4 ズレた好奇心
文字数 1,623文字
「ただいま」
中に向かって声をかける優人に続いて平田はリビングへ。
「お邪魔します」
ソファーに腰掛けTVモニターを眺めている和宏の姿を認めてから声を発すれば、彼はリビングの入口へ顔を向ける。
「お帰り、優人。いらっしゃい、平田君」
家の中だというのに白のYシャツに黒のスラックスという恰好をしている彼は相変わらず年寄り若く見えた。
三つほどボタンの開けたシャツから覗く鎖骨が目を引く。
「またつまらない映画観てるの」
優人はキッチンの冷蔵庫を開けながら。
「仕方ないだろ、仕事なんだから」
「断ればいいのに」
呆れ声の優人。和宏は軽く肩を竦めると手を広げる。そんな彼と目が合った平田はどう反応して良いのか分からなかった。
「片織さんは? 仕事の打ち合わせって言ってなかった?」
「終わって帰った」
「ふうん」
二人分の飲み物を用意すると彼はカウンター席に座り、身を捩る。どこに座るとでも聞くように平田に視線を移す優人。
平田は誘われるようにして優人の傍に立つと飲み物を受け取り、TVモニターの方を向いて腰かけた。
「見るわけ」
「見てみようかなとは思う」
「物好きな」
呆れた声で言葉を発し頬杖をつく彼。
そんな優人を意外だなと感じていた。
ソファでTVモニターを見つめている和宏は、優人のことを気にしていないようだ。思わず、この二人って本当に恋人同士なんだよなと疑念が湧く。
確かに優人は人前で恋人とベタベタするタイプではないと思う。和宏も然り。だが、この距離感がとても自然に見えてしまっている。
──いや、決してイチャイチャしているところを見たいとかではないぞ。
「何、どうかした?」
頬杖をついてつまらなそうにTVモニターを眺めていた優人が平田の視線に気づく。
「どうかしたとかではないが」
「ん?」
不思議そうな顔をする彼。
「名前で呼ぶようになった割にはドライに見えるなと思ってさ」
平田の言葉に彼は眉を寄せ、ため息を漏らす。
何か変なことを言ってしまっただろうかと思っていると。
「平田はさ」
「なんだよ」
「俺のことが好きなんだよな?」
「そうだが?」
何を今更という体 で返事をしたが、彼は一層呆れた顔をした。
「何、平田はドMなの? 俺が和宏とイチャイチャしているところを見たいとか」
「そこまでは言ってない」
「でも、言っているようなものだろ」
”言われてみれば確かにそうだな”と平田は再びTVモニターに視線を戻す。
自分は優人のことが好きだ。しかし彼は絶対に自分の方には向かない。それは決して変わることはないだろう。
彼の想い人が誰なのか分かり、何故自分では無理なのか分かったつもりではいる。だがそれ自体を諦めたとしても、好奇心は残るものだ。
恋人の前ではどんな風に彼が変化するのか。知ることができないからこそ、知りたいと思っても不思議ではないだろう。
「そもそも、そんなもの見てどうしたいわけ」
「別にこれと言ってどうするわけでもない」
「ふうん」
──確かに見たところでどうすることもないだろう。
優人はタチなわけだし。
なんら妄想の糧にもならない。単に意外な一面を見たいだけ。
「ま、適当に想像していたらいいんじゃない?」
いよいよ映画に飽きたのか、伸びをして椅子から立ち上がる彼。
「じゃあ、俺。風呂行ってくるから」
「ん? ああ」
”一緒に入る?”と耳元で囁かれ、ドキリとした。
「優人の冗談は心臓に悪い」
「そ? びっくりすると若返るらしいよ」
「俺たちまだ、ギリ十代」
”これ以上若返ってどうする”と言えば、彼はふっと笑う。
優人が離席すると平田はぼんやりと和宏を眺めた。
はじめこそ敵意むき出しだった彼は、今や平田の動向を気にも留めていない様に見える。つまり自分はもう、嫉妬の対象ではないのだろう。
「面白いですか?」
そんな彼に何気なく尋ねる平田。それはもちろん映画のことだ。
「いや、全然」
”見どころが全くわからん”と零す彼に、仕事は大変だなと同情してしまう平田であった。
中に向かって声をかける優人に続いて平田はリビングへ。
「お邪魔します」
ソファーに腰掛けTVモニターを眺めている和宏の姿を認めてから声を発すれば、彼はリビングの入口へ顔を向ける。
「お帰り、優人。いらっしゃい、平田君」
家の中だというのに白のYシャツに黒のスラックスという恰好をしている彼は相変わらず年寄り若く見えた。
三つほどボタンの開けたシャツから覗く鎖骨が目を引く。
「またつまらない映画観てるの」
優人はキッチンの冷蔵庫を開けながら。
「仕方ないだろ、仕事なんだから」
「断ればいいのに」
呆れ声の優人。和宏は軽く肩を竦めると手を広げる。そんな彼と目が合った平田はどう反応して良いのか分からなかった。
「片織さんは? 仕事の打ち合わせって言ってなかった?」
「終わって帰った」
「ふうん」
二人分の飲み物を用意すると彼はカウンター席に座り、身を捩る。どこに座るとでも聞くように平田に視線を移す優人。
平田は誘われるようにして優人の傍に立つと飲み物を受け取り、TVモニターの方を向いて腰かけた。
「見るわけ」
「見てみようかなとは思う」
「物好きな」
呆れた声で言葉を発し頬杖をつく彼。
そんな優人を意外だなと感じていた。
ソファでTVモニターを見つめている和宏は、優人のことを気にしていないようだ。思わず、この二人って本当に恋人同士なんだよなと疑念が湧く。
確かに優人は人前で恋人とベタベタするタイプではないと思う。和宏も然り。だが、この距離感がとても自然に見えてしまっている。
──いや、決してイチャイチャしているところを見たいとかではないぞ。
「何、どうかした?」
頬杖をついてつまらなそうにTVモニターを眺めていた優人が平田の視線に気づく。
「どうかしたとかではないが」
「ん?」
不思議そうな顔をする彼。
「名前で呼ぶようになった割にはドライに見えるなと思ってさ」
平田の言葉に彼は眉を寄せ、ため息を漏らす。
何か変なことを言ってしまっただろうかと思っていると。
「平田はさ」
「なんだよ」
「俺のことが好きなんだよな?」
「そうだが?」
何を今更という
「何、平田はドMなの? 俺が和宏とイチャイチャしているところを見たいとか」
「そこまでは言ってない」
「でも、言っているようなものだろ」
”言われてみれば確かにそうだな”と平田は再びTVモニターに視線を戻す。
自分は優人のことが好きだ。しかし彼は絶対に自分の方には向かない。それは決して変わることはないだろう。
彼の想い人が誰なのか分かり、何故自分では無理なのか分かったつもりではいる。だがそれ自体を諦めたとしても、好奇心は残るものだ。
恋人の前ではどんな風に彼が変化するのか。知ることができないからこそ、知りたいと思っても不思議ではないだろう。
「そもそも、そんなもの見てどうしたいわけ」
「別にこれと言ってどうするわけでもない」
「ふうん」
──確かに見たところでどうすることもないだろう。
優人はタチなわけだし。
なんら妄想の糧にもならない。単に意外な一面を見たいだけ。
「ま、適当に想像していたらいいんじゃない?」
いよいよ映画に飽きたのか、伸びをして椅子から立ち上がる彼。
「じゃあ、俺。風呂行ってくるから」
「ん? ああ」
”一緒に入る?”と耳元で囁かれ、ドキリとした。
「優人の冗談は心臓に悪い」
「そ? びっくりすると若返るらしいよ」
「俺たちまだ、ギリ十代」
”これ以上若返ってどうする”と言えば、彼はふっと笑う。
優人が離席すると平田はぼんやりと和宏を眺めた。
はじめこそ敵意むき出しだった彼は、今や平田の動向を気にも留めていない様に見える。つまり自分はもう、嫉妬の対象ではないのだろう。
「面白いですか?」
そんな彼に何気なく尋ねる平田。それはもちろん映画のことだ。
「いや、全然」
”見どころが全くわからん”と零す彼に、仕事は大変だなと同情してしまう平田であった。
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