1 あの日心を抉ったもの
文字数 1,616文字
【Side:実弟 優人】
──兄さんは俺にとって、ずっと特別だった。
告白されれば誰とでも付き合う優人。
だが肉体関係を求められれば別れてしまう。
今でこそ同性の友人とルームシェアをしているが、同性が怖いと感じる時期もあった。
義理の兄ができて、生活は一変。
今まで自分の傍に居てくれた敬愛する実兄は義兄にばかり構うようになった。初めは姉の佳奈も優人も温かく迎えていたのだ。
だが阿貴は兄以外には心を開かなかったように思う。
阿貴が実際に本家でどのような扱いをされてきたのか見たことはないし、彼の義姉との関係も人づてに耳にしただけ。
阿貴とその義姉が元々どんな仲で子を成すような事態になったかなど知らないのだ。阿貴が同性愛者というだけで、もしかしたら間違った解釈をしている可能性は否定できない。
それでも、兄が出ていくことになったのは阿貴のせい。
恨んでいても仕方はないだろう。
阿貴来たことで、当時優人は家に居づらくなっていた。
あれは四年くらい前の話しだ。
高校一年生くらいだったと思う。
「雛本、最近つきあい悪いけどどうした?」
阿貴が来るまでは、わりと遊びの誘いには乗っていた優人。阿貴が来てからは、帰りに一人でぶらぶらすることが多くなった。
「いや、別に」
そのクラスメイトはは中学時代からの馴染み。
自分のことを話しても問題ないだろうと思ってしまったのだ。
家の居心地が悪いと言えば、泊りに来る? と聞かれた。
渡りに船など、どうして思ってしまったのだろう?
当時の優人は身長もそんなに高くはなく、華奢な方だった。
成長が人より遅かったのである。
兄は全性愛者 、阿貴は同性愛者。身近に色んな性志向の者がいるにも関わらず、なんとなく他人事だと思っていたのは否めない。
むしろ慣れているからこそ、あまり気に留めなかったというべきか。
「は?」
優人はクラスメイトに招かれた先で、襲われたのである。
だが相手の股間を蹴り上げ、事なきを得た。
「なんなの? 意味わからないんだが」
冷静にそういう優人に相手は、
「家に来るってそういう意味だろ」
と言った。
何時代の人だよと思いながら、
「俺、男なんだけど?」
と返すと、以前から好きだったと言われる。
さらに何か返そうとしたところで相手の母親が駆け付け、優人は自分がされそうになったことを説明した。
青ざめたのはもちろん母親である。
警察沙汰にしないで欲しいと懇願されたが、とりあえず親を呼んだ。
そのあとは示談で済ませたのだろう。
二度と優人に近づかないということで話はついたように記憶している。
あの時一番怒っており、心配してくれたのは兄だった。
「優人、ごめん」
何故、兄が謝る必要があるのか分からなかった。
強く抱きしめるその身体は震えていて、何かを後悔していることだけが伝わった来たのだ。
──あのことがあったから、兄さんは出て行ったのかもしれない。
でも、もう……。
熱を放ち、ぐったりとベッドに横たわる兄の髪に手を伸ばす。
「もう、放してなんてやらない」
「ん……」
起こしてしまったのだろうか?
どの道ここに長居するのは危険だ。
「優人……」
瞼を開けた和宏がぼんやりと優人を見上げる。
そして微笑んだ。
優人はそんな彼の頬に手をあてる。すると、その手に自分の手を重ねる和宏。
「夢じゃなかった」
「うん?」
なんのことだと言うように聞き返す、優人。
「ずっと、お前に逢いたいと思っていたんだ。目が覚めたら全部、夢かも知れないと思った」
「兄さん……」
目に涙を浮かべる和宏。
優人から離れることは、心から望んだことではないのかもしれない。そんな風に思った。
「愛してるよ、誰よりも」
言って和宏が両腕を伸ばす。
優人は導かれるままに身を屈め、その腕の中に納まる。
「優人。お前だけが俺の光だった」
三年という月日、自分だけが辛かったわけではないと思ったら、優人はほんの少し救われた気がしたのだった。
──兄さんは俺にとって、ずっと特別だった。
告白されれば誰とでも付き合う優人。
だが肉体関係を求められれば別れてしまう。
今でこそ同性の友人とルームシェアをしているが、同性が怖いと感じる時期もあった。
義理の兄ができて、生活は一変。
今まで自分の傍に居てくれた敬愛する実兄は義兄にばかり構うようになった。初めは姉の佳奈も優人も温かく迎えていたのだ。
だが阿貴は兄以外には心を開かなかったように思う。
阿貴が実際に本家でどのような扱いをされてきたのか見たことはないし、彼の義姉との関係も人づてに耳にしただけ。
阿貴とその義姉が元々どんな仲で子を成すような事態になったかなど知らないのだ。阿貴が同性愛者というだけで、もしかしたら間違った解釈をしている可能性は否定できない。
それでも、兄が出ていくことになったのは阿貴のせい。
恨んでいても仕方はないだろう。
阿貴来たことで、当時優人は家に居づらくなっていた。
あれは四年くらい前の話しだ。
高校一年生くらいだったと思う。
「雛本、最近つきあい悪いけどどうした?」
阿貴が来るまでは、わりと遊びの誘いには乗っていた優人。阿貴が来てからは、帰りに一人でぶらぶらすることが多くなった。
「いや、別に」
そのクラスメイトはは中学時代からの馴染み。
自分のことを話しても問題ないだろうと思ってしまったのだ。
家の居心地が悪いと言えば、泊りに来る? と聞かれた。
渡りに船など、どうして思ってしまったのだろう?
当時の優人は身長もそんなに高くはなく、華奢な方だった。
成長が人より遅かったのである。
兄は
むしろ慣れているからこそ、あまり気に留めなかったというべきか。
「は?」
優人はクラスメイトに招かれた先で、襲われたのである。
だが相手の股間を蹴り上げ、事なきを得た。
「なんなの? 意味わからないんだが」
冷静にそういう優人に相手は、
「家に来るってそういう意味だろ」
と言った。
何時代の人だよと思いながら、
「俺、男なんだけど?」
と返すと、以前から好きだったと言われる。
さらに何か返そうとしたところで相手の母親が駆け付け、優人は自分がされそうになったことを説明した。
青ざめたのはもちろん母親である。
警察沙汰にしないで欲しいと懇願されたが、とりあえず親を呼んだ。
そのあとは示談で済ませたのだろう。
二度と優人に近づかないということで話はついたように記憶している。
あの時一番怒っており、心配してくれたのは兄だった。
「優人、ごめん」
何故、兄が謝る必要があるのか分からなかった。
強く抱きしめるその身体は震えていて、何かを後悔していることだけが伝わった来たのだ。
──あのことがあったから、兄さんは出て行ったのかもしれない。
でも、もう……。
熱を放ち、ぐったりとベッドに横たわる兄の髪に手を伸ばす。
「もう、放してなんてやらない」
「ん……」
起こしてしまったのだろうか?
どの道ここに長居するのは危険だ。
「優人……」
瞼を開けた和宏がぼんやりと優人を見上げる。
そして微笑んだ。
優人はそんな彼の頬に手をあてる。すると、その手に自分の手を重ねる和宏。
「夢じゃなかった」
「うん?」
なんのことだと言うように聞き返す、優人。
「ずっと、お前に逢いたいと思っていたんだ。目が覚めたら全部、夢かも知れないと思った」
「兄さん……」
目に涙を浮かべる和宏。
優人から離れることは、心から望んだことではないのかもしれない。そんな風に思った。
「愛してるよ、誰よりも」
言って和宏が両腕を伸ばす。
優人は導かれるままに身を屈め、その腕の中に納まる。
「優人。お前だけが俺の光だった」
三年という月日、自分だけが辛かったわけではないと思ったら、優人はほんの少し救われた気がしたのだった。
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