2 ヤキモチと愛情と【微R】

文字数 1,599文字

「大丈夫だよ。ゆっくりするから」
 浅く息を吐く和宏に、優しく言い聞かせる様な優人の言葉。
 それだけで気が変になりそうだった。

 彼に恋をしたのはいつだったろうか?
 五歳という年の差。
 兄弟という関係。
 同性という壁。
 どれも自分にとっては苦しみしか感じない要素だったと思う。

 雨のあの日。
『兄さんも一緒に入る?』
 帰宅が重なり、濡れた服を脱衣所に置こうとして、服を脱いでいた彼に出くわす。いつの間にかしっかりとした体つきをしており、目のやり場に困った。
 けれどまだ子供だと思っていたのだ。

「指、挿れるよ?」
「んッ……」
 入り口を優しく刺激していた指がゆっくりと中へ入ってくる。
 今目に映る彼はちゃんと大人の体つきをしており、惚れ惚れするほどだった。三年という月日を、成長していく様子を見ることのできなかった自分。
 逃げたのは自分なのに、悔しく思っている。
 愚かだ。

「兄さん」
 自分を呼ぶ切なげな声。 
 彼のその声音がとても好きだった。
 高すぎず低すぎない優しい声。
「もう、俺を置いていかないで」
 じっとこちらを見つめる瞳。
 その瞳に見つめられるといつでも、心がぎゅっと締め付けられた。

「ずっと傍に居てよ」
 そっと頬に触れるその手。
 小さい頃はその手を引いてどこまでも行けると思っていた。
「俺の心、全部あげるから」

──手に入らないと思っていたんだ。
 だって……いつだって、お前はモテるから。
 会わなかった間に、何人恋人が出来たのだろう?
 傍にすらいなかったのに、嫉妬でいっぱいだ。

 和宏の真似をして僕と言わなくなった弟。
 いつだって自分や佳奈の真似をして、背のびばかりしていたのに。
 もう、届かない。
 ずっとずっと大人になった。

「はあ……ッ……ん」
「聴こえるでしょ? 兄さんのここからしてる」
 卑猥な音が部屋に響く。
 あんなに怖かったのに、繋がりたいと思ってしまっている自分がいる。
「優人……」
 その名を呼ぶだけで、おかしくなりそうだ。
 壊れていく何かを両手で拾い集めて、大事に胸に抱える。

 違う出会い方をしていたなら、きっと手に入れることなんて出来なかっただろう。重たい壁が今もなお自分を阻むのに、こんな道しかなかったなんて。
 誰に許されたなら、自分を許されるのだろう。
 
 家では人懐こい笑顔で笑うのに、外では違うことを知る。
 あんな顔をもするんだと思った。
 モニターの向こう側。
 彼に対し、優人は感情を表そうとはしなかった。

「ねえ、約束してよ。兄さん」
 返事の代わりにぎゅっと抱き着くが、彼は許してはくれないだろう。
「約束してくれないなら……」
 耳元で甘く囁く声。
「閉じ込めちゃうから」
 驚いて目を見開く和宏。
「うそだよ♡」
と、瞬きをして少し首を傾げる彼。

──いつもそうやって、女を虜にしてんのかよ。
 嫉妬しそうだ。

「無理矢理約束させても意味ないしね」
「くッ……」
 一際奥まで指を差し入れられ、和宏は胸を仰け反らせた。
 彼がそんな和宏の鎖骨に口づける。

「んん……ッ」
 彼がくれる愛撫は、全て自分を満たしていく。
 少しづつ確実に。
「約束はする。だけど……」
「うん?」
 想定外だったのだろうか?
 不思議そうな顔をされる。
「浮気したら、許さない」
 涙目で睨みつけるように言うと、優人はクスリと笑った。

 ゆっくりと深いため息をつくと、
「俺が浮気すると思ってるんだ?」
と彼。
「お前、モテるんだろ? 色んな子と付き合ってたって、母さんから聞いてる」
「ヤキモチ?」
 じっとこちらを見つめる瞳。
 心を見透かされたように感じ、和宏は頬を染める。

「妬いて悪いかよ……」
 可愛くないなと思いながらも、プイッと横向く。
 目じりに溜まった涙を見られたくなかった。
 それなのに。

「すねないでよ、嬉しい」
 なんて言うものだから、心が跳ねた。
 ゆっくりと指が引き抜かれ、
「繋がりたい」
と言われる。
「好きだよ」
 愛の言葉とともに。
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