2 おウチデートの実態
文字数 1,638文字
「お前はやっぱり考え方が大人だな」
「そんなことないよ。いつも平田に怒られているし」
兄の言葉に少し照れながら否定した優人。
「平田君ねえ」
「平田は母さんよりもずっと『お母さん』みたいだよ」
何かと世話を焼き、ダメ出しをしてくる平田。しかし今まで人生の中で一番自分に合う友人だと思う。
「まあ、うちの母さんは煩いこと言わないからなあ」
兄は眉を寄せ笑いを堪 えているようだった。
我が家は本家の影響なのか、父も母も子供の自由を尊重するというスタンスで自分たちに接してきた。雛本本家はいろんなしきたりに縛られている。窮屈だからでなくても良い環境であるにも関わらず母は早々に家を出たのだ。
父は分家の人間。もちろん本家がどんなところかも知っている。
自由だったからこそ長子である兄は妹弟の面倒は自分が見なければならないと危機感を覚えたのだろう。
父母に似て自由な考え方を持った妹弟とは違い、兄だけが慎重派となった。
そして我が家の中心は兄だった。兄が良いと言えば良い。そんな偏ったルールが出来上がるまでにそう時間はかからなかったのである。
『そんなに俺に頼られても困るよ』
家族旅行の行き先の決定権を持っているのは兄。
何を買うかで揉めた時にお鉢が回ってくるのも兄だった。
『センスが良いのは優人だし、機転が利くのは佳奈なんだし。適材適所って言うだろう? 得意分野は得意な奴が担当すべきだと思うぞ?』
もちろん兄のその意見も尊重された。
その後何かを決める時はその分野に合った者が担当することになり、自分の意見が通った兄は苦笑いをしたのだった。
それでも阿貴を引き取ったことに関しては母がすごく後悔していた。
兄が出ていくことになったのは、自分に責任があると自分自身をとても責めていたのだ。彼とは仲良くする努力をしたが、それを拒んだのは紛れもない本人。
あんなことがあったにも関わらず、今更やり直したいと彼は言う。
後悔先に立たずとはこういうことを言うのだろうかとも思ったが、兄が受け入れているのならばせめて『家族』としてはやり直す選択もあるのではないかと思う。
何よりも母が悔やんでいるのだ。やり直すチャンスがあっても良いのではないだろうか。
「その後、平田君とはどうなんだ?」
「どうもこうもないよ」
平田が今でも自分のことを好きなことは自覚はしているが、友人。
彼もそれで良いと今まで友人として過ごしてきたのだ。
「だって優人の手料理が食べたいと言っていたんだろう?」
「ああ、それね。感想は聞いたよ」
二人の関係性について問われたのかと思ったが、どうやら違ったようである。
「感想とかいうんだ、平田君」
「まあ。食べたいと言った手前、無言というわけにはいかないでしょう?」
「それもそうだな」
他愛ない話をしながら午後はゆっくりと過ごした。
意外と行くところがないなと言う兄とレンタルショップへ寄って映画を借りようとするも、それなら無料で視聴できると言われ家に引き返したのだった。
「世の中、便利になり過ぎて何をしていいかわからないものだな」
「そうだね。デートで映画館にでも……って思ったんだけど、俺も兄さんも人の多いところは好まないから」
まあね、と言いながらタブレットを操作し先程レンタルショップで借りようとした映画をチョイスする彼。
「おウチデートと言っても一緒に暮らしてるんじゃ、な」
「そもそもデートは待ち合わせって意味だしね」
傍らの小さな籠からBluetoothイヤホンを二つ取り出すと兄へ一つ差し出す。
「これ、ジャンルは?」
「確かホラーサスペンス」
優人の返答に眉を顰める彼。ホラーが苦手なのだ。
「そんな顔しないでよ。推理モノは好きな癖に」
「あれは突然何かが飛び出して来たりしないし」
と兄。
「でも、飛び出して来た人が被害者になるのは変わらないじゃない」
「いや、でも。あれはそこが見せ場じゃないし」
「怖かったら抱きついてもいいからさ」
優人は、いつまでも煮えきらない兄の手を握ったのだった。
「そんなことないよ。いつも平田に怒られているし」
兄の言葉に少し照れながら否定した優人。
「平田君ねえ」
「平田は母さんよりもずっと『お母さん』みたいだよ」
何かと世話を焼き、ダメ出しをしてくる平田。しかし今まで人生の中で一番自分に合う友人だと思う。
「まあ、うちの母さんは煩いこと言わないからなあ」
兄は眉を寄せ笑いを
我が家は本家の影響なのか、父も母も子供の自由を尊重するというスタンスで自分たちに接してきた。雛本本家はいろんなしきたりに縛られている。窮屈だからでなくても良い環境であるにも関わらず母は早々に家を出たのだ。
父は分家の人間。もちろん本家がどんなところかも知っている。
自由だったからこそ長子である兄は妹弟の面倒は自分が見なければならないと危機感を覚えたのだろう。
父母に似て自由な考え方を持った妹弟とは違い、兄だけが慎重派となった。
そして我が家の中心は兄だった。兄が良いと言えば良い。そんな偏ったルールが出来上がるまでにそう時間はかからなかったのである。
『そんなに俺に頼られても困るよ』
家族旅行の行き先の決定権を持っているのは兄。
何を買うかで揉めた時にお鉢が回ってくるのも兄だった。
『センスが良いのは優人だし、機転が利くのは佳奈なんだし。適材適所って言うだろう? 得意分野は得意な奴が担当すべきだと思うぞ?』
もちろん兄のその意見も尊重された。
その後何かを決める時はその分野に合った者が担当することになり、自分の意見が通った兄は苦笑いをしたのだった。
それでも阿貴を引き取ったことに関しては母がすごく後悔していた。
兄が出ていくことになったのは、自分に責任があると自分自身をとても責めていたのだ。彼とは仲良くする努力をしたが、それを拒んだのは紛れもない本人。
あんなことがあったにも関わらず、今更やり直したいと彼は言う。
後悔先に立たずとはこういうことを言うのだろうかとも思ったが、兄が受け入れているのならばせめて『家族』としてはやり直す選択もあるのではないかと思う。
何よりも母が悔やんでいるのだ。やり直すチャンスがあっても良いのではないだろうか。
「その後、平田君とはどうなんだ?」
「どうもこうもないよ」
平田が今でも自分のことを好きなことは自覚はしているが、友人。
彼もそれで良いと今まで友人として過ごしてきたのだ。
「だって優人の手料理が食べたいと言っていたんだろう?」
「ああ、それね。感想は聞いたよ」
二人の関係性について問われたのかと思ったが、どうやら違ったようである。
「感想とかいうんだ、平田君」
「まあ。食べたいと言った手前、無言というわけにはいかないでしょう?」
「それもそうだな」
他愛ない話をしながら午後はゆっくりと過ごした。
意外と行くところがないなと言う兄とレンタルショップへ寄って映画を借りようとするも、それなら無料で視聴できると言われ家に引き返したのだった。
「世の中、便利になり過ぎて何をしていいかわからないものだな」
「そうだね。デートで映画館にでも……って思ったんだけど、俺も兄さんも人の多いところは好まないから」
まあね、と言いながらタブレットを操作し先程レンタルショップで借りようとした映画をチョイスする彼。
「おウチデートと言っても一緒に暮らしてるんじゃ、な」
「そもそもデートは待ち合わせって意味だしね」
傍らの小さな籠からBluetoothイヤホンを二つ取り出すと兄へ一つ差し出す。
「これ、ジャンルは?」
「確かホラーサスペンス」
優人の返答に眉を顰める彼。ホラーが苦手なのだ。
「そんな顔しないでよ。推理モノは好きな癖に」
「あれは突然何かが飛び出して来たりしないし」
と兄。
「でも、飛び出して来た人が被害者になるのは変わらないじゃない」
「いや、でも。あれはそこが見せ場じゃないし」
「怖かったら抱きついてもいいからさ」
優人は、いつまでも煮えきらない兄の手を握ったのだった。
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