5 わかったような、わからないような
文字数 1,609文字
「雨降ってきたね」
「ん」
窓際に立ちカーテンの隙間からベランダの方を眺めていた優人に短く返事をして腕を回す兄。
「どうかした?」
優人は小さく笑って身体を反転させると、彼の腰に両手を添えた。
「やっぱりなんか、元気ないなと思って」
「心配してくれるのは嬉しいけれど、何もないよ」
心配そうにこちらを見上げる彼にちゅっと口づけて離れるとその手を取る。
「映画でも視ようよ。借りて来たんでしょ?」
部屋には雨に似合うしっとりとした曲が静かに流れていた。
このムードに乗って、いっそベッドに連れ込んでも良いと思う。恐らくいつもの自分ならそうしていただろう。
「雨は好きなんだっけ?」
「好きだよ」
優人に手を引かれソファーに移動した彼が頷いて小さく微笑む。
「俺も夜の雨は好きかな」
「そっか」
彼の綺麗な指先がレンタル屋のバッグを開けてディスクのパッケージを摘まみだす。優人はそれをぼんやりと見つめていた。
『優人は、この関係が俺一人の意思で成り立っていると思ってるんだろ?』
再び脳裏を過る平田の言葉。
『思ってるよ』
それ以外のなんだと言うように返答すれば、平田は気に入らないよ言うような表情を浮かべた。
『お前、どうかしてるよ。友人っていうのは一方的な関係で成り立つものじゃない』
”ましてや”と彼は続ける。
『片方に恋愛感情があるのにそれで成り立つと思っているのか?』
現にこうして成り立っているのに何を言っているのだろうか? と思った。
『一般的には、相手が自分に恋愛感情を持っていると知っていて成り立つ友情なんて、そうない。絶対とは言わないが』
成り立つには条件があるだろと平田。しかし優人にはよく分からなかった。
自分の経験上、男女の友情が成り立った試しはないし、平田以外に友人と呼べる相手もいないのだから。
『この関係が成り立っているのは、優人が俺の感情を否定しないからだろ』
『言ってる意味がわからない』
『言い換えるなら、俺が優人を好きでいることを許してくれているから』
『許すも何も……』
友達で良いと言ったのは平田だ。それを受け入れるのが普通じゃないと言いたいのだろうか。
説明はしてくれたものの、なんだかわからないまま帰宅した。
平田が怒っていた理由は理解したつもりだ。
優人はこの友人関係がいつかは終わると思っているから。平田の一存によって。
──そもそも、俺は平田に好かれるようなことをした覚えないんだけど。
「優人」
「うん?」
思わずため息を漏らした優人に兄の優しい声。
「言いたくないなら聞かないけれど、そんな顔されると心配になる」
「大したことじゃないんだ」
頬に触れられた手に自分の手を重ね、優人は目を閉じる。
心地が良いのは好かれているから。
素でいられるのは、気を遣わないから。
嫌われたくないと思わないから楽なのだ。
けれども、平田に恋人でもできればこの関係は変わるだろう。
変わらない関係でいたいなんておこがましいだけなのに、変わらないと彼は言う。
『嫌な奴だなと思うことはあるよ。本気で他の人とくっついて欲しいと思っているんだからさ』
『それは』
自分には彼の想いを叶えることが出来ないからだ。
『優人にはできるの? 他の人を好きになれと言われて、好きになること』
平田の言葉に優人は小さく首を横に振る。
兄にそんなことを言われたら”無理”だと即答するだろう。
『お前はホントにわからんやっちゃな。叶うだけが幸せとは限らないんだよ、恋は』
──そんなことを言われても俺にはよく分からない。
「大したことじゃないのに、そんなに心奪われているのか?」
「奪われて……」
「平田君?」
「まあ、そう。友達、あいつだけだし」
再びため息を漏らすと、
「妬けちゃうな」
と兄。
「は?」
「だって平田君のことに心を奪われているわけだろ?」
「え? ちが……」
誤解を受けそうになり思わず否定はしたものの、そういうことなのかと複雑な心境になる優人であった。
「ん」
窓際に立ちカーテンの隙間からベランダの方を眺めていた優人に短く返事をして腕を回す兄。
「どうかした?」
優人は小さく笑って身体を反転させると、彼の腰に両手を添えた。
「やっぱりなんか、元気ないなと思って」
「心配してくれるのは嬉しいけれど、何もないよ」
心配そうにこちらを見上げる彼にちゅっと口づけて離れるとその手を取る。
「映画でも視ようよ。借りて来たんでしょ?」
部屋には雨に似合うしっとりとした曲が静かに流れていた。
このムードに乗って、いっそベッドに連れ込んでも良いと思う。恐らくいつもの自分ならそうしていただろう。
「雨は好きなんだっけ?」
「好きだよ」
優人に手を引かれソファーに移動した彼が頷いて小さく微笑む。
「俺も夜の雨は好きかな」
「そっか」
彼の綺麗な指先がレンタル屋のバッグを開けてディスクのパッケージを摘まみだす。優人はそれをぼんやりと見つめていた。
『優人は、この関係が俺一人の意思で成り立っていると思ってるんだろ?』
再び脳裏を過る平田の言葉。
『思ってるよ』
それ以外のなんだと言うように返答すれば、平田は気に入らないよ言うような表情を浮かべた。
『お前、どうかしてるよ。友人っていうのは一方的な関係で成り立つものじゃない』
”ましてや”と彼は続ける。
『片方に恋愛感情があるのにそれで成り立つと思っているのか?』
現にこうして成り立っているのに何を言っているのだろうか? と思った。
『一般的には、相手が自分に恋愛感情を持っていると知っていて成り立つ友情なんて、そうない。絶対とは言わないが』
成り立つには条件があるだろと平田。しかし優人にはよく分からなかった。
自分の経験上、男女の友情が成り立った試しはないし、平田以外に友人と呼べる相手もいないのだから。
『この関係が成り立っているのは、優人が俺の感情を否定しないからだろ』
『言ってる意味がわからない』
『言い換えるなら、俺が優人を好きでいることを許してくれているから』
『許すも何も……』
友達で良いと言ったのは平田だ。それを受け入れるのが普通じゃないと言いたいのだろうか。
説明はしてくれたものの、なんだかわからないまま帰宅した。
平田が怒っていた理由は理解したつもりだ。
優人はこの友人関係がいつかは終わると思っているから。平田の一存によって。
──そもそも、俺は平田に好かれるようなことをした覚えないんだけど。
「優人」
「うん?」
思わずため息を漏らした優人に兄の優しい声。
「言いたくないなら聞かないけれど、そんな顔されると心配になる」
「大したことじゃないんだ」
頬に触れられた手に自分の手を重ね、優人は目を閉じる。
心地が良いのは好かれているから。
素でいられるのは、気を遣わないから。
嫌われたくないと思わないから楽なのだ。
けれども、平田に恋人でもできればこの関係は変わるだろう。
変わらない関係でいたいなんておこがましいだけなのに、変わらないと彼は言う。
『嫌な奴だなと思うことはあるよ。本気で他の人とくっついて欲しいと思っているんだからさ』
『それは』
自分には彼の想いを叶えることが出来ないからだ。
『優人にはできるの? 他の人を好きになれと言われて、好きになること』
平田の言葉に優人は小さく首を横に振る。
兄にそんなことを言われたら”無理”だと即答するだろう。
『お前はホントにわからんやっちゃな。叶うだけが幸せとは限らないんだよ、恋は』
──そんなことを言われても俺にはよく分からない。
「大したことじゃないのに、そんなに心奪われているのか?」
「奪われて……」
「平田君?」
「まあ、そう。友達、あいつだけだし」
再びため息を漏らすと、
「妬けちゃうな」
と兄。
「は?」
「だって平田君のことに心を奪われているわけだろ?」
「え? ちが……」
誤解を受けそうになり思わず否定はしたものの、そういうことなのかと複雑な心境になる優人であった。
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