1 平田の影響力
文字数 1,609文字
【Side:実弟 優人】
「どうしたんだ、優人。そんな不機嫌な顔をして」
平田を一階まで送って行った優人は、その彼のある言葉によって不機嫌になっていた。それにいち早く気づいた兄。さすがと言うべきか。それとも分かりやす過ぎるのか。
「せっかくのイケメンが台無しだぞ」
「顔しか取り柄がないみたいに言うのやめて」
「そこまで言ってないだろ」
”被害妄想だよ”と肩を竦め、苦笑いを浮かべる兄。
「平田に、お前たちにはキラキラが足りないって言われた」
優人はソファに腰かけている兄の隣に腰を下ろしながら。
「キラキラ?」
「恋的なキラキラが足りないってよ」
優人の言葉に不思議そうにしていた彼が、
「するの、キラキラ」
と更に問う。
「ジャラジャラなら、しようと思っているけど」
「ジャラジャラ?」
なんだそりゃと言う表情をする彼に、
「でもパーカーには似合わないって言われてさ」
とムッとする優人。
「それも平田君」
「そう。友達、平田しかいないの知ってるじゃん」
要領を得ない会話だが、二人には十分それで伝わるのだ。こういうのがキラキラが足りないと言うのだろうかとも思ったが、恐らく違う。
部屋にはムードとはだいぶかけ離れた、リズムの良い曲が流れていた。
「これ、和宏から貰ったやつだから諦めたくないし。何か両立する方法は……」
「両立しなきゃならない事情でもあるのか?」
”そこまでしてジャラジャラしようと?”と眉を寄せる兄、和宏。どうにもその感覚は理解しがたいようだ。
「和宏だってゴスったらジャラジャラ……は似合わなさそうだね。どこかのエクソシストみたいになりそう」
優人の言葉に更に眉を寄せ、呆れ顔をした彼。『俺はジャラジャラなんて求めてないぞ』とでも言いたげだ。
「じゃあ、そのジャラジャラとやらに似合う上着を買ってやるよ。それでいいだろう?」
兄は甘い。それはもう幼いころから。転ばぬ先の杖も嫌というほどしてくるが、こういう時は激アマなのである。これこそキラキラじゃないのか? とも思ったが、恐らく違う。
『阿貴さんみたいにさ、こうキラキラするべきだと思うんだよ』
『は?』
『恋するキラキラ』
その具体例は全く理解できず、今に至る。
そしてジャラジャラ街道まっしぐら。
また平田に文句を言われそうだが、そんなことは知ったことではない。
翌日。
「で、なんでそうなった?」
「キラキラだろ? それにあのパーカーじゃ似合わないって言ったの平田だし」
兄と話をした直後、デパートへ向かった。
兄が自分に甘いことを忘れ、”似合う、似合う”と言われるままにその気になって購入した服に、ジャラジャラしたアクセサリー。何故か平田には不評のようだ。
「和宏は似合うって言った」
「まあ、そう言うだろうけど」
和宏が優人に対しYESマンなのは今に始まったことではない。その事に平田も気づいているのだろう。
「似合わない?」
「似合わないことはないが、大学に来るような恰好じゃないな」
「気にしない」
今日は黄色い声も三割増しくらいだが、きっとこの格好のせいではないと否定しつつ図書館へ向かう。
「で、今日図書館に行くのは」
「絵本を探すため。もっと突き詰めて言えば、絵柄が好みの絵本を見つけるのが目的」
「へえ。誕生日プレゼント?」
平田の言葉に頷く優人。
「検索で人気の絵本調べたりはしないんだ?」
「選ぶこともプレゼントの一つと言ったのは平田だろ」
「言ったね」
そこで何故か彼は眉を寄せた。切なげに。
「なんだよ」
「いや。決して間違っていると思って発言をしているわけではないが、優人はちょっと俺の言葉に従い過ぎでは?」
そこで優人は兄が微妙な表情をしていた意味を理解する。
「いいだろ。間違ったこと言っているわけじゃないなら」
確かに平田の影響は多少なりとも受けているとは思う。けれども言いなりではないし、自分を持っているはずだ。
「まあ、優人がいいなら良いよ」
平田は一冊の本を手に取りながら。
「どうしたんだ、優人。そんな不機嫌な顔をして」
平田を一階まで送って行った優人は、その彼のある言葉によって不機嫌になっていた。それにいち早く気づいた兄。さすがと言うべきか。それとも分かりやす過ぎるのか。
「せっかくのイケメンが台無しだぞ」
「顔しか取り柄がないみたいに言うのやめて」
「そこまで言ってないだろ」
”被害妄想だよ”と肩を竦め、苦笑いを浮かべる兄。
「平田に、お前たちにはキラキラが足りないって言われた」
優人はソファに腰かけている兄の隣に腰を下ろしながら。
「キラキラ?」
「恋的なキラキラが足りないってよ」
優人の言葉に不思議そうにしていた彼が、
「するの、キラキラ」
と更に問う。
「ジャラジャラなら、しようと思っているけど」
「ジャラジャラ?」
なんだそりゃと言う表情をする彼に、
「でもパーカーには似合わないって言われてさ」
とムッとする優人。
「それも平田君」
「そう。友達、平田しかいないの知ってるじゃん」
要領を得ない会話だが、二人には十分それで伝わるのだ。こういうのがキラキラが足りないと言うのだろうかとも思ったが、恐らく違う。
部屋にはムードとはだいぶかけ離れた、リズムの良い曲が流れていた。
「これ、和宏から貰ったやつだから諦めたくないし。何か両立する方法は……」
「両立しなきゃならない事情でもあるのか?」
”そこまでしてジャラジャラしようと?”と眉を寄せる兄、和宏。どうにもその感覚は理解しがたいようだ。
「和宏だってゴスったらジャラジャラ……は似合わなさそうだね。どこかのエクソシストみたいになりそう」
優人の言葉に更に眉を寄せ、呆れ顔をした彼。『俺はジャラジャラなんて求めてないぞ』とでも言いたげだ。
「じゃあ、そのジャラジャラとやらに似合う上着を買ってやるよ。それでいいだろう?」
兄は甘い。それはもう幼いころから。転ばぬ先の杖も嫌というほどしてくるが、こういう時は激アマなのである。これこそキラキラじゃないのか? とも思ったが、恐らく違う。
『阿貴さんみたいにさ、こうキラキラするべきだと思うんだよ』
『は?』
『恋するキラキラ』
その具体例は全く理解できず、今に至る。
そしてジャラジャラ街道まっしぐら。
また平田に文句を言われそうだが、そんなことは知ったことではない。
翌日。
「で、なんでそうなった?」
「キラキラだろ? それにあのパーカーじゃ似合わないって言ったの平田だし」
兄と話をした直後、デパートへ向かった。
兄が自分に甘いことを忘れ、”似合う、似合う”と言われるままにその気になって購入した服に、ジャラジャラしたアクセサリー。何故か平田には不評のようだ。
「和宏は似合うって言った」
「まあ、そう言うだろうけど」
和宏が優人に対しYESマンなのは今に始まったことではない。その事に平田も気づいているのだろう。
「似合わない?」
「似合わないことはないが、大学に来るような恰好じゃないな」
「気にしない」
今日は黄色い声も三割増しくらいだが、きっとこの格好のせいではないと否定しつつ図書館へ向かう。
「で、今日図書館に行くのは」
「絵本を探すため。もっと突き詰めて言えば、絵柄が好みの絵本を見つけるのが目的」
「へえ。誕生日プレゼント?」
平田の言葉に頷く優人。
「検索で人気の絵本調べたりはしないんだ?」
「選ぶこともプレゼントの一つと言ったのは平田だろ」
「言ったね」
そこで何故か彼は眉を寄せた。切なげに。
「なんだよ」
「いや。決して間違っていると思って発言をしているわけではないが、優人はちょっと俺の言葉に従い過ぎでは?」
そこで優人は兄が微妙な表情をしていた意味を理解する。
「いいだろ。間違ったこと言っているわけじゃないなら」
確かに平田の影響は多少なりとも受けているとは思う。けれども言いなりではないし、自分を持っているはずだ。
「まあ、優人がいいなら良いよ」
平田は一冊の本を手に取りながら。
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