いきなり試験に突入です?!・9

文字数 1,177文字

 先生の細かい妨害を阻止しながら、わたしはなんとかバウンドケーキを焼くところまでこぎつけた。
 焼いているあいだも、オーブンの前に張りついて、先生の動きに注意を払う。

「桂ちゃん、そんなに見ていたら疲れちゃうよ」
「だって! 目をはなしていたら焦げるかもしれないじゃない!」

 笑いながら口にする晴香に、わたしはキッと顔を向ける。
 けれど、すぐにオーブンへと視線を戻した。

 少しでも目をはなすと本当に、先生が温度設定を変えちゃうかもしれないじゃない?
 晴香は、先生がわたしの妨害をしているとは気づいていない。
 その上、自分が狙われていることも知らない。
 この段階で失敗して、もう一度作りなおしなんてことだけは、どうしても避けたいのよ。

 無事に三十分が経過して、わたしはオーブンの扉を開く。
 美味しそうな香りとともに、綺麗な焼き色のついたケーキが姿をみせた。

「やったぁ」

 安堵の息をつきながら、軍手をはめたわたしは、オーブンから型を取りだす。

「桂ちゃん、やったね。粗熱がとれたあと、うまく型から出さなきゃね」

 同じように軍手をはめた晴香が、笑顔で告げる。
 晴香がずっとついていてくれた。
 味はたぶん大丈夫なはず。
 あとは、お皿へ綺麗に盛りつけて、先輩たちに食べてもらうだけだ。

 晴香にケーキを見てもらっているあいだに、わたしは機嫌良く、けれど細心の注意を払って、ケーキクーラーを用意すべく移動しようとした。
 そのわたしの背後へ、先生が忍び寄ってきた。
 ハッと身構えるように振り向いたわたしへ、先生は笑顔を浮かべたままささやいた。

「あなた、私に一方的にやられるだけで、なんの反撃もできないの? それでいざというとき、友だちを護れるのかしら?」

 そこまで口にすると、ケーキの冷め具合をみている晴香へと視線を向ける。

 反撃?
 先生相手に反撃するなんて、考えてもみなかったけれど。
 それが今回の試験のクリア条件なんだろうか?
 確かに、ケーキがうまく焼けるかどうかじゃないと思っていたんだけれど。
 もしかしたら、今回の試験って、そこの部分をみる試験なの?

 けれど。
 ひとくちに反撃といわれても。
 あっと先生を驚かせられる、一発逆転できる反撃の方法……?

 そこまで考えたわたしは、足もとに注意が向いていなかった。
 そして、先ほどぶちまけたバター入りの生地のせいで濡れた床で滑り、空を切った手が、そばのテーブルの上へ置いてあった小麦粉の袋に引っかかる。
 きっちりと口をしめていなかった小麦粉の袋は、わたしの手によってテーブルの上から飛んだ。

 舞う小麦粉の袋。
 空中でこぼれる中身の粉。

 その瞬間、ひらめいたわたしは叫んでいた。

「晴香! できあがったケーキを護って!」
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