3 それは地雷?
文字数 1,685文字
『どんな想像をするのもその人の自由だし、責めるのは違うと思うよ。でもね、もし俺が”兄さんが自分を好きじゃなかったら……”って想像をして落ち込んでいたらどう思うの?』
優人にそう言われ、和宏は何も返すことができなかった。
今も重苦しい空気のままなのはきっとそれが原因なのだろう。
あれからすぐに喫茶店に引き返したものの、二人の空気があまりにも重かったせいか解散となった。
妹の佳奈からは、
『喧嘩でもしたの?』
と問われたが、和宏は曖昧な笑みを浮かべそれをやり過ごす。
別れ際に、
『あまりお兄ちゃんを困らせちゃ駄目よ』
と優人が佳奈に言われているのを聞き申し訳ない気分になった。
優人は何も悪くないのに。
和宏が自宅マンションのリビングのソファーに腰かけ膝を抱えていると、先ほどの店で買った紅茶をカップに入れた優人がそれを二つ目の前のローテーブルに置くのが分かった。一つを和宏の前に。部屋にはpersonaが流れている。
その軽快な音楽にチラリとスピーカーに目をやった彼は和宏の隣に腰かけ、
「persona ってどういう意味か知っている?」
と問いを口にした。
てっきり昼間のことを言われるのかと思っていた和宏は言葉に詰まる。
それでもせっかく彼が話を振ってくれたのだ。和宏は何か答えねばならないと思った。
「ゲームのイメージが強いな。やったことはないが」
某ゲームでは主人公たちがそれらを呼び出して戦っている。だがゲームをプレイしたことのない和宏はそれが彼らにとってどんな意味合いを持っているのか想像し辛かった。
隣に腰かけた優人が和宏の言葉を聞いてクスリと笑うのがわかる。自分は何か変なことを言ってしまったのだろうか。
「persona って言うのは”人格”って意味で、心理学的には表面的な人格のことを言うらしいよ」
「人格?」
ということは表面的な人格をさしているのだろうか、あのペルソナはと思う。
「兄さん、ゲームから離れて」
「あ、ああ」
人は自分の知っている知識や経験をもとに考えを巡らせるものだ。
「人間って言うのは、複雑な生き物なんだよ」
表面的というのがあるのであれば、内面的というのも存在はする。
悪い意味で”裏表”のある人間はいるだろう。しかし、人間が表に出す人格というのは内面によって決定されているのだ。
その内面によるものは単純に”他人からよく見られたい”と努力や自分を偽って表現されているものもあれば、経験により”他人とのトラブルを避けたい”という想いから当たり障りのない表面的な接し方になるというものまでさまざま。
しかし、それは『嘘』と言うわけではない。
自分がそうしたいと思ってしていることは自然であろうが演じていようがその人の本質なのだ。
「それは分かるよ。理論的には」
優人の話を聞いて素直に頷く和宏。
「兄さんに見せたい自分と平田の前の自分はイコールじゃない。イコールじゃないからと言って別に演じているわけじゃない」
「わかってる」
「じゃあ、なんでそんな傷ついた顔をするの?」
和宏は彼に手首を掴まれ、顎を捉えられる。
優人にはそんな風に見えるのだろうか。誤解ならば解かねばならないと思った。
「べ、別に平田君に見せてるものが本当なんだとか思ったわけじゃない。演じてるとかそんな風に思ったわけじゃないよ」
一緒にいられなかった期間はある。しかし幼いころから知っているのだ。今更、いい部分しか見せなかったとしても長所も短所も自分はよく知っているはず。
「佳奈がさ……”自分曲げてまで、お兄ちゃんの理想でいようとするの”って言うから」
「は?」
どうやら何か地雷を踏んだらしい。
「いや、えっと。俺が優人に理想を押しつけているという話で」
和宏は慌てた。佳奈は何も悪くない。これは自分の説明の仕方に問題がある。だが、彼が怒っている理由は別なところにあるようで。
「あのさあ。いい加減、お姉ちゃんの言葉に振り回されるのやめてくれる?」
「ちょ、待て。ダメだって!」
和宏から手を放した彼の手がローテーブルに置かれていたスマホに向かう。
この後もれなく妹弟喧嘩が勃発したのであった。
優人にそう言われ、和宏は何も返すことができなかった。
今も重苦しい空気のままなのはきっとそれが原因なのだろう。
あれからすぐに喫茶店に引き返したものの、二人の空気があまりにも重かったせいか解散となった。
妹の佳奈からは、
『喧嘩でもしたの?』
と問われたが、和宏は曖昧な笑みを浮かべそれをやり過ごす。
別れ際に、
『あまりお兄ちゃんを困らせちゃ駄目よ』
と優人が佳奈に言われているのを聞き申し訳ない気分になった。
優人は何も悪くないのに。
和宏が自宅マンションのリビングのソファーに腰かけ膝を抱えていると、先ほどの店で買った紅茶をカップに入れた優人がそれを二つ目の前のローテーブルに置くのが分かった。一つを和宏の前に。部屋にはpersonaが流れている。
その軽快な音楽にチラリとスピーカーに目をやった彼は和宏の隣に腰かけ、
「
と問いを口にした。
てっきり昼間のことを言われるのかと思っていた和宏は言葉に詰まる。
それでもせっかく彼が話を振ってくれたのだ。和宏は何か答えねばならないと思った。
「ゲームのイメージが強いな。やったことはないが」
某ゲームでは主人公たちがそれらを呼び出して戦っている。だがゲームをプレイしたことのない和宏はそれが彼らにとってどんな意味合いを持っているのか想像し辛かった。
隣に腰かけた優人が和宏の言葉を聞いてクスリと笑うのがわかる。自分は何か変なことを言ってしまったのだろうか。
「
「人格?」
ということは表面的な人格をさしているのだろうか、あのペルソナはと思う。
「兄さん、ゲームから離れて」
「あ、ああ」
人は自分の知っている知識や経験をもとに考えを巡らせるものだ。
「人間って言うのは、複雑な生き物なんだよ」
表面的というのがあるのであれば、内面的というのも存在はする。
悪い意味で”裏表”のある人間はいるだろう。しかし、人間が表に出す人格というのは内面によって決定されているのだ。
その内面によるものは単純に”他人からよく見られたい”と努力や自分を偽って表現されているものもあれば、経験により”他人とのトラブルを避けたい”という想いから当たり障りのない表面的な接し方になるというものまでさまざま。
しかし、それは『嘘』と言うわけではない。
自分がそうしたいと思ってしていることは自然であろうが演じていようがその人の本質なのだ。
「それは分かるよ。理論的には」
優人の話を聞いて素直に頷く和宏。
「兄さんに見せたい自分と平田の前の自分はイコールじゃない。イコールじゃないからと言って別に演じているわけじゃない」
「わかってる」
「じゃあ、なんでそんな傷ついた顔をするの?」
和宏は彼に手首を掴まれ、顎を捉えられる。
優人にはそんな風に見えるのだろうか。誤解ならば解かねばならないと思った。
「べ、別に平田君に見せてるものが本当なんだとか思ったわけじゃない。演じてるとかそんな風に思ったわけじゃないよ」
一緒にいられなかった期間はある。しかし幼いころから知っているのだ。今更、いい部分しか見せなかったとしても長所も短所も自分はよく知っているはず。
「佳奈がさ……”自分曲げてまで、お兄ちゃんの理想でいようとするの”って言うから」
「は?」
どうやら何か地雷を踏んだらしい。
「いや、えっと。俺が優人に理想を押しつけているという話で」
和宏は慌てた。佳奈は何も悪くない。これは自分の説明の仕方に問題がある。だが、彼が怒っている理由は別なところにあるようで。
「あのさあ。いい加減、お姉ちゃんの言葉に振り回されるのやめてくれる?」
「ちょ、待て。ダメだって!」
和宏から手を放した彼の手がローテーブルに置かれていたスマホに向かう。
この後もれなく妹弟喧嘩が勃発したのであった。
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