4 理性と欲情の狭間【微R】

文字数 1,635文字

「ダメだよ、力抜いて」
 ”中、傷ついちゃうでしょ”と言えば、兄は潤んだ瞳を優人に向けぎゅっと抱き着いてくる。
「可愛いなあ」
 ちゅっと首筋に吸い付けば、兄はびくりと身体を震わす。別なところへ意識がいったからか、彼の奥から少し力が抜けた。
「んッ……あああッ」
 力の抜けた最奥の蕾に何度もジェルを継ぎ足しながら指を抜き挿ししてゆく。
「下のお口気持ちいいの?」
「そんな……言い方」
 言葉を濁してはいても直接的過ぎる質問だったからか、兄は頬を赤らめた。

 毎日でもしたいと兄が言うので、二日と間を空けずに抱き合うような毎日だが一向に慣れない彼が愛しい。
 それでもしたがるのは彼が優人(じぶん)のことを想ってくれているから。
 身体を開くのはそれほどに負担になる行為だと思っている。

 恥ずかしがる彼に何度も口づけ、やがて舌を追って夢中になった。
 愛して愛されるのは奇跡。それが兄弟ならなおさら。
 そもそも恋愛感情とは不思議な感情だ。
 タイプだからと言って必ず恋愛感情が湧くわけではないし、好かれているからと言って愛情が湧くとも限らない。人間は動物の仲間でありながら本能ではなく、感情によってパートナーを選ぶことが出来る。
 だからこそその愛を失わないように、努力をするのだ。

 優人は二人の間に存在する兄の欲望に指を絡める。強く扱き上げると彼は快感に身をよじった。
「はあッ……」
「兄さん。()ってもいいよ」
「や……ッ」
 一緒がいいと言われ、優人は彼の奥から指をゆっくりと引き抜く。
「いいよね?」
 耳元で優しく問いかければ、彼がコクコクと頷いた。
 それがどんな意味なのか、二人の間に説明は要らない。だが、いいよ言いながらも大きく(もも)を開かれれば兄は羞恥に顔を腕で覆う。

 自分は恋愛が何かを知るために。
 恋とはどんなものかを知るために、いろんな相手とつき合った。
 学ぶことは多かったと思う。それと同時に自分が相手に対して恋愛感情を抱いてもいないのに恋人関係になることがどれだけ良くないことなのかも知った。
 知りたかったのは感情のメカニズムだったから、そこに体の関係は求めてはいない。そんな優人に対し、焦れて迫ってくる相手も確かにいる。
 だがいつまでも恥じらいを持っている兄だからこそ、自分は欲情するのだと感じていた。

 恐らく、好きという感情自体は誰に対して持っても自由。相手がどんな性別であろうがどんな関係性であろうが。
 というよりも、恋愛感情自体は誰であっても思うようにコントロールできないものである。それを相手に伝えるなど、行動に移すかどうかはまた別の話なのだ。

 彼の大切な部分が全て光の元に(あらわ)になる。
 恥ずかしくてたまらないという彼をあえて煽るようなことは口にしなかった。もしかしたら結果的にそれは彼の欲情を煽ることが出来るかもしれない。その可能性を否定することはできないが、今兄が望まないことに挑戦するような趣味を持ち合わせてはいない。
 それよりも、意地悪だからもうしないと言われることの方がダメージは大きいはずだ。

 好きな人には優しくされたいもの。それは兄が自分に対して愛情を注いでくれたからこそ思えることでもある。
「んんッ……」
 優人にゆっくりと挿入されながら、兄が甘い声を漏らす。理性が崩壊しそうになる瞬間だ。それでも自分を保ちながら慎重に身を進めていく優人。

『優人の精神バランスってどうなってんの』
 ふと友人の平田に言われた言葉が頭を過った。
『なんつーか、大人なんだか子供なんだかわからんよね。本能的だなと感じることもあるし、理性的で冷静だなと感じることもあるし』
 自分らしく生きているつもりだった優人はその言葉に思わず声を漏らす。
『なに、そんなおかしいこと言ったか?』
『いや』
 声を漏らして笑う優人を不思議そうに見つめる平田。

 確かに自分は自分のしたいことだけをしている自覚はある。
 だがそれは理性を捨てると同等ではないのだ。それが彼には不思議に感じるのだろうと思うとなんだかおかしかった。
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