは”神頼み”するしかない」
賑やかなはずなのに、まるで彼と二人だけの世界にいる様な気持ちになるのは、恋をしているからだろうか?
「でもね。選択は必ず自分で、自分の意思でしているはずなんだよ。受験だったら勉強をする選択、なりたいものがあるなら努力するという選択」
彼が何を言わんとしているのか、和宏にはまだわからない。
「俺は、一度目の選択を間違えたかも知れないけれど、ちゃんと兄さんを手に入れた」
選択を間違えたのは自分なのに、優人はそんな風に言うのだなと和宏は思った。
「だから神や仏に頼る前に、自分自身を信じないとねって思う」
仮にチャンスを与えられても、掴むのは自分。
そういうことなのだろう。
「どうしてお守りを?」
今の話しの流れでは、縁結びの神を信じているとは思えない。
「信じてないから買わないというのは、ちょっと違うと思う」
優人の言いたいことが分からず、和宏は眉を寄せた。
「じゃあ、当たらないから宝くじ買わない?」
買う人はそういうことじゃないでしょ? と彼は言う。
「もちろん買わない人もたくさんいるけれど、みんな”当たるかもしれない”という曖昧な想いで買うんだよね」
「つまり、そのお守りも?」
和宏の問いに、ニコッと笑う彼。
人はそれを屁理屈と言うんだぞ! と言う言葉を飲み込んで、和宏は分かったような分からないような、曖昧な返事をする。
「部屋戻ったら、何する? 数日滞在と言っても暇だよね」
「そうだな」
と和宏。
観光目的でない以上、特にやることもない。
「俺は兄さんとイチャイチャしているだけでも良いけれど」
ぼそっとそんなことを言われ、和宏は旅館での情事を思い出し赤くなった。
「車で映画でも観る?」
正直、旅館にずっといても飽きるだけだ。
和宏はいいねと頷く。
旅館の前まで行くと、彼が両親に一報を入れた。
”部屋に居ない”と騒ぎになっても困る。
「大部屋で宴会するって言っているけど、どうする?」
画面を見ていた優人が母からの返信を見ながら和宏に問う。
「いや、人の多いところは苦手だし、酔っぱらいの相手はちょっと」
「そっか。じゃあ、ドライブにでも行こうか? 月が綺麗だし」
映画を観るんじゃなかったのか? と思っていると、助手席に乗るように促される。
十人乗りのゆったりとした空間。夜の独特の空気。
シートに身を沈めながら、運転席に乗り込む優人に目を向けた。
「どうしたの? そんな顔して」
と優人。
シートベルトを締め、ナビに触れたその手が和宏に向けられる。
「どんな顔?」
彼の手が、和宏の前髪に触れた。
「どんな? 説明しづらいな」
髪に触れたその手は頬を伝い、顎を取る。
ちゅっと口づけられて、和宏は頬を赤らめた。
ここは駐車場だ。夜だとは言え、誰が見ているとも限らない。
「さて、夜のドライブを楽しみますか」
何事もなかったかのようにエンジンをかけ、ライトを照らす彼。
自分ばかりがドキドキしているんだなと思いながら、和宏はシートベルトを締めた。
「どこか行きたいところある?」
「いや。お奨めは?」
「来るの初めてなのに?」
要領を得ない会話に彼は肩を竦めつつ、アクセルを踏み込んだのだった。
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