闘えわたし! 平和のために! ・3

文字数 1,306文字

「そうそう、あと桂ちゃんの試験の件なんだけれど」

 留城也先輩が寄ってきたせいか、紘一先輩はころりと話題を変える。

「凪先輩と透流さんが今日、合格発表の日程を繰りあげてもらえるように本部へいっているんだよ。だからこうして、オレと留城也が桂ちゃんの護衛についているんだ」
「え? どうしてですか? だって……」

 そのまま続けようとしたわたしは、留城也先輩がそばにいることを思いだして、言葉を飲みこむ。
 そして代わりに、目に力をこめて紘一先輩をじっと見つめた。

 ――だって、わたしに脅迫状を送ってきたり襲ったりしたのは、紘一先輩なんでしょう?

 そんなわたしの言いたいことがうまく伝わったらしく、紘一先輩は口もとをゆるめた。

「さすが桂ちゃん、順応が早いなぁ。オレの能力を利用するほうへ回るとはね」

 そう前置きしたあと、紘一先輩は眉根を寄せた留城也先輩と目配せを交わす。
 そして、怪訝な表情を浮かべたわたしへ、紘一先輩はおもむろに告げた。

「桂ちゃんの周りに不穏な動きが確認されたって連絡が、本部から凪先輩のほうへはいったんだ。だから桂ちゃん、きみが体育の時間にみたマンションの屋上の人影は、残念ながら見間違いじゃないってこと」

 とたんに、わたしは正体不明の影に対する不安に駆られた。
 ――本当に、わたしの試験をうかがっている誰かがいる……。

 すると、うつむき加減となったわたしの顔をのぞきこみ、紘一先輩は明るい声をだした。 

「そんな暗い顔するなって。だから、オレたちがついているんだろう? 桂ちゃんはオレたちのことを気にせずクラス行事を楽しんできてよ。オレと留城也が勝手にふたりで、桂ちゃんが見えるところでデートしているから」
「なんで俺が男とデートしなきゃなんねぇんだよ」

 いかにも不満げな態度をありありとみせて、留城也先輩は文句を口にする。
 普段と変わりない余裕をみせるふたりに、わたしは、そんなにおおごとでもないのかなと思ってしまった。
 だって、実際には、わたしが怪しい人影を目撃しただけだもの。

 それでも、やはりわたしの顔色が悪く思えたのだろうか。
 そろそろ目的地となる駅が近づいてきたとき、不意に紘一先輩が、場の雰囲気を変えるように訊いてきた。

「ねえ、桂ちゃん。迷路の脱出法って知ってる?」

 迷路の脱出法?
 迷路の抜け方といえば、以前に聞いたことがある。
 たしかあれは、片方の手を壁に沿わせて歩けば必ずしも最短ではないけれど、最悪壁の長さぶん歩いて入口ないしは出口へたどりつくというものだ。

 そう思い浮かべながらうなずいたわたしへ、紘一先輩は満面の笑顔を浮かべて告げた。

「桂ちゃん。残念だけれど、今回の迷路にその方法は使えない。なぜなら、数カ所のポイントを回ったうえで、最後は迷路の中にある階段をあがらなきゃいけない立体迷路なんだ。かなり広いし、迷ったら二時間はでてこられないかもね」

 そして、脅すだけ脅すと紘一先輩は、たじろいだわたしを残して留城也先輩の腕をとり、開いたドアから目的地となる駅のホームへと一番に飛びだした。
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