なんと別口で狙われているようですっ!・8
文字数 1,856文字
けれど、目の前の彼女が続けた言葉は半分だけ、わたしの予想をはずしていた。
「わたしは残念ながら彼女じゃないわ。それに、紘一くんにはいま、付き合っている女の子はいない。ただ、彼のことをよく知らないだろう後輩に、本当に心配だから教えてあげているの。紘一は二股をかけることはしないけれど、ひとりの女の子と付き合う期間が異常なくらいに短いのよ。あなたも悲しい想いをしたくないでしょう?」
「――それって、どういう意味ですか?」
「言葉通りよ。常に付き合う女の子はひとりだけ。その辺りは誠実なんだけれど、すぐに別れちゃうのよね。そして、すぐに違う彼女を作るの」
それって、誠実といえるのだろうか?
そう考えたわたしだけれど。
すぐに、あっと思いあたった。
なんでも相手の心が読めてしまう「覚」の能力を持っている紘一先輩だ。
みたくない相手の内面を、付き合ってそばにいる時間が長く増えることで、どうしてもみてしまう瞬間があるのではなかろうか。
なんて考えていたわたしの前で、二年の彼女は言葉を続けている。
「わたしだって、なれるなら彼女になりたいし。なれたら、絶対に長く付き合えるように努力するわよ」
薄っすら頬を染めて力説する彼女は、わたしからみて、純粋に可愛らしいと思った。
けれど。
はたして恋愛っていうのは、努力して付き合うものなんだろうか?
たしかに努力する部分はあるだろうけれど、それは付き合う前から付き合うことに対して考えることなのだろうか。
付き合うこと自体は、自然に惹かれ合うという前提ではなかろうか。
――そうなると、わたしはまだ、紘一先輩に惹かれているという部分が感じられない。
女の子扱いしてくれているところが、嬉しいだけだ。
ということは、わたしの中ではまだ、紘一先輩を恋愛対象には思えていないってことなんだな。
わたしは、舞いあがりかけていた気持ちを、ゆるりと地上へ引き戻す。
うん。
冷静な目で見つめられるようになったこれは、さみしいことじゃない。
うっかり急いで決断しなくて良かったと思わなきゃ。
わたしは笑みを浮かべ、彼女たちへ向かって告げた。
「先輩、いろいろ教えてくださってありがとうございます! わたしは紘一先輩のことを、恋愛対象ではなく先輩として慕っているのだとわかりました!」
はっきりと言い切ったわたしの言葉は、彼女たちの気勢をそいだようだ。
どうやら、先輩に従順な後輩という印象を与えたらしい。
「あ……そう。わかればいいのよ。わかれば。これからも態度に気をつけなさいよ」
拍子抜けをしたような表情で、三人はわたしが通れるほどの道をあける。
なので、わたしは丁寧に頭をさげて、無事に脱出することができた。
そうだよね。
紘一先輩は、付き合いを考えてっていったけれど、いまは大切な試験中だ。
まだ紘一先輩のことを、そんな目でみることができないし。
ここは先輩に従う素直で可愛い後輩の位置をキープしよう。
そう自分に言い聞かせながら、わたしは昼休み時間の終了ぎりぎりで教室に飛びこむ。
「桂ちゃん、遅い!」
すでに体操服へと着替え終わった晴香が、わたしを見つけて駆け寄ってきた。
五時間目のバレーボールは、運動場にポールを立ててネットを張るところからはじまる。
もうボールを触ることに慣れてきていたためか、準備運動のあとにすぐ試合となった。
六人制のグループが三組できていて、わたしは晴香と同じ班だ。
ボールが身体に当たるだけなら、異常なほどの力が加わるわけじゃなく、コントロールが悪くて変な方向へ飛ぶだけだ。
それはそれで困るけれど、サーブのときとアタックで打ちこむときだけ、とにかく世間の常識を逸しないようにと、わたしは細心の注意を払いながらボールを目で追った。
サーブ権が自分のチームへ移るたびに、コート内の位置が順番にいれかわる。
そして、わたしがネット際の真ん中になったとき、お約束通りにネットへ背を向け、晴香からのサーブを待つように視線をぐるりと巡らせた瞬間。
運動場のそばに建つ五階建てマンションの屋上に、人影を見た。
――誰だろう?
こちらに向いている顔は確認できない距離だけれど、あの背恰好は、知っている人のような気がする……。
あれは。
「桂ちゃん!」
晴香の叫び声がしたそのとき、振り向くわたしのおでこへ衝撃が起きた。
「わたしは残念ながら彼女じゃないわ。それに、紘一くんにはいま、付き合っている女の子はいない。ただ、彼のことをよく知らないだろう後輩に、本当に心配だから教えてあげているの。紘一は二股をかけることはしないけれど、ひとりの女の子と付き合う期間が異常なくらいに短いのよ。あなたも悲しい想いをしたくないでしょう?」
「――それって、どういう意味ですか?」
「言葉通りよ。常に付き合う女の子はひとりだけ。その辺りは誠実なんだけれど、すぐに別れちゃうのよね。そして、すぐに違う彼女を作るの」
それって、誠実といえるのだろうか?
そう考えたわたしだけれど。
すぐに、あっと思いあたった。
なんでも相手の心が読めてしまう「覚」の能力を持っている紘一先輩だ。
みたくない相手の内面を、付き合ってそばにいる時間が長く増えることで、どうしてもみてしまう瞬間があるのではなかろうか。
なんて考えていたわたしの前で、二年の彼女は言葉を続けている。
「わたしだって、なれるなら彼女になりたいし。なれたら、絶対に長く付き合えるように努力するわよ」
薄っすら頬を染めて力説する彼女は、わたしからみて、純粋に可愛らしいと思った。
けれど。
はたして恋愛っていうのは、努力して付き合うものなんだろうか?
たしかに努力する部分はあるだろうけれど、それは付き合う前から付き合うことに対して考えることなのだろうか。
付き合うこと自体は、自然に惹かれ合うという前提ではなかろうか。
――そうなると、わたしはまだ、紘一先輩に惹かれているという部分が感じられない。
女の子扱いしてくれているところが、嬉しいだけだ。
ということは、わたしの中ではまだ、紘一先輩を恋愛対象には思えていないってことなんだな。
わたしは、舞いあがりかけていた気持ちを、ゆるりと地上へ引き戻す。
うん。
冷静な目で見つめられるようになったこれは、さみしいことじゃない。
うっかり急いで決断しなくて良かったと思わなきゃ。
わたしは笑みを浮かべ、彼女たちへ向かって告げた。
「先輩、いろいろ教えてくださってありがとうございます! わたしは紘一先輩のことを、恋愛対象ではなく先輩として慕っているのだとわかりました!」
はっきりと言い切ったわたしの言葉は、彼女たちの気勢をそいだようだ。
どうやら、先輩に従順な後輩という印象を与えたらしい。
「あ……そう。わかればいいのよ。わかれば。これからも態度に気をつけなさいよ」
拍子抜けをしたような表情で、三人はわたしが通れるほどの道をあける。
なので、わたしは丁寧に頭をさげて、無事に脱出することができた。
そうだよね。
紘一先輩は、付き合いを考えてっていったけれど、いまは大切な試験中だ。
まだ紘一先輩のことを、そんな目でみることができないし。
ここは先輩に従う素直で可愛い後輩の位置をキープしよう。
そう自分に言い聞かせながら、わたしは昼休み時間の終了ぎりぎりで教室に飛びこむ。
「桂ちゃん、遅い!」
すでに体操服へと着替え終わった晴香が、わたしを見つけて駆け寄ってきた。
五時間目のバレーボールは、運動場にポールを立ててネットを張るところからはじまる。
もうボールを触ることに慣れてきていたためか、準備運動のあとにすぐ試合となった。
六人制のグループが三組できていて、わたしは晴香と同じ班だ。
ボールが身体に当たるだけなら、異常なほどの力が加わるわけじゃなく、コントロールが悪くて変な方向へ飛ぶだけだ。
それはそれで困るけれど、サーブのときとアタックで打ちこむときだけ、とにかく世間の常識を逸しないようにと、わたしは細心の注意を払いながらボールを目で追った。
サーブ権が自分のチームへ移るたびに、コート内の位置が順番にいれかわる。
そして、わたしがネット際の真ん中になったとき、お約束通りにネットへ背を向け、晴香からのサーブを待つように視線をぐるりと巡らせた瞬間。
運動場のそばに建つ五階建てマンションの屋上に、人影を見た。
――誰だろう?
こちらに向いている顔は確認できない距離だけれど、あの背恰好は、知っている人のような気がする……。
あれは。
「桂ちゃん!」
晴香の叫び声がしたそのとき、振り向くわたしのおでこへ衝撃が起きた。