4 彼の価値観
文字数 1,659文字
レポートを書くのに必要な文献を探すため、二人はK学生御用達の古書店にいた。個人経営であり、決して綺麗とは言えない場所だがその代わり掘り出し物も多い。
平田も優人もこの古書店の隣にある音楽屋がお気に入りだった。一見、音楽系のモノを扱っているとは思えないお洒落な建物。一階は喫茶店で蔦の葉が生い茂っており、看板は店の入り口に申し訳程度。
デジタル化が進み、CDすらなかなかお目にかかれなくなった世の中で、年代が古いものや中古も扱っている品揃えの豊富な店である。
『デジタルは悪くないけれど、音楽の場合すべてがあるとは限らないしね』
優人がそう言っていたことを思い出す。
つまりマイナーなものがあるとは限らない。
もちろん逆の現象も起きるだろう。となるとお得感はあってもレア感はなくだろう。
「優人はどっちが好きなの」
「何の話?」
お目当ての文献を手に入れ、古書店を後にする。この後は通例通り隣の音楽屋に向かう。
「アナログとデジタル」
「相反するものは比べるに値しないよ。どちらも良し悪しはあるでしょ」
それはもっともな意見だ。
「とは言え、音楽や本に関しては手元に残したいかな」
「なるほど」
喫茶店のよこの階段を上り、二階の音楽屋へ入っていく。
「それに芸術方面には積極的に投資したいと思うしね」
世の中にいるのはホンの一握りの金持ちと多くの貧乏人。特に日本は貧乏人ばかりの国だと聞く。
「本にしても音楽にしても、売れなきゃ次はない」
「そうだな」
「好きなものがなくならないように、ファンにできることは購入することしかないんだよ」
それが応援となる。結局世の中は金なんだよなと思いながら平田は優人の好む洋楽の棚に視線を走らせた。
「今入ってるのはR&B?」
「うん」
車で流れているCDを見つけた平田はCDジャケットを裏返し、曲目を確認して眉を潜める。優人は数枚のアルバムを一枚にまとめたようだが、好きな曲を選曲して編集したとしても何かオカシイ。
「今、車で聴いている曲ってこのグループのモノだけみたいだけれど」
「そうだよ。何か気になることでも?」
「好みで選んだとしても、この曲何か意味があって抜いてる?」
質問の意味を確かめようと平田の手元を覗き込む優人。
「あー、それね」
あからさまに嫌な顔をする彼に、そんなに気に入らない曲なのかと思った。
その曲は有名なアーティストとコラボで作られた曲のようだ。自分たちの年代でも知っているのだから相当な有名人であることは分かるが。
「嫌うほど歌下手だった?」
「え? いや違うよ」
歌が下手なわけでも曲調が嫌いなわけでもないと彼は言う。
「このグループってさ、アイドルみたいな感じなんだよ。もっとも欧米のアイドルと日本のアイドルでは全然意味合いなんかも違うけれどね。一枚目のアルバムの時点でUKチャートの上位に食い込むほど人気だった」
つまり、彼の手助けがなくても売れているようなグループだった。もちろん歌唱力も認めたような。
そこに彼がコラボとして曲を作る。話題作りなのだろうと思っていたがMVを見た時、どう考えてもそのコラボ相手が主線で目立っているのを見て得したのはどっちなんだ? と考えたらしい。
「厭らしい年寄りって好きじゃないんだよ。どう考えたって利用されたのは彼らの方だなって感じた。だからその曲は好きじゃない」
「優人らしいな」
「ん?」
「他人の能力、食い物にするような奴ら嫌いじゃん」
「そうだね」
”そういえばさ”と平田はあることに気づき、話を変える。
「優人の好きなミュージシャンっていろんなジャンルの曲を歌っている人たちばかりだな」
「そう言えば、そうだな。ファンの中にはジャンルが変わることが嫌な人もいるみたいだけれど、俺は歌声が好きで聴いているからジャンルが変わることは問題じゃない。むしろ、その方が飽きなくていいなとも思う」
”もっとも”と彼は続けて。
「好きなミュージシャンだからと言ってすべての曲が好きということはないけれどね」
やはり優人の価値観は好きだなと思う平田であった。
平田も優人もこの古書店の隣にある音楽屋がお気に入りだった。一見、音楽系のモノを扱っているとは思えないお洒落な建物。一階は喫茶店で蔦の葉が生い茂っており、看板は店の入り口に申し訳程度。
デジタル化が進み、CDすらなかなかお目にかかれなくなった世の中で、年代が古いものや中古も扱っている品揃えの豊富な店である。
『デジタルは悪くないけれど、音楽の場合すべてがあるとは限らないしね』
優人がそう言っていたことを思い出す。
つまりマイナーなものがあるとは限らない。
もちろん逆の現象も起きるだろう。となるとお得感はあってもレア感はなくだろう。
「優人はどっちが好きなの」
「何の話?」
お目当ての文献を手に入れ、古書店を後にする。この後は通例通り隣の音楽屋に向かう。
「アナログとデジタル」
「相反するものは比べるに値しないよ。どちらも良し悪しはあるでしょ」
それはもっともな意見だ。
「とは言え、音楽や本に関しては手元に残したいかな」
「なるほど」
喫茶店のよこの階段を上り、二階の音楽屋へ入っていく。
「それに芸術方面には積極的に投資したいと思うしね」
世の中にいるのはホンの一握りの金持ちと多くの貧乏人。特に日本は貧乏人ばかりの国だと聞く。
「本にしても音楽にしても、売れなきゃ次はない」
「そうだな」
「好きなものがなくならないように、ファンにできることは購入することしかないんだよ」
それが応援となる。結局世の中は金なんだよなと思いながら平田は優人の好む洋楽の棚に視線を走らせた。
「今入ってるのはR&B?」
「うん」
車で流れているCDを見つけた平田はCDジャケットを裏返し、曲目を確認して眉を潜める。優人は数枚のアルバムを一枚にまとめたようだが、好きな曲を選曲して編集したとしても何かオカシイ。
「今、車で聴いている曲ってこのグループのモノだけみたいだけれど」
「そうだよ。何か気になることでも?」
「好みで選んだとしても、この曲何か意味があって抜いてる?」
質問の意味を確かめようと平田の手元を覗き込む優人。
「あー、それね」
あからさまに嫌な顔をする彼に、そんなに気に入らない曲なのかと思った。
その曲は有名なアーティストとコラボで作られた曲のようだ。自分たちの年代でも知っているのだから相当な有名人であることは分かるが。
「嫌うほど歌下手だった?」
「え? いや違うよ」
歌が下手なわけでも曲調が嫌いなわけでもないと彼は言う。
「このグループってさ、アイドルみたいな感じなんだよ。もっとも欧米のアイドルと日本のアイドルでは全然意味合いなんかも違うけれどね。一枚目のアルバムの時点でUKチャートの上位に食い込むほど人気だった」
つまり、彼の手助けがなくても売れているようなグループだった。もちろん歌唱力も認めたような。
そこに彼がコラボとして曲を作る。話題作りなのだろうと思っていたがMVを見た時、どう考えてもそのコラボ相手が主線で目立っているのを見て得したのはどっちなんだ? と考えたらしい。
「厭らしい年寄りって好きじゃないんだよ。どう考えたって利用されたのは彼らの方だなって感じた。だからその曲は好きじゃない」
「優人らしいな」
「ん?」
「他人の能力、食い物にするような奴ら嫌いじゃん」
「そうだね」
”そういえばさ”と平田はあることに気づき、話を変える。
「優人の好きなミュージシャンっていろんなジャンルの曲を歌っている人たちばかりだな」
「そう言えば、そうだな。ファンの中にはジャンルが変わることが嫌な人もいるみたいだけれど、俺は歌声が好きで聴いているからジャンルが変わることは問題じゃない。むしろ、その方が飽きなくていいなとも思う」
”もっとも”と彼は続けて。
「好きなミュージシャンだからと言ってすべての曲が好きということはないけれどね」
やはり優人の価値観は好きだなと思う平田であった。
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