第81話 せんだい文学塾、佐藤厚志先生の回に参加したよ!!

文字数 3,948文字

 僕のこころを取り戻すために必要な旅。それが今回の仙台への旅だった。多くの出会いがあり、学びがあった。それになにより、この活気のある政令指定都市である仙台の〈磁場〉に引き寄せられてしまう自分を発見する。最高の二泊三日だった。

 僕は2月24日土曜日の午後4時から始まる「せんだい文学塾」へ参加するために、前日の昼に現地入りをした。講師は芥川賞作家で元書店員の佐藤厚志先生。コーディネーターは池上冬樹先生。僕がこの講座を受講するのは2008年や2009年以来なので、ほぼまっさらな状態での参加だった。

 2024年。1月はその姉妹講座の山形小説家・ライター講座に参加したのだが、今回は仙台。場所は仙台文学館でやる、という。山形はオンライン同時開催だが、仙台は、完全に対面参加のみ。オフレコな話がたくさん聴けるかな、と期待に胸を膨らませての参加だ。

 2月22日の、僕の地元、茨城県北部は雪が降っていて、仙台入りをする23日も、雪が道路の路肩に積もっていて、カイロを貼らないと寒くて震えるほどだった。その23日は五時起きして、仙台直通の高速バスに乗った。

 時間通りにバスはバスターミナルに着き、降りた僕は「ずんだシェイク」というずんだ餅のシェイクを飲んで一息吐いた。その後、丸善へ。
 X(旧Twitter)には「仙台駅前の丸善で円城塔『道化師の蝶』を購入!! 円城塔さんは僕の短編小説『おねショート』を褒めてくださって「数年経っても絶対に忘れない」とおっしゃってたのだーっ!! それだけで執筆していく糧になったのですよねっ!! 午後5:04 · 2024年2月23日」と書き込んでいる。
 この書き込みをしたのは宿に着いてからで、実際は午前中に丸善で時間を潰してから、僕はチェックインの午後3時に間に合うように秋保温泉に向かうバスに乗り込んだ。秋保温泉に向かうバスには二種類あって、宮城交通バスと、西部ライナーがある。前者は所要時間一時間、後者は三十分。実際は後者も乗ったときは1時間乗ることになった。そのときはたまたま渋滞していたからだとは思う。初めて秋保温泉に向かうときには、バス停がわかりやすい宮城交通のバスに乗り込んだのだった。

 秋保・里のセンターで降りて、観光案内所で秋保温泉郷を「知る」ことからスタート、とした。
 ここについては、こんなポストを僕はしている。「秋保温泉工芸の里パンフレットをもらった。本当は旅の三日目、この工芸の里に、埋木細工工房を観に行く予定だった。しかし世界で一人しかいない埋木細工職人はいなくなり、去年から工房は閉鎖。そのうち改装してギャラリーにする、という。パンフレットも外国人観光客向けパンフレットしかなかった」
 そして、素泊まりのラウンジにチェックインする。良い感じの部屋だ。さっさと温泉に入ると、入った時間がまだ夕方にもなっていなかったので、温泉が貸し切り状態だった。
 温泉からあがってカップヌードルを食べたり買った本を読んだりゲームをしたりしていたら、すぐに夜になってしまった。
 ああ、明日は講座だな、なんて思いながら、その日はぐっすりと眠る。








 仙台文学館へ着く。会場にぞろぞろとひとが集まってくる。そして始まるせんだい文学塾。今回講師の佐藤厚志先生は、この講座出身である。2008年頃、この講座に参加していたそうだ(ちなみに勘違いされると困るので書いておくが、これは市民講座で、怪しいものではない。詳しくはウィキペディアに項目があるので読んでほしい。初期は本当にコーディネーター池上冬樹先生が奔走し、講師になる作家を集めていた。実はここで講師になったってお金なんて儲からない。でも、山形県と宮城県にはやたらと商業作家が多く、そして池上先生は人脈が広く、ここまで講座は存続できたのである)。2008年と言ったら、僕もこの講座を受講していた頃だ。ニアミスしているな、と思った僕は、あとで佐藤先生に聞くことになるのだが、今は時系列を崩さず書こう。
 僕も質問をして答えてもらったのだが、佐藤厚志『荒地の家族』は、植木職人の話で、この小説は震災の話でもあるのだが、僕には植木というのがメタファーに思えた。「荒地」を、「植木」で剪定するのが「整地をしようとする」ことのメタファーに思えた、ということだ。メタファーとして書いたのか、というこの僕からの質問に関してはふたつの異なる回答が、質問に答えてもらったときだけでなく講座中に反復された。佐藤先生は答えるときは「メタファーとは考えてないです」との回答だったが、話が進むうちに、小説を書くその文章量をこなすうちに、こういうのはポンポン出るようになる、ということだった。それと、池上先生が「抽象的な言葉をどんなに重ねたってダメ。小説は〈描写力〉! とにかく描写力を鍛えること。そのためには書くことだ」ということだった。僕、成瀬川るるせは描写力がないと自分で思っているので、耳が痛くなる話だったが、鍛える方向性が見えたのも間違いない。
 本当にいろいろな話題が出たのだが、ページの都合もあるので一点だけ書く。佐藤先生がこの講座に参加したときに、自分の原稿を中村文則先生にボロボロに叩かれ、そこから再起するにあたり、池上先生からどういうアドバイスをもらったか、ということなのだが、「好きなことを〈徹底的〉に書く」ということだったそうで、それで吹っ切れて書くようになったそうである。このアドバイスは一瞬、インターネットの創作アカウントでよくある問題系統に思える(好きなものを書くか賞に合わせて書くか、など)のだが、全然違う話である。それは懇親会に出たら最後の最後に僕が佐藤先生の目の前に座って二人きりでトークすることになってしまい、そこで伺った話でわかることになる。
 これは講座レポというより簡単な旅行記なので、多岐にわたる内容の講座だったが、ここには書かない。書けない話もかなり多かったし。
 そして、話は懇親会へ。






池上冬樹
@ikegami990
▼今回若い女性の参加者が目立ち、懇親会はさながら女子会の雰囲気でした。2008年、阿部和重氏が講師の山形小説家・ライター講座に受講生として参加してくれたのが、佐藤さんとの付き合いの始まり。積もる話が数多くあるのですが、消化できず。別のところでまたお願いしたいと思っています。
午後0:27 · 2024年2月25日

 ……と、池上先生が書いている通り、女子力が高かった懇親会になったのだった。
 僕はあとで、こんなツイート(ポスト)をしている。これは懇親会で、真っ正面に座ったときに聞いた話である。

昨日はせんだい文学塾に参加しました。佐藤厚志先生は海外文学どこらへんなんだろ、やっぱフォークナーかな、って思って一対一で話す機会があったので訊いてみました。マルケスよりフォークナー。それにオースティンやディケンズを好み、英米文学好き、でもジョイスには行かない、とのこと。
午前0:09 · 2024年2月26日

 これはどこから来ているかというと、佐藤先生も海外文学を読むことが多く、〈好き〉が海外文学寄りであるという話で。「フォークナーかな」というのは、「中上健次を好きそうだな」と思っていたらやっぱりそうだったので、じゃあ、逆算するとマルケスかフォークナーだろうな、と思って。それで聞いたところ、マルケスよりフォークナーだな、というところからこの話は始まり。「海外文学って言ってもどこあたりの文学が好きで?」という内容を聞いたら、英米文学、と返ってきたんだよね。確かに、文章を読むとそれはとてもわかる。納得。
 2008年と言えば僕も受講したことがある頃。佐藤先生が誰の講座を聴いたか、というと、佐伯一麦先生、阿部和重先生、中村文則先生の講座だそうだ。これは純文学に焦点を絞っていて、自分の〈好き〉が〈明確〉だな、と思うのだ。
 だが、だ。思ったことをそのまま口に出す。「自分の好きなものを〈徹底的〉に書くと言っても、自分が好きなものってわからなくないですか?」と。先生は答える。「自分が繰り返し読んでしまう本や映画ってあるでしょ。それを書き出す」「それって自分で自分がわかると恥ずかしくないですか?」「書き出す!」「だから恥ずかしく……」「書き出す!!」「……は、はい」と、まあ、こんな感じだったのだが、これもまた、講座から引き継いだ話題でもある。中村文則先生は、「誰にも見せることがない、本心を曝け出したノート」が存在していて、このノートが執筆の源泉になっているという。「書き出す」のは、観られたら爆死するし「恥ずかしい」のだが、それでも書き出すのだ。「書き出す」……これが佐藤先生が中村先生から教わったことでもあるのだ。僕は佐藤先生のお話を聞けて良かった。

 ちなみに、だが。作家になっても飯は食えないのが普通だ。作家は印税ではなく原稿料で食べている。つまり、雑誌に連載を持っていないとならないし、連載を持っている状態をキープしないとならない。原稿料の具体的金額も教えてもらった。甘い話なんてどこにもないし、食えないことを踏まえた上で、僕らは小説を書いていく、そういう話なのである。

 さて、仙台最終日は文学館にちょうどよく学芸員さんがいたのでお話を伺った。その日だけで計4時間、文学館にいたことになるのだが、それは機会をあらためて書こうかな、と思う。

 佐藤厚志先生、池上冬樹先生、スタッフのみなさん、せんだい文学塾楽しかったです、ありがとうございました。書きたいことはたくさんあるけど、この文章はここで筆を置くことにします。好き勝手書いてしまいましたが、文責は成瀬川るるせにあります。よろしく。
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