1 対立する兄と妹
文字数 1,620文字
【Side:兄 和宏】
二人だけで逢うのは良くないという妹、佳奈の言葉を振り切って強行に出た和宏。しかし佳奈はやはりいい顔はしなかった。
「なんだよ、実の妹と会うくらい。優人だって悪くは思わないだろ?」
彼女の運転する可愛らしい軽自動車の助手席で、和宏は不服そうに腕を組んだ。
「お兄ちゃんはホントわかってないなあ。兄弟間って言うのが一番微妙な関係なのよ。ともすれば友人関係以上に仲間外れにされているような気持ちになるものなんだから」
「優人はそんなガキじゃないだろ」
普段は仲の良い兄妹だと自負さえしているが、こと優人のこととなると意見が対立する二人。
「お兄ちゃん、ホント横暴よね。だから優人があんな風になっちゃうのよ」
「あんなとは?」
「自分曲げてまで、お兄ちゃんの理想でいようとするの!」
”はい、着いたよ”と目的地の駐車場で車を停めた佳奈。
「嫌なことを嫌と言わせてあげるって、結構大変なことなんだからね」
「はいはい、すみませんね」
もし彼が自分から望んでそうしているわけではなく、単に自分に合わせているだけなのだとしたらと思うと嫌な気持ちになる。そしてそうさせているのが自分だとするなら。
好きな相手に好かれたい。嫌われたくないという気持ちは理解できる。
自分もそうだから。
それでも”別に嫌われてもいいや”くらいの気持ちで自分らしくいてくれた方がいい。自分はできないくせに人は他人にそれを求める生き物なのだ。
ネットでしか自分を出せないという人は多くいる。
リセットできる世界だから自分らしくいられる、怖くないなどと思うのだろう。
自分らしくいられるというのは、自然体のことであって他人に横暴ということではない。何をやっても許されるというのは間違い。
素で作り上げた場所だからこそ、その世界を大事にする人もいるだろう。
家族にすら本音で接することができるとは限らない。
どんな関係であってもトラブルを避けるに越したことはないのだから。
だからこそこんな風に本音でぶつかり合える佳奈 との関係は大切にしたいと思う。と思って”二人きりでお茶でもしよう”と思い立ったのは間違いだというのだろうか。
彼女のお奨めの喫茶店は優人も好みそうなレトロアンティークカフェ。
「ここの紅茶の缶がお洒落でね。買って帰ったら?」
「そうだな」
チリリンと小気味の良い音が二人を迎える。
白の襟付きのシャツに亜麻色のパンツに黒のエプロンというお洒落なユニフォーム。
全体にダークブラウンの内装。リズムが良く心地の良いピアノ曲がさらにお洒落さを上げている。
「呼んだ方が良いわよー? 絶対あとで拗ねるもの」
「ん」
席に案内され、水とおしぼりとメニューが置かれた。注文が決まった頃に伺いますと店員が下がっていく。
「お兄ちゃん、ここのリンゴケーキお奨め。クルミとラムレーズンが入っていて絶妙」
「じゃあ、それにしようかな」
優人にグループメッセージを送る。兄弟三人で作っているグループのものだ。その間に佳奈が注文を済ませてくれた。
「ところで佳奈はこういうとこ誰と来るんだ? 大学の友達か」
「ううん。平田君」
佳奈の言葉に和宏はむせる。
いつの間にそんなに仲良くなったんだと思いながら。
「平田君と仲いいんだな」
「まあ、ルームシェアできるくらいだしね」
”平田君と来るって”と画面を見ながら佳奈。
「優人と一緒にいるだけあって楽な部分は多いよね」
「そうなんだ」
意外と言えば意外だが、納得と言えば納得だった。
「にしても、平田君ってマメよね」
「ん?」
アイスティーのストローに口をつけていた和宏は話を振られ、彼女の方を見る。佳奈はメニュー表を眺めながら話をしていた。
「おかずの作り置きとか常備食とか作ってくれるの。パスタのソースは絶品よ」
「へえ」
「それにしても不思議よねえ。なんで優人って平田君と行動するときは自分で運転しないのかしら」
佳奈の話を和宏はぼんやりと聞いていたのだった。
二人だけで逢うのは良くないという妹、佳奈の言葉を振り切って強行に出た和宏。しかし佳奈はやはりいい顔はしなかった。
「なんだよ、実の妹と会うくらい。優人だって悪くは思わないだろ?」
彼女の運転する可愛らしい軽自動車の助手席で、和宏は不服そうに腕を組んだ。
「お兄ちゃんはホントわかってないなあ。兄弟間って言うのが一番微妙な関係なのよ。ともすれば友人関係以上に仲間外れにされているような気持ちになるものなんだから」
「優人はそんなガキじゃないだろ」
普段は仲の良い兄妹だと自負さえしているが、こと優人のこととなると意見が対立する二人。
「お兄ちゃん、ホント横暴よね。だから優人があんな風になっちゃうのよ」
「あんなとは?」
「自分曲げてまで、お兄ちゃんの理想でいようとするの!」
”はい、着いたよ”と目的地の駐車場で車を停めた佳奈。
「嫌なことを嫌と言わせてあげるって、結構大変なことなんだからね」
「はいはい、すみませんね」
もし彼が自分から望んでそうしているわけではなく、単に自分に合わせているだけなのだとしたらと思うと嫌な気持ちになる。そしてそうさせているのが自分だとするなら。
好きな相手に好かれたい。嫌われたくないという気持ちは理解できる。
自分もそうだから。
それでも”別に嫌われてもいいや”くらいの気持ちで自分らしくいてくれた方がいい。自分はできないくせに人は他人にそれを求める生き物なのだ。
ネットでしか自分を出せないという人は多くいる。
リセットできる世界だから自分らしくいられる、怖くないなどと思うのだろう。
自分らしくいられるというのは、自然体のことであって他人に横暴ということではない。何をやっても許されるというのは間違い。
素で作り上げた場所だからこそ、その世界を大事にする人もいるだろう。
家族にすら本音で接することができるとは限らない。
どんな関係であってもトラブルを避けるに越したことはないのだから。
だからこそこんな風に本音でぶつかり合える
彼女のお奨めの喫茶店は優人も好みそうなレトロアンティークカフェ。
「ここの紅茶の缶がお洒落でね。買って帰ったら?」
「そうだな」
チリリンと小気味の良い音が二人を迎える。
白の襟付きのシャツに亜麻色のパンツに黒のエプロンというお洒落なユニフォーム。
全体にダークブラウンの内装。リズムが良く心地の良いピアノ曲がさらにお洒落さを上げている。
「呼んだ方が良いわよー? 絶対あとで拗ねるもの」
「ん」
席に案内され、水とおしぼりとメニューが置かれた。注文が決まった頃に伺いますと店員が下がっていく。
「お兄ちゃん、ここのリンゴケーキお奨め。クルミとラムレーズンが入っていて絶妙」
「じゃあ、それにしようかな」
優人にグループメッセージを送る。兄弟三人で作っているグループのものだ。その間に佳奈が注文を済ませてくれた。
「ところで佳奈はこういうとこ誰と来るんだ? 大学の友達か」
「ううん。平田君」
佳奈の言葉に和宏はむせる。
いつの間にそんなに仲良くなったんだと思いながら。
「平田君と仲いいんだな」
「まあ、ルームシェアできるくらいだしね」
”平田君と来るって”と画面を見ながら佳奈。
「優人と一緒にいるだけあって楽な部分は多いよね」
「そうなんだ」
意外と言えば意外だが、納得と言えば納得だった。
「にしても、平田君ってマメよね」
「ん?」
アイスティーのストローに口をつけていた和宏は話を振られ、彼女の方を見る。佳奈はメニュー表を眺めながら話をしていた。
「おかずの作り置きとか常備食とか作ってくれるの。パスタのソースは絶品よ」
「へえ」
「それにしても不思議よねえ。なんで優人って平田君と行動するときは自分で運転しないのかしら」
佳奈の話を和宏はぼんやりと聞いていたのだった。
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