いきなり試験に突入です?!・7
文字数 1,811文字
これが、二次試験なんだ……。
けれど、それならどうして、部外者になる晴香の参加が認められたんだろう?
関係のない人を巻きこまないために、全校生徒を放課後に帰しているんじゃないの?
午前中の一回目のような座って受ける試験だってある。
だから、こんなケーキ作りが危険なことだとは思わないけれど、疑問に思ったわたしは、思わず声にだして訊いていた。
「先生。――なんで今回の調理実習に、晴香の立ち会いアドバイスをOKしたんですか?」
すると、先生はにっこりと満面の笑みを浮かべる。
そして、ある意味、わたしの危惧していた答えを口にした。
「ここは調理実習室。危険なことはないと思いますか? 一般家庭でも必ずキッチンってあるものよね。――噴きあがる炎。熱せられた油。凶器となる包丁やナイフ。割れるお皿の破片や食器棚のガラスでも充分武器となる。あらあら、危ないわね。こんなモノで実技試験をするのに、あなたのそばにいるだけで、関係がないのに危険なことに巻きこまれてしまうのね」
――先生は本気で、晴香を巻きこんで試験を行う気なんだ!
わたしと先生のやり取りをそばで聞いていた晴香だけが、きょとんとした瞳で首をかしげる。
そして、そっとわたしへ近寄り耳もとへ口を寄せると、わたしにだけ聞こえるような小声でささやいた。
「なにを心配しているの? 桂ちゃん。調理器具は、正しく使えば危険はないわよ。不器用な桂ちゃんでも大丈夫だから。ちゃんとわたしが見守っていてあげるわよ」
わたしが心配しているのは、晴香、あなたの身の安全よ!
かつてないくらいに緊張しながら、わたしはケーキ作りを再開する。
「あ~あ、桂ちゃん! 粉を周りに撒き散らさないようにしっかりふるうのよ!」
そう言われても。
力の加減が難しくて、ふと気がつけば粉がボールからはみ出てちゃう。
「桂ちゃん、あまりこぼすと、粉の量が変わっちゃう!」
チェックの厳しい晴香の小言にうなずいていると、遠くからも声が聞こえた。
「桂ちゃんの手作りが食べられるなんて、楽しみだなぁ」
一番奥の端のテーブルを囲んで座り、呑気に声をあげた紘一先輩の言葉に、わたしは背中に冷や汗が流れる。
どうしよう。
ひどい失敗作を出すわけにはいかない。
――あ。
でも、これが試験のための居残り口実だと思えば、わたしのケーキは、本来そんなにひどい出来だったわけじゃないってことじゃない?
ふと、そう思って心が軽くなったとたんに、先生が先輩たちに笑顔を向けた。
「彼女ひとりを残さなければならないくらい、彼女の完成させたケーキはひどかったのよ。覚悟なさってね」
――先生、わざわざ説明しなくても……。
「あー、桂ちゃん! 玉子を握り潰しちゃダメ!」
羞恥のあまり意識が違うほうへ向いたわたしは、思わず手にしていた玉子に力を加えていたようで、一動作ごとに晴香の叫びがあがる。
なんだか、昼間の調理実習よりもひどい状態になりそうよ。
材料を量り終わったわたしは、次の工程として型にバターを薄く塗る。
すると、急に先生がわたしの手もとに視線を移して、おもむろに話しだした。
「私は、お料理が好きなの。お裁縫も得意だし、お掃除もお庭のお花の手入れも大好き。年頃になったら教師という仕事を辞めて家庭に入って、ダンナさまのお世話をしながら大好きな家事に専念するのが夢だったの」
あんまり話しかけて欲しくないのに。
集中している手もとが狂っちゃう。
さっきは玉子だったけれど、うっかり型を握り潰しちゃったら大変だ。
それとも、わたしの集中力をそぐのが目的なんだろうか。
先生の話は、まったく試験とは関係のない内容に思えるんだけれど。
「なのに、どういうことでしょう。理想のダンナさまが見つからなかったせいで、私は教師という仕事を続けないといけないのよ。そのうえ、家庭科なんて副教科だと馬鹿にして真剣に授業を受けない学生に、いくら家庭科の良さを説明しても聞いてもらえず、こちらが真面目にやってられないわ」
どんどん話が違う方向へ向かっている気がして、つい、わたしは手もとから先生のほうへ目をあげる。
すると、口もとの両端を引きあげ笑みを浮かべたような顔をしながら、笑っていない眼をわたしへと向けていた。
けれど、それならどうして、部外者になる晴香の参加が認められたんだろう?
関係のない人を巻きこまないために、全校生徒を放課後に帰しているんじゃないの?
午前中の一回目のような座って受ける試験だってある。
だから、こんなケーキ作りが危険なことだとは思わないけれど、疑問に思ったわたしは、思わず声にだして訊いていた。
「先生。――なんで今回の調理実習に、晴香の立ち会いアドバイスをOKしたんですか?」
すると、先生はにっこりと満面の笑みを浮かべる。
そして、ある意味、わたしの危惧していた答えを口にした。
「ここは調理実習室。危険なことはないと思いますか? 一般家庭でも必ずキッチンってあるものよね。――噴きあがる炎。熱せられた油。凶器となる包丁やナイフ。割れるお皿の破片や食器棚のガラスでも充分武器となる。あらあら、危ないわね。こんなモノで実技試験をするのに、あなたのそばにいるだけで、関係がないのに危険なことに巻きこまれてしまうのね」
――先生は本気で、晴香を巻きこんで試験を行う気なんだ!
わたしと先生のやり取りをそばで聞いていた晴香だけが、きょとんとした瞳で首をかしげる。
そして、そっとわたしへ近寄り耳もとへ口を寄せると、わたしにだけ聞こえるような小声でささやいた。
「なにを心配しているの? 桂ちゃん。調理器具は、正しく使えば危険はないわよ。不器用な桂ちゃんでも大丈夫だから。ちゃんとわたしが見守っていてあげるわよ」
わたしが心配しているのは、晴香、あなたの身の安全よ!
かつてないくらいに緊張しながら、わたしはケーキ作りを再開する。
「あ~あ、桂ちゃん! 粉を周りに撒き散らさないようにしっかりふるうのよ!」
そう言われても。
力の加減が難しくて、ふと気がつけば粉がボールからはみ出てちゃう。
「桂ちゃん、あまりこぼすと、粉の量が変わっちゃう!」
チェックの厳しい晴香の小言にうなずいていると、遠くからも声が聞こえた。
「桂ちゃんの手作りが食べられるなんて、楽しみだなぁ」
一番奥の端のテーブルを囲んで座り、呑気に声をあげた紘一先輩の言葉に、わたしは背中に冷や汗が流れる。
どうしよう。
ひどい失敗作を出すわけにはいかない。
――あ。
でも、これが試験のための居残り口実だと思えば、わたしのケーキは、本来そんなにひどい出来だったわけじゃないってことじゃない?
ふと、そう思って心が軽くなったとたんに、先生が先輩たちに笑顔を向けた。
「彼女ひとりを残さなければならないくらい、彼女の完成させたケーキはひどかったのよ。覚悟なさってね」
――先生、わざわざ説明しなくても……。
「あー、桂ちゃん! 玉子を握り潰しちゃダメ!」
羞恥のあまり意識が違うほうへ向いたわたしは、思わず手にしていた玉子に力を加えていたようで、一動作ごとに晴香の叫びがあがる。
なんだか、昼間の調理実習よりもひどい状態になりそうよ。
材料を量り終わったわたしは、次の工程として型にバターを薄く塗る。
すると、急に先生がわたしの手もとに視線を移して、おもむろに話しだした。
「私は、お料理が好きなの。お裁縫も得意だし、お掃除もお庭のお花の手入れも大好き。年頃になったら教師という仕事を辞めて家庭に入って、ダンナさまのお世話をしながら大好きな家事に専念するのが夢だったの」
あんまり話しかけて欲しくないのに。
集中している手もとが狂っちゃう。
さっきは玉子だったけれど、うっかり型を握り潰しちゃったら大変だ。
それとも、わたしの集中力をそぐのが目的なんだろうか。
先生の話は、まったく試験とは関係のない内容に思えるんだけれど。
「なのに、どういうことでしょう。理想のダンナさまが見つからなかったせいで、私は教師という仕事を続けないといけないのよ。そのうえ、家庭科なんて副教科だと馬鹿にして真剣に授業を受けない学生に、いくら家庭科の良さを説明しても聞いてもらえず、こちらが真面目にやってられないわ」
どんどん話が違う方向へ向かっている気がして、つい、わたしは手もとから先生のほうへ目をあげる。
すると、口もとの両端を引きあげ笑みを浮かべたような顔をしながら、笑っていない眼をわたしへと向けていた。