そして立ちはだかる敵の影・8

文字数 1,222文字

 わたしは、心から紘一先輩のことを思って口にした。
 口にだしているあいだに、なんとなくわかったこと。
 隠さずに危険を冒しても「サトリ」の能力をつかう紘一先輩は、それが彼なりの防御なんだ。
 方法は逆だけれど、できるだけ使わずに隠し続けて、力がばれたくないからと遠くの高校を選んだわたしと同じなんだ。

 紘一先輩の周りには、もっと理解者を増やさなきゃいけない。
 そして、自分のためにも紘一先輩のためにも、わたしがそのうちのひとりになるべきだ。

「以前、紘一先輩はわたしに、やりたくてできる誰かに任せろっていったけれど、誰かって誰? もしかしたらそれは自分かもしれないじゃない? ただ自分を護るだけじゃなくて、そういう想いがあったから、紘一先輩もメンバーになったんじゃないの? わたしにだって可能性と希望があるんだもの。だったらわたしは闘うことを選ぶ。自分の力をうまくコントロールできるようになりたいよ。だからわたしはメンバーに選ばれたらそれを受けるつもり!」

 やましいことなんかない。
 わたしの気持ちは紘一先輩に伝わると信じている。
 そう思って、黙りこんだ紘一先輩と睨みあったとき、声がきこえた。

「道のど真ん中で派手な喧嘩するんじゃねぇよ。それに紘一、凪先輩が呼んでるなんて俺に嘘つきやがったな」

 怒りのオーラをみなぎらせた留城也先輩が、紘一先輩の背後に立っていた。
 そのとたんに、わたしは緊張の糸が切れる。
 たちまち足もとから震えが襲ってきたわたしは、紘一先輩が留城也先輩に捕まったタイミングで、その場から逃げだした。

 いうことを全部、口にだしちゃった!
 次に紘一先輩に会うのは、たぶん休み明けの月曜日。
 そのときには、メンバーに選ばれたかどうか決定するはずだ。
 もう、なにも言われても怖くない気がするし、あとにもひけない気がする。

 わたしは紘一先輩に追いかけられることもなく駅へとたどり着き、無事に家まで帰ることができた。



 やるべきことは一応やり遂げ、いうべきことを口にしたわたしは、考えこんでも仕方がないとばかりに次の日を迎えた。
 今日はクラスの親睦会がある。晴香とは、巨大迷路のある郊外の駅で早めに待ち合わせをした。
 わたしは、高校の友人たちに初めてお披露目となる私服に頭を悩ませる。

 ここはばっちり決めていかなきゃ!
 高校入学のときの当初の目的通り、女の子らしく、それでも動きやすく。
 なんて、さんざん迷ったあげく、わたしは五月の季節に似合いそうな白い半そでのブラウスに爽やかなグリーン地の膝上キュロットをチョイスする。
 ふわふわクリクリとする天然パーマの毛先を気にして、今日はふたつにくくってキュロットと同じ色のリボンで結んだら。
 鏡に映る姿はなかなか頑張っている感じ。

 わたしは機嫌良くポシェットを肩にかけると、待ち合わせの時間に充分余裕をもって家をでた。

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