いきなり試験に突入です?!・11
文字数 1,555文字
おおざっぱに粉をはたいてから、一番近くとなる運動部が使っているというシャワー室へ、晴香を除く全員で向かう。
その途中で、わたしの隣を歩いていた先生が、おもむろにわたしへ向かって口を開いた。
「これで、あなたに注意力が身についたかしら?」
注意力?
急に振られた話の筋がみえず、訝しげな表情で、わたしは先生のほうをうかがう。
「周りを見渡す目、慎重にコトをおこなう行動。先ほどの少しの時間で身につくものではないだろうけれど。それがどういうことなのか、あなたは理解できたかしら?」
ハッと気がついたわたしは、改めて真っ白い恰好の先生の顔を、まじまじと見つめ返す。
目を細めて笑顔になった先生は、わたしへ静かに告げた。
「それがわかれば、今回の試験はぎりぎり合格といたしましょう」
「やったぁ! 良かったね、桂ちゃん」
笑顔で紘一先輩が後ろから声をかけてくる。
ついでに背後から飛びつくように抱きつかれたわたしは悲鳴をあげた。
廊下に小麦粉の粉が舞う。
「やめろ。見ているこちらが不愉快」
本当に眉根を寄せた留城也先輩がつぶやき、慌てたように、凪先輩が紘一先輩をわたしから引き離した。
「だから紘一、むやみに受験者と接触するな」
「いいじゃん。二次試験通過のお祝いなんだし。ねぇ、桂ちゃん」
戸惑ったわたしは、曖昧に笑顔をみせた。
男の人に抱きつかれるなんて経験がないから、大声をあげてしまったけれど。
考えたら、恰好良い紘一先輩と一緒に行動できるなんて、周りからすればオイシイ状況に見えるはず。
なんてことを考えていたら、わたしの気を引き締めるように凪先輩が、先生の言葉を引き継いだ。
「今回の試験内容は、確かに命にかかわるような危険じゃない。だが、自分の身に降りかかるトラブルや、周囲を巻きこむ可能性があるってことを理解し覚悟する試験だったってことだ。試験を続けていくのなら、その内容を経験値として積み重ねていけよ」
真面目に言葉を切った凪先輩だったけれど、すぐに、紘一先輩が笑いながら会話に割りこんできた。
「オレのときなんか、放課後に居残りさせられて、美術の人物画を描かされたんだ。モデルになってくれた女の子に先生が絵具を飛ばしてかけるのを、身体を張って阻止してさぁ」
「それは――楽しそうですけれど、大変でしたね……」
なんだ。
本当に毎回、こんな感じの試験なんだ。
そうだよ。
学校内の試験なんだものね。
命にかかわるような内容じゃないと感じて、わたしはほっとする。
でも、こんな試験、あと何回あるんだろう?
「そういえば。桂ちゃんのスペックってなに? オレってまだきみの能力がなんなのか、聞いていない気がするんだ。なにか教えて?」
急に紘一先輩に瞳をのぞきこまれ、わたしは言葉に詰まった。
見つめてくる真面目な表情の紘一先輩の視線は、調理実習中にじっと見つめてきた眼を思い起こさせた。
あのとき。
わたしはなにか、紘一先輩の気をひくような発言か行動をみせたのだろうか?
そして、わたしの頭の中で返事となる文章が作られる直前、今度は留城也先輩が割りこむように口をはさんできた。
「彼女自身、まだ能力がわからないあいだにコンピューターに選ばれたんだよ。紘一、わざわざ訊いて、いちいち心を読む真似、するんじゃねぇよ」
喧嘩腰ともとれる留城也先輩の態度に、すぐに相好を崩した紘一先輩は軽く返事をする。
「やだなあ、留城也。恐い顔をするなって。あ、そうなんだ。桂ちゃんの能力、早く特定されるといいね。能力がわかれば、力の磨きがいがあるってものだし」
そこまで紘一先輩が口にしたとき、シャワー室へと到着した。
その途中で、わたしの隣を歩いていた先生が、おもむろにわたしへ向かって口を開いた。
「これで、あなたに注意力が身についたかしら?」
注意力?
急に振られた話の筋がみえず、訝しげな表情で、わたしは先生のほうをうかがう。
「周りを見渡す目、慎重にコトをおこなう行動。先ほどの少しの時間で身につくものではないだろうけれど。それがどういうことなのか、あなたは理解できたかしら?」
ハッと気がついたわたしは、改めて真っ白い恰好の先生の顔を、まじまじと見つめ返す。
目を細めて笑顔になった先生は、わたしへ静かに告げた。
「それがわかれば、今回の試験はぎりぎり合格といたしましょう」
「やったぁ! 良かったね、桂ちゃん」
笑顔で紘一先輩が後ろから声をかけてくる。
ついでに背後から飛びつくように抱きつかれたわたしは悲鳴をあげた。
廊下に小麦粉の粉が舞う。
「やめろ。見ているこちらが不愉快」
本当に眉根を寄せた留城也先輩がつぶやき、慌てたように、凪先輩が紘一先輩をわたしから引き離した。
「だから紘一、むやみに受験者と接触するな」
「いいじゃん。二次試験通過のお祝いなんだし。ねぇ、桂ちゃん」
戸惑ったわたしは、曖昧に笑顔をみせた。
男の人に抱きつかれるなんて経験がないから、大声をあげてしまったけれど。
考えたら、恰好良い紘一先輩と一緒に行動できるなんて、周りからすればオイシイ状況に見えるはず。
なんてことを考えていたら、わたしの気を引き締めるように凪先輩が、先生の言葉を引き継いだ。
「今回の試験内容は、確かに命にかかわるような危険じゃない。だが、自分の身に降りかかるトラブルや、周囲を巻きこむ可能性があるってことを理解し覚悟する試験だったってことだ。試験を続けていくのなら、その内容を経験値として積み重ねていけよ」
真面目に言葉を切った凪先輩だったけれど、すぐに、紘一先輩が笑いながら会話に割りこんできた。
「オレのときなんか、放課後に居残りさせられて、美術の人物画を描かされたんだ。モデルになってくれた女の子に先生が絵具を飛ばしてかけるのを、身体を張って阻止してさぁ」
「それは――楽しそうですけれど、大変でしたね……」
なんだ。
本当に毎回、こんな感じの試験なんだ。
そうだよ。
学校内の試験なんだものね。
命にかかわるような内容じゃないと感じて、わたしはほっとする。
でも、こんな試験、あと何回あるんだろう?
「そういえば。桂ちゃんのスペックってなに? オレってまだきみの能力がなんなのか、聞いていない気がするんだ。なにか教えて?」
急に紘一先輩に瞳をのぞきこまれ、わたしは言葉に詰まった。
見つめてくる真面目な表情の紘一先輩の視線は、調理実習中にじっと見つめてきた眼を思い起こさせた。
あのとき。
わたしはなにか、紘一先輩の気をひくような発言か行動をみせたのだろうか?
そして、わたしの頭の中で返事となる文章が作られる直前、今度は留城也先輩が割りこむように口をはさんできた。
「彼女自身、まだ能力がわからないあいだにコンピューターに選ばれたんだよ。紘一、わざわざ訊いて、いちいち心を読む真似、するんじゃねぇよ」
喧嘩腰ともとれる留城也先輩の態度に、すぐに相好を崩した紘一先輩は軽く返事をする。
「やだなあ、留城也。恐い顔をするなって。あ、そうなんだ。桂ちゃんの能力、早く特定されるといいね。能力がわかれば、力の磨きがいがあるってものだし」
そこまで紘一先輩が口にしたとき、シャワー室へと到着した。