なんと別口で狙われているようですっ!・4
文字数 1,490文字
大変だ。
ロッカーと生徒会室を往復したために、一時間目の授業がはじまる時間になってしまったんだ。
わたしは慌てて四階までの階段を駆けあがり、教室へ向かおうと廊下を走ろうとした瞬間。
背後から口をふさがれ、そのまま教室のある方向とは反対にある美術の準備室へと引っ張りこまれた。
扉が閉められカーテンがひかれた薄暗い準備室に、ぼんやりとふたり分の人影が一瞬だけ確認できたけれど。
すぐにわたしは、うつぶせに押さえこまれた。
突然すぎて抵抗する間もない。
それでも、ようやく押さえつけられた相手の腕を跳ねのけようとしたとき、目の前にカッターナイフを突きつけられた。
わたしはぴたりと動きをとめる。
「きみっていま、なにかやっているんだって?」
「そのやっていること、やめてくれないかなぁ?」
耳もとでささやかれる、状況を楽しんでいるような忍び笑いが含まれた男子の声。
わたしは恐怖と気持ちの悪さで、全身に鳥肌が立った。
この人たちが、朝の脅迫状を送ってきたの?
それに、いまのこの状況って、わたしが脅迫状を突き返したせい?
留城也先輩を襲っても人質をとっても、わたしがいうことをきかないって思ったから、直接わたしを脅しにきたってことなの?
わたしが一切の抵抗をやめたためか、背中で馬乗りになっていた男子が押さえこんでいた力をゆるめた。
わたしの傍らでしゃがみこんでカッターナイフをちらつかせた男子が言葉を続ける。
「ウンって言わないと、いつまでも俺たちがきみを閉じこめることになっちゃうよぉ? 薄気味悪い電波くんを拉致るより、俺らとしては断然オンナのコのほうが楽しいけれどさぁ」
そして、男子ふたりはそろって笑った。
――わたしの中で、ゆらりと怒りの炎があがる。
同時に、パニックを起こしていた頭の中がひんやりと静まった。
「――」
発したわたしの声が本当に届かなかったのか、それとも、もっと状況を楽しみたいのか。
しゃがんでいた男子が、カッターナイフを持っていない片手を耳もとにわざとらしく寄せると、わたしのほうへ身体をかたむけた。
「なに? 聞こえないなぁ。もっと大きな声で言ってくれなきゃ」
「留城也先輩より、あなたたちのほうがよっぽど薄気味悪いわ!」
叫ぶと同時に、わたしは背中で馬乗りになっていた男子ごと身体を起こして立ちあがる。
転がり落ちた男子には見向きもせずに、わたしはそばに置かれていた美術教材となる胸像をゆらりと持ちあげて、カッターナイフを手にした男子へと振りかぶった。
美術の先生がお気にいりとの噂がある鋳物のミケランジェロ胸像だけれど、構うものか。
少しの理性が相手に怪我をさせないようにと働き、わたしの投げつけた胸像は、カッターナイフを持った男子の横の壁へとぶちあたる。
準備室の壁は大きく振動して、見事に巨大な穴が穿たれた。
口をあけて呆然と穴を見つめた男子は、壁に背をあずけたまま、腰が抜けたように座りこむ。
わたしは、そばにあった次なる像へと手を伸ばした。
少し小ぶりのミロ島ヴィーナス全身像を引き寄せ、両手で高々と掲げて男子の前に仁王立つ。
そのとき、わたしの背から転がり落ちていたもうひとりの男子が、準備室の扉へ向かって叫び声をあげながら逃げだした。
それを合図に、カッターナイフの男子もわたしの前から這うように逃げだし、明るい廊下へと転がりでる。
わたしはヴィーナス像を壊れない程度に乱暴に置くと、ふたりのあとを追うように準備室から飛びだした。
ロッカーと生徒会室を往復したために、一時間目の授業がはじまる時間になってしまったんだ。
わたしは慌てて四階までの階段を駆けあがり、教室へ向かおうと廊下を走ろうとした瞬間。
背後から口をふさがれ、そのまま教室のある方向とは反対にある美術の準備室へと引っ張りこまれた。
扉が閉められカーテンがひかれた薄暗い準備室に、ぼんやりとふたり分の人影が一瞬だけ確認できたけれど。
すぐにわたしは、うつぶせに押さえこまれた。
突然すぎて抵抗する間もない。
それでも、ようやく押さえつけられた相手の腕を跳ねのけようとしたとき、目の前にカッターナイフを突きつけられた。
わたしはぴたりと動きをとめる。
「きみっていま、なにかやっているんだって?」
「そのやっていること、やめてくれないかなぁ?」
耳もとでささやかれる、状況を楽しんでいるような忍び笑いが含まれた男子の声。
わたしは恐怖と気持ちの悪さで、全身に鳥肌が立った。
この人たちが、朝の脅迫状を送ってきたの?
それに、いまのこの状況って、わたしが脅迫状を突き返したせい?
留城也先輩を襲っても人質をとっても、わたしがいうことをきかないって思ったから、直接わたしを脅しにきたってことなの?
わたしが一切の抵抗をやめたためか、背中で馬乗りになっていた男子が押さえこんでいた力をゆるめた。
わたしの傍らでしゃがみこんでカッターナイフをちらつかせた男子が言葉を続ける。
「ウンって言わないと、いつまでも俺たちがきみを閉じこめることになっちゃうよぉ? 薄気味悪い電波くんを拉致るより、俺らとしては断然オンナのコのほうが楽しいけれどさぁ」
そして、男子ふたりはそろって笑った。
――わたしの中で、ゆらりと怒りの炎があがる。
同時に、パニックを起こしていた頭の中がひんやりと静まった。
「――」
発したわたしの声が本当に届かなかったのか、それとも、もっと状況を楽しみたいのか。
しゃがんでいた男子が、カッターナイフを持っていない片手を耳もとにわざとらしく寄せると、わたしのほうへ身体をかたむけた。
「なに? 聞こえないなぁ。もっと大きな声で言ってくれなきゃ」
「留城也先輩より、あなたたちのほうがよっぽど薄気味悪いわ!」
叫ぶと同時に、わたしは背中で馬乗りになっていた男子ごと身体を起こして立ちあがる。
転がり落ちた男子には見向きもせずに、わたしはそばに置かれていた美術教材となる胸像をゆらりと持ちあげて、カッターナイフを手にした男子へと振りかぶった。
美術の先生がお気にいりとの噂がある鋳物のミケランジェロ胸像だけれど、構うものか。
少しの理性が相手に怪我をさせないようにと働き、わたしの投げつけた胸像は、カッターナイフを持った男子の横の壁へとぶちあたる。
準備室の壁は大きく振動して、見事に巨大な穴が穿たれた。
口をあけて呆然と穴を見つめた男子は、壁に背をあずけたまま、腰が抜けたように座りこむ。
わたしは、そばにあった次なる像へと手を伸ばした。
少し小ぶりのミロ島ヴィーナス全身像を引き寄せ、両手で高々と掲げて男子の前に仁王立つ。
そのとき、わたしの背から転がり落ちていたもうひとりの男子が、準備室の扉へ向かって叫び声をあげながら逃げだした。
それを合図に、カッターナイフの男子もわたしの前から這うように逃げだし、明るい廊下へと転がりでる。
わたしはヴィーナス像を壊れない程度に乱暴に置くと、ふたりのあとを追うように準備室から飛びだした。