1 理解されたかったもの
文字数 1,597文字
【Side:実弟の友人 平田】
どうしてあんなことを言ってしまったのか。
優人を彼の自宅マンションの前で下ろし、平田はあてもなく車を走らせていた。先ほど振り出した雨が一層惨めな想いに拍車をかける。
理解されないことが何故こんなのにも辛く苦しいのだろうか。
確かに彼は恋愛経験という意味では数をこなしているだろうとは思う。
とは言え、彼がいろんな人とつき合っていたのは『恋』が何かを知りたかったからだ。本人からその話を聞いた時は少し驚いた。
『お姉ちゃんが初恋だったから、別に女性がダメというわけではないとは思うんだよね』
あの日も彼の好きな曲を聴きながらドライブがてらに話をしていたのである。
その時の話から、無性愛者ではなく異性愛者なのだと思っていた。それが違うとは気づけずままに、彼が実の兄と再会して真実を知ったのだ。
そもそも彼と出会ってそんなに長いわけではない。
優人と出会ったのは大学の入学式のすぐ後だった。自分も彼も校舎が違っただけで元からK学園の生徒ではあった。だから接点が全くなかったわけではない。
K学高等部から大学部に来た彼は他のK学生とは明らかに違うところが一つあった。
──K学生の大半はK学の高等部から来るものだ。
なのに……。
知り合いが多いはずの内部生にも関わらず、彼は一人で行動していたのである。それは自分とは真逆とも言えた。
今でこそ主に優人としか行動をしない平田だったが、入学当時は高等部からの友人と行動を共にしていたのである。
自分が彼に声をかけたのは、何も不憫に思ったからではない。
もちろん一目ぼれしたからでもない。
『高等部では来るモノ拒まずだったのに、大学部ではフリまくってるんだって?』
『何。噂好きの一味?』
初対面だというにも関わらず不躾な質問をした自分。
しかし彼は嫌な顔をするわけでもなく、面白そうに笑ったのである。その意外な反応と女子が騒ぐのわかるくらい整った造形に好感を持った。
『遊び飽きたとか?』
『そんなんじゃないよ』
触れられたくないことなのだと理解し、その時はそれ以上聞くことはできなかったが仲良くなってから話してくれたのだ。
何故来るモノ拒まずでお付き合いをしていたのか? 何故、すぐに別れてしまうのか。
『恋がなんなのか知りたかった』
『それで知ることはできたのか?』
『どうかな……恋をすると人がどんな行動を起こすのかは理解できた気もするけれど』
あの時、彼は納得していないように見えた。
『好きだから傍に居たいという気持ちは理解できても、離れたいという気持ちは理解できないでいる』
好きだと言いながら自分から離れていった実の兄。
今思えば優人は彼が何故、自分から離れていったのか知りたかったのだと思う。
『それは自分の恋が叶わないと思うからじゃないのか?』
『好きだとすら言わないのに?』
気持ちを確認もせずに勝手に諦めていなくなる相手の心理が理解できないと彼は言った。
『そんなんじゃ、嫌われているとしか思えないよ』
優人に好きだと言って断られた自分はその時、彼には変えることのできない想いを向ける相手がいうことを知ったのである。
──とは言え、それが実の兄だとは思わなかったけれど。
『世の中、勝手な奴ばかりだと思ったよ』
それは色んな相手とつき合って感じたことなのだろうか。
『自分の思い通りにならなければ、思った人と違うって言うんだから』
”そんなの自己愛でしかないだろ”という彼の意見には同意しかなかった。
「俺も結局、優人にとってはその他大勢と変わらない」
平田は言って唇を噛みしめる。
自分は悔しいのだと思った。
誰よりもそのままの優人を好きなつもりでいるのに、何もわかってくれないのだ。
「やっぱり、怒ってばかりなのが良くないのかな」
呟きは雨音に溶けていく。たまには甘くしてみるかと思った平田だったが、それは失敗に終わるのであった。
どうしてあんなことを言ってしまったのか。
優人を彼の自宅マンションの前で下ろし、平田はあてもなく車を走らせていた。先ほど振り出した雨が一層惨めな想いに拍車をかける。
理解されないことが何故こんなのにも辛く苦しいのだろうか。
確かに彼は恋愛経験という意味では数をこなしているだろうとは思う。
とは言え、彼がいろんな人とつき合っていたのは『恋』が何かを知りたかったからだ。本人からその話を聞いた時は少し驚いた。
『お姉ちゃんが初恋だったから、別に女性がダメというわけではないとは思うんだよね』
あの日も彼の好きな曲を聴きながらドライブがてらに話をしていたのである。
その時の話から、無性愛者ではなく異性愛者なのだと思っていた。それが違うとは気づけずままに、彼が実の兄と再会して真実を知ったのだ。
そもそも彼と出会ってそんなに長いわけではない。
優人と出会ったのは大学の入学式のすぐ後だった。自分も彼も校舎が違っただけで元からK学園の生徒ではあった。だから接点が全くなかったわけではない。
K学高等部から大学部に来た彼は他のK学生とは明らかに違うところが一つあった。
──K学生の大半はK学の高等部から来るものだ。
なのに……。
知り合いが多いはずの内部生にも関わらず、彼は一人で行動していたのである。それは自分とは真逆とも言えた。
今でこそ主に優人としか行動をしない平田だったが、入学当時は高等部からの友人と行動を共にしていたのである。
自分が彼に声をかけたのは、何も不憫に思ったからではない。
もちろん一目ぼれしたからでもない。
『高等部では来るモノ拒まずだったのに、大学部ではフリまくってるんだって?』
『何。噂好きの一味?』
初対面だというにも関わらず不躾な質問をした自分。
しかし彼は嫌な顔をするわけでもなく、面白そうに笑ったのである。その意外な反応と女子が騒ぐのわかるくらい整った造形に好感を持った。
『遊び飽きたとか?』
『そんなんじゃないよ』
触れられたくないことなのだと理解し、その時はそれ以上聞くことはできなかったが仲良くなってから話してくれたのだ。
何故来るモノ拒まずでお付き合いをしていたのか? 何故、すぐに別れてしまうのか。
『恋がなんなのか知りたかった』
『それで知ることはできたのか?』
『どうかな……恋をすると人がどんな行動を起こすのかは理解できた気もするけれど』
あの時、彼は納得していないように見えた。
『好きだから傍に居たいという気持ちは理解できても、離れたいという気持ちは理解できないでいる』
好きだと言いながら自分から離れていった実の兄。
今思えば優人は彼が何故、自分から離れていったのか知りたかったのだと思う。
『それは自分の恋が叶わないと思うからじゃないのか?』
『好きだとすら言わないのに?』
気持ちを確認もせずに勝手に諦めていなくなる相手の心理が理解できないと彼は言った。
『そんなんじゃ、嫌われているとしか思えないよ』
優人に好きだと言って断られた自分はその時、彼には変えることのできない想いを向ける相手がいうことを知ったのである。
──とは言え、それが実の兄だとは思わなかったけれど。
『世の中、勝手な奴ばかりだと思ったよ』
それは色んな相手とつき合って感じたことなのだろうか。
『自分の思い通りにならなければ、思った人と違うって言うんだから』
”そんなの自己愛でしかないだろ”という彼の意見には同意しかなかった。
「俺も結局、優人にとってはその他大勢と変わらない」
平田は言って唇を噛みしめる。
自分は悔しいのだと思った。
誰よりもそのままの優人を好きなつもりでいるのに、何もわかってくれないのだ。
「やっぱり、怒ってばかりなのが良くないのかな」
呟きは雨音に溶けていく。たまには甘くしてみるかと思った平田だったが、それは失敗に終わるのであった。
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