5 嫉妬に狂う【R】

文字数 1,583文字

 あの日の真実を自分は知らない。
 話だけを聞いて、全てが理解できるとは思えなかった。

 阿貴は兄を騙した。
 そしてあの男もきっと、それに加担した結果となったのだ。
 どうやって兄から全てを奪ったのか?
 独自に調べた情報では阿貴を人質に兄に無理矢理、書評を書かせたという。つまり、そうさせたのが阿貴ということだろうか?

 あの時はまだ、兄と阿貴は恋人ではなかったはず。
 阿貴はあの家で唯一兄だけに懐いた。
 きっとそれも策略の一つに過ぎないのだろう。

 優人は兄、和宏の肌を撫でまわし、首筋に舌を這わす。
「兄さん」
「うん?」
 熱を帯び、潤んだ瞳をこちらに向ける彼はとても色気を感じる。
「どうして、あの男に好意を持ったの」
 好意がなければ、抱かれようなどとはしないはずだ。
「今思えば、あれはただ……何かに縋りたかっただけなんだと思う」

 三年前、あの事件が起きる直前。
 兄は阿貴の起こした事件を知らず、懐いてくれている阿貴を可愛がっていた。その阿貴に恋人になって欲しいと言われたのだ。
 そして事件は起きる。兄は脅されて書評を書くことにしたが、それを最後にその仕事から身を言いたのである。
 恋人になることを承諾し、母の反対を押し切って二人で暮らし始めたもののそこにあるのは想像と違う日々。
 阿貴は執拗に兄の身体を求めた。

「あの男はあんなことまでしたのに、一度も会いに来なかった。きっと、プライドが許さなかったんだろうと思う、俺は」
 唇を歪める兄の頬を撫で、
「阿貴とはどんなことをしたの?」
と問う。
「んッ……なんで……」
 聞いておいて、言わせまいとするように胸の突起を指先で転がす。

「こんな風に、阿貴の前でも厭らしい顔をしてたの?」
「はあ……ッ……そんな……とこ」
 兄の下着の中へ手を滑り込ませると、双丘の間に中指を忍ばせる。
「ああッ……やめッ。優人ッ」
 まもなくその指は最奥の蕾に触れ、兄が嫌だというように身を捩り首を左右に振った。
「ここで散々阿貴を受け入れたんでしょ?」
 嫉妬でどす黒く歪んでいく心。

「ちがう……そんなことしてない」
「じゃあ、証拠見せてよ」
 なんでこんなことを言ってしまうのか、自分でも分からない。
「女じゃないから……証拠なんて言われても」
 青ざめていく兄の下着を無理やり引き抜く。
「やめッ……見るな……見ないで……頼むから」
「なんで?」
 兄は必死に前を隠した。
 その姿が優人の欲情を煽るとも知らずに。

「萎えるだろ? 俺は男なんだぞ?」
「知ってる」
「だってお前は……」
 優人はため息を一つ着くと、前を隠すその綺麗な手の甲に口づけた。
「萎えたりなんてしない。まあ、兄さん以外ならわからないけれど」
 ぎゅっと瞳を閉じ、顔を逸らす彼の目元が濡れている。
 自分に嫌われるのがそんなに怖いのかと思うと、優越感に支配されそうになり、優人は強く唇を噛んだ。

「見せてよ。阿貴には見せたんでしょ?」
「優人……どうしたんだよ。お前……」
 さすがの彼も優人の異変に気付いたのか、瞼をあげこちらに瞳を向ける。
「全部俺にくれよ」
「何言って……」
「兄さんの全て、俺にくれよ。身も心も全部」
 頭痛がする。ガンガンと殴られたように。

「手を避けて、大きく足を開くんだ。全部見えるように」
 兄は深呼吸を一つすると、顔を背け身体を朱に染めながら優人に従った。
 優人はその姿態を満足げに眺める。
 キュッと締まったピンクの蕾。
 こんな厭らしいものを目の前に、阿貴は我慢できたというのだろうか?
 
優人は兄に覆いかぶさると、彼自身に指を絡めながら耳元で問う。
「どうして隠すの? こんなにしてるのに」
「あ……ッ……」
「俺に触られただけで、こんなに興奮したの?」
 兄はコクコクと頷く。
「ねえ。なんで阿貴とは最後までしなかったの?」
 彼の頬を涙が伝う。震える唇。

『お前が好きだから』
 そう言われ、優人は理性を手放した。
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