新たな能力者・5
文字数 1,545文字
体育館を使用する運動部に所属していないわたしは、練習試合なども観に来ることがなかったために、初めてあがる二階だった。
階段正面には、手すりの前に置かれたベンチ型の観覧席が適度な間隔をあけて設置されている。
その後ろに、雨の日に走ることができるようにであろうか、幅広く一周がつながった廊下が造られていた。
ぐるりと見渡すと、もう体育館の向かい側へと移動していた彼が、わたしを呼ぶように手を振る。
まるで、鬼ごっこを楽しもうとしているかのようだ。
「ちょっと待ってくださいって!」
追いかけるしか術 のないわたしは、仕方なく走って追いかける。
当然彼も逃げる。
彼のほうは緩やかに走っている感じなのに、脚の長さのせいなのか追いつけず、結局二周まわったところで、彼が一階へと階段を駆けおりた。
そのまま外へ出てくれたら良いものを、今度は一階の体育館の中へと戻っていく姿が観覧席から見える。
「え~! マジですかぁ……」
充分体力を削られたわたしは、仕方なく追いかけるように階段を駆けおりると、体育館の中へ走りこんだ。
すると、今度はど真ん中で立ち止まっていた彼が、無防備に両手を広げて立っていた。
「息があがっているみたいだね。もっと体力をつけなきゃ」
そう言って笑顔を見せる。
ああ、馬鹿にしてる!
そして、本気でわたしと鬼ごっこをしているんだ、この人!
わたしは、膝に両手をつきながら肩で息をする。
「ほら。早く捕まえなきゃ、時間がどんどん経っちゃうよ」
そう言われて、ムッとしながら顔をあげた瞬間。
――わたしは彼の言葉で気がついた。
この人、まるでわたしに時間制限があることを知っているんじゃないの?
だとしたら、わたしに体育館へ行けと言った凪先輩の携帯電話の相手は、この彼ということになるのではなかろうか?
そう考えたとき、体育館の入り口で笑いを含んだ声がした。
「なんだ。まだ捕まえていないのか」
振り向くと、凪先輩が姿を現して体育館へ入ってくるところだった。
「ほら、制限時間を過ぎても報告に戻ってこなかっただろう? だから約束通り笑いにきてやったんだ」
そして本当に、わたしを指さして楽しそうに、大きな笑い声を立てた。
うわぁ、ムカつく!
わたしが両手を握りしめ、キッと凪先輩を睨みつける。
すると、わたしの視線に気づいた彼が、困った口調で凪先輩に声をかける。
「凪、笑いすぎ。彼女が可哀想だよ」
そんな彼に、思わずわたしは指をさして叫んだ。
「一番の原因は、あなたじゃないですかぁ!」
わたしの言葉に驚いた表情を浮かべた彼は、大きく目を見開いたあと、くしゃっと相好を崩して謝ってきた。
「ごめんごめん。そうだよね。ぼくが一番悪いよ」
そして、無抵抗をあらわすように両手をあげて、わたしに言った。
「ほら、特別。ぼくはもう逃げないから、捕まえてごらん?」
彼がそう言ったとたんに、凪先輩が我慢できないという感じで吹きだした。
なによ、このふたり。
わたしを馬鹿にして!
ふくれたまま、わたしは彼のほうへ歩きだすと、凪先輩が後ろから煽るように声をかけてくる。
「桂。彼のアバラを折るつもりで思いっきり抱きつきに行けよ」
わたしは、キッと凪先輩を振り返る。
怪力のことは内緒なのに、あんまり大きな声で言わないでよ!
それに、抱きつけだなんて恥ずかしい!
そんな抗議の言葉を視線に乗せたつもりだったんだけれど、まったく凪先輩には通じていない様子だ。
この一件を終わらせるために、わたしは不本意ながら仕方なく、のろのろと彼のほうへと近づいた。
階段正面には、手すりの前に置かれたベンチ型の観覧席が適度な間隔をあけて設置されている。
その後ろに、雨の日に走ることができるようにであろうか、幅広く一周がつながった廊下が造られていた。
ぐるりと見渡すと、もう体育館の向かい側へと移動していた彼が、わたしを呼ぶように手を振る。
まるで、鬼ごっこを楽しもうとしているかのようだ。
「ちょっと待ってくださいって!」
追いかけるしか
当然彼も逃げる。
彼のほうは緩やかに走っている感じなのに、脚の長さのせいなのか追いつけず、結局二周まわったところで、彼が一階へと階段を駆けおりた。
そのまま外へ出てくれたら良いものを、今度は一階の体育館の中へと戻っていく姿が観覧席から見える。
「え~! マジですかぁ……」
充分体力を削られたわたしは、仕方なく追いかけるように階段を駆けおりると、体育館の中へ走りこんだ。
すると、今度はど真ん中で立ち止まっていた彼が、無防備に両手を広げて立っていた。
「息があがっているみたいだね。もっと体力をつけなきゃ」
そう言って笑顔を見せる。
ああ、馬鹿にしてる!
そして、本気でわたしと鬼ごっこをしているんだ、この人!
わたしは、膝に両手をつきながら肩で息をする。
「ほら。早く捕まえなきゃ、時間がどんどん経っちゃうよ」
そう言われて、ムッとしながら顔をあげた瞬間。
――わたしは彼の言葉で気がついた。
この人、まるでわたしに時間制限があることを知っているんじゃないの?
だとしたら、わたしに体育館へ行けと言った凪先輩の携帯電話の相手は、この彼ということになるのではなかろうか?
そう考えたとき、体育館の入り口で笑いを含んだ声がした。
「なんだ。まだ捕まえていないのか」
振り向くと、凪先輩が姿を現して体育館へ入ってくるところだった。
「ほら、制限時間を過ぎても報告に戻ってこなかっただろう? だから約束通り笑いにきてやったんだ」
そして本当に、わたしを指さして楽しそうに、大きな笑い声を立てた。
うわぁ、ムカつく!
わたしが両手を握りしめ、キッと凪先輩を睨みつける。
すると、わたしの視線に気づいた彼が、困った口調で凪先輩に声をかける。
「凪、笑いすぎ。彼女が可哀想だよ」
そんな彼に、思わずわたしは指をさして叫んだ。
「一番の原因は、あなたじゃないですかぁ!」
わたしの言葉に驚いた表情を浮かべた彼は、大きく目を見開いたあと、くしゃっと相好を崩して謝ってきた。
「ごめんごめん。そうだよね。ぼくが一番悪いよ」
そして、無抵抗をあらわすように両手をあげて、わたしに言った。
「ほら、特別。ぼくはもう逃げないから、捕まえてごらん?」
彼がそう言ったとたんに、凪先輩が我慢できないという感じで吹きだした。
なによ、このふたり。
わたしを馬鹿にして!
ふくれたまま、わたしは彼のほうへ歩きだすと、凪先輩が後ろから煽るように声をかけてくる。
「桂。彼のアバラを折るつもりで思いっきり抱きつきに行けよ」
わたしは、キッと凪先輩を振り返る。
怪力のことは内緒なのに、あんまり大きな声で言わないでよ!
それに、抱きつけだなんて恥ずかしい!
そんな抗議の言葉を視線に乗せたつもりだったんだけれど、まったく凪先輩には通じていない様子だ。
この一件を終わらせるために、わたしは不本意ながら仕方なく、のろのろと彼のほうへと近づいた。