4 ヤキモチと欲情【微R】
文字数 1,597文字
腕の中の兄を見つめながら、幸せとは何かについて考える。
それはきっと、大切なモノを奪われないことだと思う。
大切なモノは全力で守らないと壊れてしまうかもしれない。
それでも奪われなければ、幸せは守れるだろう。
「兄さん」
和宏に覆いかぶさり、耳元で縋るように彼を呼ぶ。
腹に触れる彼の欲望の塊。
その欲が自分にだけ向けばいいと思う。この先もずっと、永遠に。
「んんッ……」
何度も深く繋がり、快感に溺れた彼の瞳は潤んでいた。
この熱が向かう先は、兄だけ。
これから起こることに不安を感じているのは自分だけだろうか?
不安にならないのは、信じているから?
問いかけは音にはならなかった。
「愛しているよ」
「んッ」
背中に回された兄の手が熱を持っている。
優人は両手で彼の両頬を包むと何度も口づけた。
不安をかき消すように。
「優人」
「うん?」
”俺も愛しているよ”
ぎゅっとしがみついて、吐息のような囁き。
耳の奥で熱に変わり、ゆっくりと心を満たしていく。
──飢えているのかな、俺は。
優人は心の中で小さくため息をついた。
この試練を乗り越えたら、待っているのは自由。
これ以上協力する義理もないはずだ。
そう思いたいのに……。
その先の未来なんて、きっと誰にも分かりはしない。
平穏かもしれないし、苦難の道が待っているかもしれない。
それでも時は前にしか進まないのだ。
泣いても笑っても待っているのは未来だけ。
優人は兄の髪を優しく撫で、肩口に顔を埋めた。
一つになって、このまま溶けてしまえたなら何も心配なんてしなくていいのにと思いながら。
「最近、お姉ちゃんが平田と二人で出かけたりしている」
「そっか」
情事の後、市街に車を繰り出した。観光地というのは、意外となにもないものなんだなと思いつつ。
「兄さんはそういうの反対したりとか」
「いや。佳奈が良ければそれで」
兄の返答に、
「兄さんって昔からそうだよね」
とクスリと笑う。
和宏は妹も弟も同じように溺愛はしていたと思う。しかし佳奈と優人に関して反応が全く違うのだ。
「ん? 何がだ」
「お姉ちゃんのことは本人の意思に任せるという感じ。俺だったら反対するクセに」
言ってしまってから、しまったと思ったが後の祭り。
言った後にその意味に気づくなんて。
「それは……」
言わなくても分かっている。
──兄さんは俺のことが好きだから……。
バカだな、俺。
「まあ、相手が誰であっても反対はする」
和宏は自嘲気味に笑うと窓の外に視線を移して。
こんな時、軽く笑って流せるなら自分から離れて行ったりはしなかった。
兄はそういう人なのだ。
真面目で正直で、一人で何とかしようとする人。
「兄さん、ごめん」
優人はハンドルを握り締め、唇を噛んだ。
流れゆく光。まるで満点の星空の中を泳ぐような夜のドライブ。ロマンチックなデートのはずが、自分の一言でぶち壊し。
「何を謝る必要があるんだよ」
兄は言って笑う。
「だって……無神経なこと言ったし」
「いいよ、本当のことだし」
兄の声音が気になり、優人はおもむろにハンドルを切ると車を停めた。
「ん?」
後ろから来た車が傍らに停めた優人たちの乗る車を追い越していく。
「どうし……」
異変に気付いた和宏が優人の方に目を向けた。
その腕を掴む優人。シートベルトを外しながら、彼に口づける。
「優人?」
「ごめんね」
「何、謝って……」
「泣きそうな顔してた」
じっと和宏を見つめる。暗い車内。
時折横をすり抜けていく車があるくらいで、静かな夜だ。
「そんな顔……してたか?」
困ったように問う、彼。
「してた」
胸が苦しくなって再び和宏に口づける。舌を追って深く。
「ん……ッ。優人……だめ」
「なにが、ダメ?」
「そんな風にされたら、俺……また」
求めあうのは悪いことではないはずだ。
だがここは公道……。
「旅館、戻ろうか」
優人の問いに彼は頷いたのだった。
それはきっと、大切なモノを奪われないことだと思う。
大切なモノは全力で守らないと壊れてしまうかもしれない。
それでも奪われなければ、幸せは守れるだろう。
「兄さん」
和宏に覆いかぶさり、耳元で縋るように彼を呼ぶ。
腹に触れる彼の欲望の塊。
その欲が自分にだけ向けばいいと思う。この先もずっと、永遠に。
「んんッ……」
何度も深く繋がり、快感に溺れた彼の瞳は潤んでいた。
この熱が向かう先は、兄だけ。
これから起こることに不安を感じているのは自分だけだろうか?
不安にならないのは、信じているから?
問いかけは音にはならなかった。
「愛しているよ」
「んッ」
背中に回された兄の手が熱を持っている。
優人は両手で彼の両頬を包むと何度も口づけた。
不安をかき消すように。
「優人」
「うん?」
”俺も愛しているよ”
ぎゅっとしがみついて、吐息のような囁き。
耳の奥で熱に変わり、ゆっくりと心を満たしていく。
──飢えているのかな、俺は。
優人は心の中で小さくため息をついた。
この試練を乗り越えたら、待っているのは自由。
これ以上協力する義理もないはずだ。
そう思いたいのに……。
その先の未来なんて、きっと誰にも分かりはしない。
平穏かもしれないし、苦難の道が待っているかもしれない。
それでも時は前にしか進まないのだ。
泣いても笑っても待っているのは未来だけ。
優人は兄の髪を優しく撫で、肩口に顔を埋めた。
一つになって、このまま溶けてしまえたなら何も心配なんてしなくていいのにと思いながら。
「最近、お姉ちゃんが平田と二人で出かけたりしている」
「そっか」
情事の後、市街に車を繰り出した。観光地というのは、意外となにもないものなんだなと思いつつ。
「兄さんはそういうの反対したりとか」
「いや。佳奈が良ければそれで」
兄の返答に、
「兄さんって昔からそうだよね」
とクスリと笑う。
和宏は妹も弟も同じように溺愛はしていたと思う。しかし佳奈と優人に関して反応が全く違うのだ。
「ん? 何がだ」
「お姉ちゃんのことは本人の意思に任せるという感じ。俺だったら反対するクセに」
言ってしまってから、しまったと思ったが後の祭り。
言った後にその意味に気づくなんて。
「それは……」
言わなくても分かっている。
──兄さんは俺のことが好きだから……。
バカだな、俺。
「まあ、相手が誰であっても反対はする」
和宏は自嘲気味に笑うと窓の外に視線を移して。
こんな時、軽く笑って流せるなら自分から離れて行ったりはしなかった。
兄はそういう人なのだ。
真面目で正直で、一人で何とかしようとする人。
「兄さん、ごめん」
優人はハンドルを握り締め、唇を噛んだ。
流れゆく光。まるで満点の星空の中を泳ぐような夜のドライブ。ロマンチックなデートのはずが、自分の一言でぶち壊し。
「何を謝る必要があるんだよ」
兄は言って笑う。
「だって……無神経なこと言ったし」
「いいよ、本当のことだし」
兄の声音が気になり、優人はおもむろにハンドルを切ると車を停めた。
「ん?」
後ろから来た車が傍らに停めた優人たちの乗る車を追い越していく。
「どうし……」
異変に気付いた和宏が優人の方に目を向けた。
その腕を掴む優人。シートベルトを外しながら、彼に口づける。
「優人?」
「ごめんね」
「何、謝って……」
「泣きそうな顔してた」
じっと和宏を見つめる。暗い車内。
時折横をすり抜けていく車があるくらいで、静かな夜だ。
「そんな顔……してたか?」
困ったように問う、彼。
「してた」
胸が苦しくなって再び和宏に口づける。舌を追って深く。
「ん……ッ。優人……だめ」
「なにが、ダメ?」
「そんな風にされたら、俺……また」
求めあうのは悪いことではないはずだ。
だがここは公道……。
「旅館、戻ろうか」
優人の問いに彼は頷いたのだった。
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