新たな能力者・8
文字数 1,692文字
透流さんは、本当にわたしを見にきただけのようだった。
校門の前まで見送りに出たわたしと凪先輩へ、やわらかな笑顔を見せて手を振ると、そのまま駅のほうへ向かって歩きだした。
その後ろ姿を見つめていたわたしは、なぜだか急に叫んでいた。
「頼りないなんてこと、ないです!」
驚いた表情を浮かべて、透流さんが振り返る。
隣で、こらこらと声をかけてくる凪先輩に構わず、わたしは透流さんへ向かって続けて言った。
「透流さんはリーダーっぽいです! だって、皆のことをよく見てくれているし、わたしのことも気にかけてくれています。うまく言えないけれど、リーダーって本当に、そういうものなんでしょう?」
わたしの言いたいことは伝わったのだろうか。
透流さんは、本当に嬉しそうな表情をわたしに見せてから、夕暮れの中を歩いていった。
「ぼくたちも、そろそろ帰る支度をしようか」
透流さんの姿が見えなくなったあと、凪先輩が声をかけてきた。
陽が落ちる前に、それもそうだと考えたわたしは素直にうなずいて、校舎へと戻る凪先輩のあとへと続いて歩きだす。
しばらく生徒会室へ向かう廊下を歩いていた凪先輩は、前を向いたままで急に口を開いた。
「ぼくは上に立つ者として、適任者は三種いると考えている。カリスマ性を発揮して他人を惹きつける、本来のリーダー的存在の者。嫌われる対象者となり、他のメンバー同士の結束を固める役割をする者。この場合は、途中で反逆される可能性がある。そして、他のメンバーの間をうまく取り持てる人当たりの良い者」
わたしは、隣を歩く凪先輩の横顔を見上げた。
「きみは、ぼくの先ほどの態度を見て勘違いしたかもしれないが、透流さんを決して侮っているわけではない。適材適所という意味で、彼はぼくたちのまとめ役に適任だと考えている」
そこまで口にして、凪先輩はようやくわたしのほうへと顔を向けた。
その口もとは、微笑みという曲線を描いている。
「特にぼくの所属するグループのメンバーは、ひと癖ある連中ばかりだ。だからこそ、透流さんじゃなければ、まとめられないと思っている。――その点で、きみとは意見が合うようだ。さて、と。暗くなるから、ぼくがきみを家まで送り届けよう」
そう言い終わると。
呆気にとられて歩みが止まったわたしを置いて、すたすたと前へ進んでいった。
それは、ちょっとだけわたしを認めたってこと?
だけど、送ってくれるみたいな言い方をしていながら、振り返りもせずにこの場へわたしを置いていくなんて、矛盾もいいところだ。
やっぱり凪先輩は、マイペースなオレ様だよね。
結局、戦隊メンバー選出のための実技検査というものが、初日となる昨日のあいだに行われなかった。
全校生徒を帰してまで、大がかりの気配だったのに。
本当にそんなもの、学校内で行うものなんだろうかと疑いながら、わたしはのろのろと学校へ向かう。
実技検査だなんて、だまされているのではなかろうか。
なにも変わらない朝の風景。
出会う友人たちと挨拶を交わしながら、生徒ひとりにひとつずつ割り当てられているロッカーへ向かう。
現国の授業に合わせて、置きっぱなしにしていた国語辞典を取り出そうとして、ロッカーの扉を開いたとたんに、一枚のメモ用紙がはさまれていたことに気づいた。
「――なに? これ……」
一瞬、ラブレターかもと考えて、慌てて頭の中で否定する。
それでも淡い期待を胸に、誰も自分の行動に気にかけていないにもかかわらず、周囲の目線を気にしながら手に取った。
両手の中に包みこんで、そっと開きながらのぞき見る。
可愛げのないルーズリーフの用紙には、たったひと言が書かれていた。
『コンピューター室へ来てください』
鉛筆で書かれた、きれいな文字だ。
でも、これだけじゃ、書いたのが男子か女子かもわからない。
第一、時間が書かれていない。
すぐに来いってこと?
ひょっとして。
――これが実技試験のはじまりなのだろうか?
校門の前まで見送りに出たわたしと凪先輩へ、やわらかな笑顔を見せて手を振ると、そのまま駅のほうへ向かって歩きだした。
その後ろ姿を見つめていたわたしは、なぜだか急に叫んでいた。
「頼りないなんてこと、ないです!」
驚いた表情を浮かべて、透流さんが振り返る。
隣で、こらこらと声をかけてくる凪先輩に構わず、わたしは透流さんへ向かって続けて言った。
「透流さんはリーダーっぽいです! だって、皆のことをよく見てくれているし、わたしのことも気にかけてくれています。うまく言えないけれど、リーダーって本当に、そういうものなんでしょう?」
わたしの言いたいことは伝わったのだろうか。
透流さんは、本当に嬉しそうな表情をわたしに見せてから、夕暮れの中を歩いていった。
「ぼくたちも、そろそろ帰る支度をしようか」
透流さんの姿が見えなくなったあと、凪先輩が声をかけてきた。
陽が落ちる前に、それもそうだと考えたわたしは素直にうなずいて、校舎へと戻る凪先輩のあとへと続いて歩きだす。
しばらく生徒会室へ向かう廊下を歩いていた凪先輩は、前を向いたままで急に口を開いた。
「ぼくは上に立つ者として、適任者は三種いると考えている。カリスマ性を発揮して他人を惹きつける、本来のリーダー的存在の者。嫌われる対象者となり、他のメンバー同士の結束を固める役割をする者。この場合は、途中で反逆される可能性がある。そして、他のメンバーの間をうまく取り持てる人当たりの良い者」
わたしは、隣を歩く凪先輩の横顔を見上げた。
「きみは、ぼくの先ほどの態度を見て勘違いしたかもしれないが、透流さんを決して侮っているわけではない。適材適所という意味で、彼はぼくたちのまとめ役に適任だと考えている」
そこまで口にして、凪先輩はようやくわたしのほうへと顔を向けた。
その口もとは、微笑みという曲線を描いている。
「特にぼくの所属するグループのメンバーは、ひと癖ある連中ばかりだ。だからこそ、透流さんじゃなければ、まとめられないと思っている。――その点で、きみとは意見が合うようだ。さて、と。暗くなるから、ぼくがきみを家まで送り届けよう」
そう言い終わると。
呆気にとられて歩みが止まったわたしを置いて、すたすたと前へ進んでいった。
それは、ちょっとだけわたしを認めたってこと?
だけど、送ってくれるみたいな言い方をしていながら、振り返りもせずにこの場へわたしを置いていくなんて、矛盾もいいところだ。
やっぱり凪先輩は、マイペースなオレ様だよね。
結局、戦隊メンバー選出のための実技検査というものが、初日となる昨日のあいだに行われなかった。
全校生徒を帰してまで、大がかりの気配だったのに。
本当にそんなもの、学校内で行うものなんだろうかと疑いながら、わたしはのろのろと学校へ向かう。
実技検査だなんて、だまされているのではなかろうか。
なにも変わらない朝の風景。
出会う友人たちと挨拶を交わしながら、生徒ひとりにひとつずつ割り当てられているロッカーへ向かう。
現国の授業に合わせて、置きっぱなしにしていた国語辞典を取り出そうとして、ロッカーの扉を開いたとたんに、一枚のメモ用紙がはさまれていたことに気づいた。
「――なに? これ……」
一瞬、ラブレターかもと考えて、慌てて頭の中で否定する。
それでも淡い期待を胸に、誰も自分の行動に気にかけていないにもかかわらず、周囲の目線を気にしながら手に取った。
両手の中に包みこんで、そっと開きながらのぞき見る。
可愛げのないルーズリーフの用紙には、たったひと言が書かれていた。
『コンピューター室へ来てください』
鉛筆で書かれた、きれいな文字だ。
でも、これだけじゃ、書いたのが男子か女子かもわからない。
第一、時間が書かれていない。
すぐに来いってこと?
ひょっとして。
――これが実技試験のはじまりなのだろうか?