闘えわたし! 平和のために! ・7
文字数 1,886文字
不意に、若い男の人らしき声が響いた。
音の出どころを探して見上げると、どうやら迷路のところどころにある監視カメラと一緒に設置されているスピーカーから聞こえたようだ。
「へぇ。なにかイベントがあるのかな? はやく迷路からでないと見逃しちゃうよな」
つぶやくように柳瀬くんが口を開いた瞬間。
いくつかの小さな爆発音が、わたしの背後で起こった。
驚いて振り返る。
すると、二メートル以上あるパーテーションの壁の一枚の、がっちりと隣同士で固定されていたいくつかの部品のところが黒くなり、煙があがっていた。
焦げ臭いにおいが辺りに漂ってきたと感じたとき、その壁は、ゆっくりとわたしのほうへ倒れてきた。
「きゃあ! 桂ちゃん!」
すぐそばで、晴香の悲鳴があがった。
その声につられるように、わたしは無意識に右手を頭上へ振りあげる。
勢いを増しながら倒れてきたその重い壁を、わたしは考える暇もなく――頭上でがっしりと支え止めていた。
一瞬の沈黙が場を支配する。
そのあいだに、自分の行動に気がついたわたしは蒼ざめた。
ヤバい?
これってマズい?
倒れてきた重そうな壁を、女の子が片手で受け止めるのって、常識外れ?
口にする言葉が浮かばず、わたしは自分に向けられた男子ふたりと晴香の呆気にとられたような視線を、冷や汗たらりとしながら意識する。
そのとき、両手を組んで科 をつくりながら、晴香が瞳を潤ませて叫んだ。
「さすがです……留城也先輩! 力があるんですね!」
えっ? と思いながら、わたしは晴香の目線をたどって、自分の後ろを振り返る。
そこには、留城也先輩が両腕を使って壁を支えている姿。
けれど、わたしが壁を押さえたときの感じでは、誰の支えも感じられなかった。
ということは?
「ほら。早く退いて、壁から手を離せよ」
ささやいてきた留城也先輩の言葉に、慌ててわたしは、ゆっくり壁の下から抜けだしながら片手を離した。
わたしの抜けるタイミングをはかりながら、留城也先輩も壁の下から抜けだす。
壁は、大きな音をたてながら足もとへと倒れた。
――ああ。
これってもしかして、傍からみたら留城也先輩が壁を支えたようにみえるってことになるのか。
とすると、わたしの怪力がばれていないってことよね。
「留城也、機転が利くなぁ。ナイスフォロー」
わたしと同じ意味に気づいた紘一先輩は、留城也先輩の落とした帽子を拾って埃をはたきながら、朗らかにいう。
「ナイスフォローじゃねぇ。――この壁だけが倒れてくるなんて、おかしいだろう?」
留城也先輩にいわれて、わたしは改めて倒れた壁を見下ろし、金具をみる。
焦げた跡。
火の元がある場所じゃない。
――意図的に誰かが壊したってこと?
すると、先ほどと同じ声が、ふたたびスピーカーから流れてきた。
『さあ、次にいくよ!』
声と同時に、わたしの背後で響く小さな爆発音。
今度は身構えていたため、下で壁を受けるなんてことをせずに、皆で飛びのいて倒れてくる壁を避ける。
そして晴香は、チャンスとばかりに悲鳴をあげながら、留城也先輩へと飛びついた。
「どうなっているんだよ? これ!」
柳瀬くんと藤井くんは、困惑気に倒れた壁を見つめる。
その後ろで、巻きついた晴香の腕をひきはがそうとする留城也先輩を眺めつつ、わたしは、おぼろげながらも気がついた。
ちらっと視線を送ると、読んだように紘一先輩も、わたしへうなずき返してくる。
そうか、紘一先輩も同意見の様子。
スピーカーから聞こえてくる声の主の狙いは――きっとわたしなんだ。
狙いがわたしとなると、危険に巻きこまないように晴香たちから離れたほうがいい。
全然怖くないってわけじゃないけれど、紘一先輩も留城也先輩もついてくれている。
わたしは覚悟を決めた。
「晴香、ごめんね。ここで別れて。晴香は柳瀬くんと藤井くんと三人で、とりあえず迷路から抜けだすことを優先してよ」
「え? なんで? 桂ちゃんも先輩も、一緒に脱出すればいいじゃない?」
驚いたように晴香が返してくる。
う……。
それはごもっとも。
すると、口ごもったわたしの代わりに、紘一先輩が割りこんできた。
「いまから桂ちゃんはオレと、ドキドキハラハラ爆弾をかいくぐりながらのビックリデート! ってことでここで解散!」
有無をいわせず、紘一先輩はわたしの二の腕を引っ張って強引に駆けだした。
音の出どころを探して見上げると、どうやら迷路のところどころにある監視カメラと一緒に設置されているスピーカーから聞こえたようだ。
「へぇ。なにかイベントがあるのかな? はやく迷路からでないと見逃しちゃうよな」
つぶやくように柳瀬くんが口を開いた瞬間。
いくつかの小さな爆発音が、わたしの背後で起こった。
驚いて振り返る。
すると、二メートル以上あるパーテーションの壁の一枚の、がっちりと隣同士で固定されていたいくつかの部品のところが黒くなり、煙があがっていた。
焦げ臭いにおいが辺りに漂ってきたと感じたとき、その壁は、ゆっくりとわたしのほうへ倒れてきた。
「きゃあ! 桂ちゃん!」
すぐそばで、晴香の悲鳴があがった。
その声につられるように、わたしは無意識に右手を頭上へ振りあげる。
勢いを増しながら倒れてきたその重い壁を、わたしは考える暇もなく――頭上でがっしりと支え止めていた。
一瞬の沈黙が場を支配する。
そのあいだに、自分の行動に気がついたわたしは蒼ざめた。
ヤバい?
これってマズい?
倒れてきた重そうな壁を、女の子が片手で受け止めるのって、常識外れ?
口にする言葉が浮かばず、わたしは自分に向けられた男子ふたりと晴香の呆気にとられたような視線を、冷や汗たらりとしながら意識する。
そのとき、両手を組んで
「さすがです……留城也先輩! 力があるんですね!」
えっ? と思いながら、わたしは晴香の目線をたどって、自分の後ろを振り返る。
そこには、留城也先輩が両腕を使って壁を支えている姿。
けれど、わたしが壁を押さえたときの感じでは、誰の支えも感じられなかった。
ということは?
「ほら。早く退いて、壁から手を離せよ」
ささやいてきた留城也先輩の言葉に、慌ててわたしは、ゆっくり壁の下から抜けだしながら片手を離した。
わたしの抜けるタイミングをはかりながら、留城也先輩も壁の下から抜けだす。
壁は、大きな音をたてながら足もとへと倒れた。
――ああ。
これってもしかして、傍からみたら留城也先輩が壁を支えたようにみえるってことになるのか。
とすると、わたしの怪力がばれていないってことよね。
「留城也、機転が利くなぁ。ナイスフォロー」
わたしと同じ意味に気づいた紘一先輩は、留城也先輩の落とした帽子を拾って埃をはたきながら、朗らかにいう。
「ナイスフォローじゃねぇ。――この壁だけが倒れてくるなんて、おかしいだろう?」
留城也先輩にいわれて、わたしは改めて倒れた壁を見下ろし、金具をみる。
焦げた跡。
火の元がある場所じゃない。
――意図的に誰かが壊したってこと?
すると、先ほどと同じ声が、ふたたびスピーカーから流れてきた。
『さあ、次にいくよ!』
声と同時に、わたしの背後で響く小さな爆発音。
今度は身構えていたため、下で壁を受けるなんてことをせずに、皆で飛びのいて倒れてくる壁を避ける。
そして晴香は、チャンスとばかりに悲鳴をあげながら、留城也先輩へと飛びついた。
「どうなっているんだよ? これ!」
柳瀬くんと藤井くんは、困惑気に倒れた壁を見つめる。
その後ろで、巻きついた晴香の腕をひきはがそうとする留城也先輩を眺めつつ、わたしは、おぼろげながらも気がついた。
ちらっと視線を送ると、読んだように紘一先輩も、わたしへうなずき返してくる。
そうか、紘一先輩も同意見の様子。
スピーカーから聞こえてくる声の主の狙いは――きっとわたしなんだ。
狙いがわたしとなると、危険に巻きこまないように晴香たちから離れたほうがいい。
全然怖くないってわけじゃないけれど、紘一先輩も留城也先輩もついてくれている。
わたしは覚悟を決めた。
「晴香、ごめんね。ここで別れて。晴香は柳瀬くんと藤井くんと三人で、とりあえず迷路から抜けだすことを優先してよ」
「え? なんで? 桂ちゃんも先輩も、一緒に脱出すればいいじゃない?」
驚いたように晴香が返してくる。
う……。
それはごもっとも。
すると、口ごもったわたしの代わりに、紘一先輩が割りこんできた。
「いまから桂ちゃんはオレと、ドキドキハラハラ爆弾をかいくぐりながらのビックリデート! ってことでここで解散!」
有無をいわせず、紘一先輩はわたしの二の腕を引っ張って強引に駆けだした。